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世界のエネルギー危機への対応策

~各国はどのような需要抑制策や家計支援策を行っているのか?~

田中 理

要旨
  • ホルムズ海峡の封鎖やエネルギー関連施設の破壊による影響の長期化で、世界のエネルギー資源の安定供給が脅かされている。中東湾岸地域からの化石燃料依存が高いアジア諸国を中心に、原油、天然ガス、石油由来製品の品不足も顕在化し始めている。
  • 世界各国はこうしたエネルギー危機にどのように対処しているのだろうか。IEAはイラン情勢悪化を受けた世界各国の政策対応を公表している。日本の政策対応を考えるうえでも参考となりそうだ。
  • エネルギー需要の抑制を目的とした措置としては、11ヶ国が「在宅勤務の奨励や義務化」、5ヶ国が「エアコンの使用温度の制限」、11ヶ国が「政府職員の航空機および自動車での移動制限」、5ヶ国が「学校・大学の休校または開校時間の短縮」、20ヶ国が「消費者への需要抑制の要請や義務化」、18ヶ国が「車両の使用制限、燃料の配給制、速度制限の引き下げ、公共交通機関の利用促進」を行っている。
  • 家計支援を目的とした措置としては、日本を含めた14ヶ国が「燃料価格の上限設定」、9ヶ国が「燃料補助金」、27ヶ国が「エネルギー税の軽減」を行っている。この他に、打撃の大きい企業を対象とした無利子融資、ガソリン・軽油の価格引き上げを1日1回に制限、年金生活者や低所得者を対象とした支援を提供する国がある。

2日(日本時間)の米トランプ大統領による演説後も、イランに対する軍事作戦の早期終結につながるかは不透明な状況が続き、ホルムズ海峡封鎖やエネルギー関連施設の破壊による影響の長期化で、世界のエネルギー資源の安定供給が脅かされている。中東湾岸地域からの化石燃料輸入の依存度が高く(図表1)、一次産業や二次産業の比率が高いアジアやアフリカ諸国を中心に、原油、天然ガス、石油由来製品などの品不足も顕在化し始めている。

図表
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国際エネルギー機関(IEA)は、エネルギー需要を抑制するうえで、政府、企業、家計が迅速に実施できる以下の10の対策を提示している。こうした措置が広く導入されれば、世界的なショックを和らげる一助になるとしている。

  1. 可能な限り在宅勤務を行う 通勤による石油消費を削減。特にリモートワークに適した職種において効果的。

  2. 高速道路の制限速度を少なくとも時速10キロ引き下げる 速度低下で、乗用車、バン、トラックの燃料消費量が削減。

  3. 公共交通機関の利用を促進する 自家用車からバス・電車への移行で、石油需要を迅速に削減。

  4. 大都市において、自家用車の道路利用を日ごとに交互にする(ナンバープレートによる規制) ナンバープレートによる規制制度は、渋滞と燃料消費の多い運転を減らす。

  5. カーシェアリングを拡大し、効率的な運転習慣を取り入れる 乗車率の向上とエコドライブにより、燃料消費を迅速に削減。

  6. 商用車および貨物輸送における効率的な運転 運転技術向上、車両メンテナンス、積載量最適化により、ディーゼル燃料の使用量を削減。

  7. 輸送分野からの液化石油ガス(LPG)使用の転換 2種類の燃料を切り替えるバイフューエル車や、ガソリン車やディーゼル車など内燃機関車を電気自動車に変換したコンバートEV車の燃料をLPGからガソリンに切り替え、調理やその他必須用途のためのLPGを確保。

  8. 代替手段がある場合は航空機利用を避ける ビジネス目的のフライトを減らすことで、ジェット燃料市場への圧力を迅速に緩和。

  9. 可能な限り、他の近代的な調理方法へ切り替える 電気調理やその他近代的な選択肢を推奨することで、LPGへの依存度を低減。

  10. 石油化学原料の柔軟性を活用し、短期的な効率化およびメンテナンス対策を実施する 産業界は迅速な運用改善を通じて石油消費を削減し、LPGを必須用途に振り向ける。

IEAはエネルギー市場の混乱に対応して各国政府が講じている措置を一覧にまとめ、ホームページで最新の情報を公表している(2026 Energy Crisis Policy Response Tracker)。日本の政策対応を考えるうえでも参考となりそうだ。

エネルギー需要の抑制を目的とした措置としては、4月2日時点で11ヶ国が「在宅勤務の奨励や義務化」、5ヶ国が「エアコンの使用温度の制限」、11ヶ国が「政府職員の航空機および自動車での移動制限」、5ヶ国が「学校・大学の休校または開校時間の短縮」、20ヶ国が「消費者への需要抑制の要請や義務化」、18ヶ国が「車両の使用制限、燃料の配給制、速度制限の引き下げ、公共交通機関の利用促進」を行っている(図表2)。新興国が多いが、先進国ではオーストラリアが燃料使用量の自主的な削減を、シンガポールが節電と省エネ家電の利用を国民に呼びかけている。韓国は、公務員に対して週2日の運転禁止義務付け、石油消費量の多い企業にエネルギー使用量の削減要請、週1日の自家用車の運転自粛を行っている。スロバキアとスロベニアは燃料の購入量に上限を設定している。スペインは、リフォーム、太陽光発電設備の設置、電化対策に対して個人所得税の減税措置を導入している。

図表
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家計支援を目的とした措置としては、14ヶ国が「燃料価格の上限設定」、9ヶ国が「燃料補助金」、27ヶ国が「エネルギー税の軽減」、11ヶ国が「その他の措置」を導入している(図表3)。日本はガソリンの小売価格を1リットル当たり170円程度に抑制することを目標に石油元売り会社に補助金を支給している。中国、クロアチア、チェコ、ハンガリー、韓国、ポーランド、タイなどが、日本と類似の燃料価格の上限設定を行っている。また、フランスとフィリピンが輸送関連・水産業・農家などを対象に、ギリシャが農家を対象に、英国は低所得層を対象に、燃料補助金を検討・提供する。オーストラリア、オーストリア、ブラジル、カンボジア、クロアチア、チェコ、インド、アイルランド、イタリア、フィリピン、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、トルコ、ベトナムなど多くの国がエネルギー関連税を軽減する。その他の措置としては、オーストラリアが打撃の大きい事業者への無利子融資を提供し、ドイツがガソリンスタンドでのガソリン・軽油の価格引き上げを1日1回に制限しているほか、アイルランドが年金生活者を対象に、ニュージーランドが低所得層を対象とした支援を提供する。

図表
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以 上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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