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- 英スターマー首相の続投は?
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6日の英国の地方議会選挙では、政権を率いる労働党と下野した保守党の二大政党が大幅に議席を失い、次の総選挙での政権奪取の機会を窺う右派ポピュリストのリフォームUKや、穏健左派票の受け皿となっている環境政党・緑の党が大幅に議席を伸ばした。労働党がウェールズ議会で最大政党の座を明け渡すのは史上初。スコットランド議会では、英国からの独立を支持するSNPが過半数に迫る議席を獲得し、英国分裂の火種も燻る。
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歴史的な大敗を受け、スターマー首相の退任を求める声が噴出している。スターマー氏は首相続投に意欲を見せるが、辞任は時間の問題との見方も少なくない。後任候補としては、マンチェスター市長のバーナム氏、レイナー元副首相、ストリーティング保健相などの名前が浮上している。最有力候補のバーナム氏の首相就任には、下院議員への復帰が必要となり、その場合、首相交代時期は後ずれする。レイナー氏は選挙後にバーナム氏の国政復帰を支持する発言をしており、後継首相レースから退く可能性がある。ストリーティング氏は次期首相就任に意欲をみせている。
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2024年の英国総選挙で14年振りに政権に返り咲いた労働党に対して、英国民から厳しい視線が注がれている。5月7日に行われた統一地方選挙では、イングランドの約5000の改選議席のうち、労働党が1496議席を失い、下野した保守党も563議席を失った。政権奪取を視野に入れる右派ポピュリスト政党・リフォームUKが1453議席を上積み、15の自治体で首長を輩出し、若者を中心に穏健左派票の受け皿となっている環境政党・緑の党も441議席を上積みした(図表1)。同時に行われたウェールズの議会選挙では、地域政党・ウェールズ党(プライド・カムリ)が最多票を獲得、リフォームUKが二番手につけ、労働党は三番手に沈んだ(図表2)。労働党がウェールズ議会で最大政党と第一首相の座を明け渡するのは104年の歴史で初となる。また、スコットランドの議会選挙では、英国からの独立を支持する地域政党・スコットランド人民党(SNP)が最多票を獲得し、2024年の下院選挙で躍進した労働党の票が伸び悩んだ(図表3)。
こうした傾向は、次の下院選挙を占う最近の世論調査からも確認できる。労働党と保守党の二大政党が大幅に支持を失うなか、リフォームUKが最多の支持を集め、緑の党も支持を伸ばしている。小選挙区制の英国ではこれまで、集票能力で他党を圧倒する二大政党に有利に働くことが多かったが、今回の選挙結果からは、こうした構図が当てはまらなくなってきたことが窺える。次の下院選挙では(議会任期満了まで待てば2029年)、リフォームUKと緑の党が二大政党を抑えて、多くの議席を獲得する可能性が高まっている。英国の二大政党制に綻びが広がっている。
歴史的な大敗を喫した選挙結果を受け、労働党内の40人近くの政治家や支持母体である労働組合の代表からは、スターマー氏の辞任を求める声が噴出している。スターマー氏の首相としての評価を尋ねた最近の世論調査では、「評価しない」との回答が70%を上回る。政権交代後に行われた2度の下院補欠選挙では、労働党が保持していた議席をリフォームUKと緑の党に奪われた。スターマー首相に対しては、イラン空爆を巡って米国と距離を置いたことや、堅実な実務運営能力を評価する声がある一方で、選挙での度重なる敗戦や、警察の捜査対象となっている駐米大使の任命責任などを巡って、責任を追及する声が浮上している。
ターマー首相は選挙結果を厳しく受け止めるとしながらも、「首相の座を退き、英国を混乱に陥れることはしない」、「私は5年の任期で党首に選任され、次の総選挙を党首として戦う」、「数日内に英国民が求める“変化”の実現に向けてのステップをまとめる」と発言。労働党の党首と首相を続投する意向を示唆しており、11日に政権浮沈に向けた演説を予定している。ウェスト下院議員(非閣僚)は、11日までに閣僚議員が党首選を要求しない限り、自らが名乗りを上げることを示唆している。労働党の党首選は、党首が自ら辞任する場合か、党所属議員が党首の辞任を求め、それを20%以上の下院議員(現在の議会構成では81名以上)が支持する場合に行われる。
今のところ閣内はスターマー氏の首相続投を支持しているが、同氏の辞任は時間の問題との見方も少なくない。後任候補には、マンチェスター市長のバーナム氏、レイナー元副首相、ストリーティング保健相などの名前が上がっている(詳しくは4月23日付けレポート「英スターマー首相はいよいよ窮地に」を参照されたい)。党内外で絶大な人気を誇るバーナム氏の首相就任には、下院議員への復帰が必要となるが、党執行部は2月の補欠選挙での同氏の出馬を認めなかった。同氏周辺は、今後の補欠選挙で下院議員に復帰したうえで、スターマー氏からの禅譲を目指す方針とされ、早期の総裁選を望んでいない。労働組合に近いレイナー氏は、副首相の辞任につながった住宅課税逃れ疑惑から立ち直っていないうえ、同氏の選挙区でリフォームUKの追い上げを許した。同氏は選挙後、バーナム氏の国政復帰を支持する発言をしており、次期首相候補レースから撤退する可能性も出てきた。逆に若手有望株のストリーティング保健相の選挙区では、リフォームUKや緑の党に圧勝した。同氏は党首選挙が行われる場合、立候補する意向を首相に伝えたとされる。
英国分裂の火種も燻っている。スコットランド議会選挙では、同地域の自治政府を率いるスコットランド人民党(SNP)が過半数に迫る議席を獲得した。同党は2024年の下院選挙でスコットランドの選挙区の多くを労働党に奪われたが、その後の労働党政権に対する失望や、英国からの独立やEU再加盟を求める有権者の支持を集めて党勢回復に成功した。SNPは今回の地方選挙を、英国政府との独立交渉の再開と2回目の住民投票実施の民意を測るうえで注目していた。ブレグジット前に行われた2014年の住民投票では、独立後の使用通貨、スコットランドを本拠地とする金融業の域外流出、採掘量が減少する北海油田への経済依存、独立後のEU加盟などを巡る不透明感が危機バネとして働き、無難な現状維持の残留票が独立票を上回った。スコットランド住民を対象とした最近の世論調査では、独立支持と残留支持が拮抗している。法的拘束力のある住民投票を実施するには、英国政府が国家の帰属を巡る憲法修正の権限をスコットランド議会に一時的に委譲する必要がある。英国政府がこれを認める可能性は低く、そのハードルは高いが、議会選挙での勝利を梃子に英国政府への圧力を強めることが予想される。



田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

