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英スターマー首相は夏に退陣か?

~バーナム氏の国政復帰を待って党首選実施へ~

田中 理

要旨
  • スターマー首相の辞任を求めてストリーティング保健相が14日に閣僚を辞任したが、与党・労働党の党首選につながる“党首チャレンジ”を即座に開始することを見送った。同日には、政治家人気度調査でリードするマンチェスター市長のバーナム氏が首相就任に必要な下院の補欠選挙に出馬し、国政に復帰する意向を固めたほか、レイナー元副首相の党首選出馬の障害になるとみられてきた印紙税逃れ疑惑も解決した。バーナム氏の国政復帰を待ったうえで、夏頃に党首選が行われ、ブレア路線の踏襲者とされるストリーティング氏、現職首相のスターマー首相、穏健左派のバーナム氏の三つ巴の戦いとなることが予想される。党内基盤を考えると、穏健左派が次期首相に就く可能性が高く、財政運営にどういった変化が起こるのかに注目が集まる。

14日付けレポート「ポスト・スターマーと英国の財政運営」で指摘した通り、ストリーティング保健相は14日、スターマー首相の指導力に対する信頼を失ったとして閣僚を辞任したが、与党・労働党の党首選につながる“党首チャレンジ”を即座に開始することを見送った。ストリーティング氏が首相に提出した辞表では、スターマー氏が次期総選挙で労働党を率いることはないと指摘したうえで、党首選を示唆する文言(a battle of ideas)と、可能な限り、広範な候補者による戦いとなることを求める文言(It needs to be broad, and it needs the best possible field of candidates)があり、マンチェスター市長のバーナム氏の国政復帰を待ったうえで党首選を行うことを示唆したものとされる。ストリーティング氏が党首チャレンジに必要な81名の党所属下院議員の支持が得られなかったのか、政治家人気度調査(図)でリードするバーナム氏抜きの党首選ではその後の政権運営の正当性が担保できないと考えたのかは不明だ。

そのバーナム氏はストリーティング氏の辞任表明の数時間後、国政復帰に向けて下院の補欠選挙に出馬する意向を表明した。スキャンダルの渦中にある労働党議員がバーナム氏の国政復帰への道を拓くため、下院議員を辞職することを決意したためだ。6月中にも補欠選挙が行われるとみられ、過去の補欠選挙でバーナム氏の出馬を認めなかった労働党の役員会は今回、同氏の出馬を認める方針とされる。補欠選挙が行われるイングランド北部の選挙区では、前回2024年の総選挙で、辞任する労働党議員が45.2%の得票率で議席を獲得したが、リフォームUKがそれに次ぐ31.8%の票を獲得した。マンチェスター市政を立て直した元閣僚経験者のバーナム氏には全国区の人気と知名度があり、補欠選挙での勝利が確実視される。もっとも、リフォームUKを率いるファラージ氏はあらゆる手段を用いてバーナム氏の勝利を阻止するとしており、総選挙後のリフォームUKの党勢拡大もあり、バーナム氏が足元を救われる恐れがないかは注意を要する。

後継党首のもう1人の有力候補であるレイナー元副首相の動きも活発だ。ストリーティング氏による党首チャレンジの可能性が高まった13日、レイナー氏の弁護士は、同氏が副首相兼住宅相を辞任するきっかけとなった不動産購入時の印紙税を過小に支払った疑惑について、税務当局に対して早期の調査終了を求める書簡を送った。税務当局は14日、未納分の支払いが行われ、全ての税務調査が終了したことを発表した。税逃れ疑惑が党首選出馬の障害になるとみられていたレイナー氏は、バーナム氏の国政復帰を求めていた。今回の税逃れ疑惑の係争終了が、党首選への出馬を睨んだ動きなのか、バーナム氏の首相就任時の閣僚復帰を目指す動きなのかは不明だ。党首チャレンジ後の党首選に出馬するには、チャレンジを開始した以外の候補も各々81名の議員の支持を取り付ける必要がある。穏健左派(ソフト・レフト)の立場が近いバーナム氏とレイナー氏が揃って出馬することは難しい。なお、バーナム氏かレイナー氏が穏健左派候補として党首選に出馬する可能性が高まったことで、ミリバンド元党首の出馬の芽は遠退いた。

スターマー首相は党首チャレンジが開始された場合、自身も出馬する意向を示唆している。6月の補欠選挙でのバーナム氏の国政復帰を待ったうえで、ストリーティング氏やバーナム氏が改めて党首チャレンジを開始し、夏頃に党首選が行われる可能性が高い。ブレア路線の踏襲者とされる中道寄りのストリーティング氏、現職首相のスターマー首相、穏健左派のバーナム氏(場合によってはレイナー氏)の三つ巴の戦いとなることが予想される。労働党が次の総選挙でリフォームUKと戦ううえで、全国区の知名度を持ち、党内外で幅広い支持を集めるバーナム氏は、最有力の候補となる。スターマー首相に対する信頼の欠如とストリーティング氏の党内基盤の弱さを考えると、バーナム氏が勝利する公算が大きい。金融市場の動揺を回避するため、極端な財政拡張には動かないにしても、財政運営にどういった変化が起こるのかに注目が集まる。

以 上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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