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- 経済分析レポート(Trends)
- ドイツのメルツ政権発足から1年
- 要旨
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- メルツ政権の誕生で高まったドイツ経済再生への期待が急速に萎んでいる。財政政策の転換による景気回復の胎動は、イラン情勢の悪化による資源価格の高騰で打ち消されてしまった。
- 米国との関係悪化も火種となりそうだ。メルツ首相が米国のイラン攻撃を非難した直後、トランプ大統領は、ドイツ駐留米軍の削減とEUの自動車関税の引き上げ方針を表明した。
- イラン情勢悪化による景気の下振れと金利上昇で、財政悪化は避けられない。予算協議を巡って、連立政権内の不協和音が高まりそうだ。
ドイツのメルツ首相の就任から6日で1年が経過した。欧州を代表する経済大国ドイツは近年、産業構造転換の遅れ、ロシア産化石燃料依存の脱却に伴うエネルギー価格の上昇、中国市場での自動車販売の不振、緊縮的な財政運営などを背景に構造不況に陥っている。2023・24年と2年連続でマイナス成長を記録し、2025年はプラス成長に復帰したが、緩慢な成長が続いている(図表1)。昨年2月の連邦議会選挙の結果を受け、連立政権内の足並みの乱れが目立った中道左派の社会民主党(SPD)が主導する三党連立から、中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)が主導する大連立に政権が交代した。リーダーシップの発揮に必ずしも積極的でなく、フランスのマクロン大統領との関係もぎくしゃくしていたショルツ首相が退任。自信家で、はっきりとした物言いが目立ち、マクロン大統領とのキミストリーが合いそうなメルツ氏が首相に就任した。政界を一時引退した後に産業界で成功し、経済通で知られる同氏の首相就任で、ドイツ経済の立て直しや産業競争力の回復への期待が高まった。

メルツ氏は政権発足以前から連立相手のSPDに働きかけ、柔軟な財政運営を縛っていた財政均衡ルール(債務ブレーキ)の見直しに成功し、大規模な財政拡張に舵を切った。欧州の防衛力強化やウクライナ支援の継続に向けて、防衛費を大幅に拡大している。また、緑の党(Grünen)が連立に参加した前政権の過度な環境重視姿勢を軌道修正し、エネルギー価格の抑制や産業界にも配慮した環境政策を推進している。だが、構造問題の解決やエネルギー価格の抑制に即効薬はなく、政権発足後の景気回復や構造改革の遅れに不満も広がっている。年明け以降、拡張的な予算案が本格始動し、景気回復の兆しも僅かに確認されていたが、イラン情勢の緊迫化による資源価格の高騰を受け、国民生活や経済活動に新たな打撃も広がっている。政権発足当初の期待は失望に変わり、メルツ首相の支持率も急落している(図表2)。

メルツ政権誕生後に回復したCDUの支持率は伸び悩んでおり、政権奪取を狙う右派ポピュリスト政党・ドイツのための選択肢(AfD)が再び逆転した(図表3)。9月の州議会選挙では、ザクセン=アンハルト州とメクレンブルク=フォアポンメルン州の2州で、右派ポピュリスト政党・ドイツのための選択肢(AfD)の圧勝が予想される。

メルツ首相にとって新たな火種となりそうなのが、米国のトランプ大統領との関係悪化だ。米国は5月1日、EUが通商合意を守っていないとし、EUからの自動車輸入に対する関税を15%から25%に引き上げる可能性を示唆した。現在も協議は継続中で、トランプ流の交渉戦略の一環とみられる。ドイツを名指ししたものではないが、現実に引き上げられれば、自動車産業への依存度が高いドイツ経済にとっては大きな痛手となる。米国は同日、約4万人のドイツ駐留米軍のうち約5千人を向こう半年から1年程度で削減する方針も明らかにした。米軍の削減計画は第一次トランプ政権時代から存在したが、このタイミングでの発表は、メルツ首相が4月末に米国によるイラン攻撃の戦略欠如、出口戦略のなさ、同盟国への事前協議の不足などを非難したことと無関係ではないだろう。
イラン情勢の深刻化を受け、ドイツ景気の下振れリスクが高まっているほか、金利上昇で利払い負担の増加が予想され、財政悪化が避けられない。予算協議を巡って、連立政権内の不協和音が高まりそうだ。4月末に政府が発表した来年度の予算見積もりでは、約200億ユーロの財源確保の目途が立っていないとされる。7月初旬に予定される来年度予算案の閣議決定に向け、優先政策、歳出削減、イラン情勢を理由とした政府の借入増加、債務ブレーキの更なる改正に向けての議論が活発化しよう。
田中 理
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