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2025.12.19
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メキシコ中銀は12回連続利下げも、ガイダンス修正で利下げ休止か
~来年前半にかけてのインフレ見通しを再度上方修正、利下げ休止が近付いている可能性~
西濵 徹
- 要旨
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メキシコ中銀は、12月18日の定例会合で政策金利を25bp引き下げて7.00%とすることを決定した。インフレ鈍化に伴い2024年3月から利下げサイクルに入り、一時は50bpへ拡大するなど緩和を加速させたが、足元ではコアインフレの高止まりを受けて利下げ幅を25bpに縮小しており、慎重に緩和を継続している。なお、今回の利下げは12会合連続である上、金利水準も2022年4月以来の低水準となっている。
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利下げの背景には、トランプ関税による景気への懸念がある。シェインバウム政権は、中国などによる迂回輸出を防ぐ追加関税を導入するなど米国の意向に沿うことで決定的な対立を回避している。しかし、足元の景気にブレーキが掛かるうえ、さらなる下振れが懸念される動きもみられ、中銀の利下げを後押しした。
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今回の決定も票が割れており、コアインフレの上昇に対する警戒は根強い。中銀は利下げサイクルの継続が適切としつつ、ガイダンスを修正し「金利調整のタイミングを検討する」という表現に留めている。また、来年前半にかけてインフレ見通しを上方修正するなど、物価の上振れリスクを注視する姿勢を強めている。
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通貨ペソは、米ドルの弱含みやメキシコの高い実質金利を背景に対ドルで堅調に推移している。先行きについてもFRBの動向などの外部環境に左右される展開が予想される。一方、日本円に対しては、高市政権の財政運営のほか、日銀の政策運営が変動要因となる可能性に注意が必要と考えられる。
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メキシコ銀行(中央銀行)は、12月18日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利を25bp引き下げて7.00%とすることを決定した。メキシコではここ数年、インフレが高止まりして中銀目標(3±1%)の上限を大きく上回る推移が続いたものの、2023年以降は鈍化の動きを強めたため、同行は24年3月にコロナ禍一巡後初の利下げに踏み切った。その後はインフレの再加速を理由に中銀は利下げを一旦休止させたものの、インフレが再び鈍化に転じたことを受けて24年8月に利下げを再開させた。さらに、年明け以降のインフレ率は中銀目標に収束したため、同行は25年2月から4会合連続で利下げ幅を50bpに拡大させるなど緩和ペースを加速させた。その後のインフレ率は目標域内にあるが、コアインフレ率は緩やかに加速して目標を上回っているため、25年8月以降は利下げ幅を25bpに縮小させるなど緩和ペースを減速させている。とはいえ、今回の利下げは12会合連続となるとともに、政策金利の水準も2022年4月以来の低水準となるなど、着実に緩和を前進させている。

同行が金融緩和を前進させる背景には、いわゆる『トランプ関税』がメキシコ経済に悪影響を与える懸念が影響している。メキシコと米国は陸続きの隣国であり、メキシコの輸出に占める対米比率は8割を上回るとともに、名目GDP比で約3割に達するなど経済面で米国との結びつきが極めて強い。こうしたなか、トランプ米政権はメキシコに追加関税を課すなど『圧力』を掛けたものの、シェインバウム政権は米国に従属しない戦略を取る一方、報復措置を自重して米国との関係悪化を回避する対応を取ってきた。結果、米国は個別財に対する追加関税にくわえ、メキシコからの全ての輸入品に25%の追加関税を課す一方、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に準拠した財は関税の対象外とすることで合意している。さらに、トランプ氏は第3国を経由して米国に輸出される『迂回輸出』を警戒するなか、メキシコ議会は同国と貿易協定を締結していない国からの輸入品に対して、来年1月から最大50%の追加関税を課す法案を可決成立させている。シェインバウム政権は、関税政策の目的について国内産業の保護としているものの、対象となるのは中国、インド、韓国、タイ、インドネシアといった国々であり、中国やその迂回輸出が疑われる国が多くを占める。このように、メキシコが米国の意向に沿った対応をみせていることも、トランプ氏がメキシコに比較的融和姿勢をみせる一因になってきたと考えられる。なお、トランプ氏は12月初め、メキシコが両国国境を流れるリオグランデ川から5年ごとに約175万エーカーフィート(約21.6億立方メートル)の水を米国に供給する義務を定めた条約(米国・メキシコ水条約)の違反を理由に5%の追加関税を課すことを警告したが、その後の協議を経て合意に至るなど事態悪化を免れている。しかし、7-9月の実質GDP成長率(改定値)は前期比年率▲1.14%と3四半期ぶりのマイナス成長となるなど、景気にブレーキが掛かるとともに、足元の企業マインドは大きく下振れしており、景気の不透明感が高まっている。こうした事情も、中銀の利下げ実施を後押ししていると考えられる。

会合後に公表された声明文では、今回の決定も前回に引き続き「4(25bpの利下げ)対1(据え置き)」と政策委員の間で票が割れており、これまで同様にヒース副総裁が反対票を投じたことを明らかにしている。この背景として、直近11月のインフレ率は緩やかに加速するも、前年比+3.80%と引き続き目標域内で推移するなど落ち着いている一方、コアインフレ率は同+4.43%と7ヶ月連続で目標を上回る伸びで推移するなど、インフレ圧力が強まる兆しがうかがえることが影響している。今回の決定について「為替レートの動向、経済活動の弱さ、世界的な貿易政策の変更に伴う影響の可能性を考慮した」上で、「これまで実施された金融引き締めの度合いを勘案して利下げサイクルを継続することが適切と判断した」と従来の考えを繰り返している。世界経済について「足元では減速傾向を強めている一方、主要国におけるインフレの動きは国ごとにバラつきが生じているが、コアインフレは総じて鈍化している」との見方を示している。一方、同国経済について「経済活動は弱含んでいるが、通貨ペソ相場は堅調な推移をみせている」ものの、「不確実性と貿易摩擦は景気を巡る重大な下振れリスクをもたらし続けている」との認識を示している。そして、物価動向について「食料品以外でインフレ圧力が高まる動きがみられる」としたうえで、「①ペソ安、②コアインフレの上昇、③コスト上昇圧力、④地政学リスクや貿易政策の混乱、⑤異常気象、による上振れリスクがくすぶる」との見方を示している。その上で、先行きの政策運営について「物価を巡るあらゆる要因を考慮に入れて、追加的な金利調整のタイミングを検討する」として、前回会合までの表現振り(さらなる利下げを検討する)を変更するなど、ガイダンスを修正した。さらに、25年末から26年前半にかけてのインフレ、及びコアインフレ見通しをわずかに上方修正しており、インフレ圧力の根強さがうかがえる。

金融市場においては、FRB(米連邦準備制度理事会)による利下げを受けて米ドル安が意識されやすい状況にあるうえ、実質金利(政策金利-インフレ率)のプラス幅の大きさなど投資妙味の高さも追い風に、通貨ペソの対ドル相場は堅調に推移している。先行きについては実体経済の不透明感は極めて高いものの、FRBによる追加利下げの可能性が見込まれ、ペソ相場は引き続き外部環境に左右される展開が続くであろう。一方、日本円に対しては、高市政権による「責任ある積極財政」路線が円安を招くとの見方が影響する一方、日銀による政策運営の行方にも影響を受ける可能性に注意する必要がある。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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