エコノミストの経済・投資の先を読む技法 エコノミストの経済・投資の先を読む技法

訪日外国人消費9.5兆円への下押し圧力

~燃油サーチャージが観光需要を冷やす~

熊野 英生

要旨
  • 原油高騰の余波は、航空運賃の燃油サーチャージ(燃油特別付価運賃)の上昇を通じて、訪日外国人観光客の減少へとつながる可能性がある。特に、サーチャージが高くなるのは、北米・欧州・オセアニア地域であり、そこからの観光客は1人当たりの消費支出が多いという特徴がある。
  • 産業別には、宿泊、外食、交通の分野に悪影響がより及びやすいとみられる。それぞれの市場では、訪日外国人の消費が以前に比べて存在感が増している。だから、ダメージも大きいと考えられる。
目次

原油高騰の波及

中東情勢の不安定化は、まだまだ先が見えない。原油価格も高止まりが続いている。その悪影響が、2026年後半の日本経済にはより大きく響いてくるだろう。ここで取り上げたいのは、国際線の燃油サーチャージの上昇が、訪日外国人消費を冷やすという影響である(図表1)。

図表
図表

日本の消費産業にとって、この訪日外国人消費は数少ない伸び代である。観光庁データによれば、2025年の訪日外国人消費額は約9.5兆円にも達する。2024年に比べて+13,292億円(前年比16.4%)も伸びた。これが、国際航空運賃の値上がりによって、2026年度は鈍化していきそうだ。

マクロ統計だけを見ていると、それがどのくらい大きなインパクトであるのかを理解できないと思う。例えば、内閣府のGDP統計では、家計最終消費支出の中には、この訪日外国人消費が含まれていない(輸出に含まれる)。そこで、全消費額(帰属家賃を除いた家計最終消費+訪日外国人消費)の増加に占める訪日外国人消費がどのくらいかを計算した。2025年度の全消費額が+11.6兆円増加したのに対して、訪日外国人消費は+8,722億円で、全体の7.0%(寄与度)である。一方、実質値(消費数量、客数のイメージ)では+3.6兆円のうち+5,517億円で、全体の15.3%である。消費市場の増加に対する寄与度でみると、訪日外国人消費の貢献度はそれほど小さいとは言えない。

今回の打撃は大きい

日本の航空会社(2社平均)の国際線・燃油サーチャージをみていると、2026年5月以降、地域別に増額されている(前掲図表1)。全路線を平均すると、2026年5~6月はそれまでの2~4月の1.86倍に増額されている。海外航空会社の料金が同様に上昇すれば、訪日する外国人観光客数もさすがに減っていくだろう。欧州から日本には、ドバイ経由で渡航できなくなった路線もある。

前に燃油サーチャージが大きく増えた時期は、2022年2月にウクライナ侵攻があって原油価格が高騰したときである。おそらく、当時も訪日客には相応のダメージが及んだと考えられる。しかし、時系列で訪日外国人消費の推移を調べると、コロナ禍の2022年頃はまだその規模は大きくなかった。つまり、当時は燃油サーチャージ要因で訪日外国人消費が多少減ったとしても、日本の事業者にはあまり打撃は大きくなかったと推察される(むしろコロナの影響が大きい)。実数でみても、2022年度の訪日消費額は1.7兆円に過ぎなかった。それに比べて、現在は2022年よりも遙かに消費規模が大きくなっている。だから、その反動も大きいはずである。

大きいのは欧米などの観光客

地域別にみて、打撃が大きいのは、北米・欧州・オセアニアの地域になる。もともと、これらは他の地域よりも平均所得が高く、日本での1人当たり消費額が大きい。観光庁データでは、訪日外国人の消費額は1人228,782円である(2025年)。米国は339,708円、英国は391,320円、フランスは359,869円、ドイツは392,251円、カナダは322,489円、オーストラリアは386,512円と軒並み平均額を1.4~1.7倍ほど超えている。そうした多くの消費額を日本に落としてくれそうな訪日客ほど、燃油サーチャージの悪影響を受けやすいと考えられる。これは、不都合な事実である。

国内産業へのインパクト

さて、消費産業の分野別にみて、どの分野が訪日外国人消費への依存度が高く、今後の打撃を受けそうなのだろうか。次に、そうしたインパクトを考えてみたい。

観光庁データでは、2025年の訪日外国人消費額9.5兆円の内訳は、宿泊費が3.5兆円、飲食費が2.1兆円、交通費が0.9兆円となっている(図表2)。この宿泊費には団体旅行パック料金も含まれている。

図表
図表

訪日外国人の宿泊費、飲食費、交通費はそれぞれの市場では大きな存在感になっていると推察される。そこで、マクロの消費額に総務省「家計調査」(全世帯)の構比を乗じて、各市場の規模を推計し、その中で訪日外国人の消費額がどのくらいのウエイトなのかを計算してみた。まず、宿泊費では、家計調査における宿泊料+国内パック旅行の支出が全体の1.67%になっていた。これにマクロの家計最終消費支出(除く帰属家賃)280.6兆円を掛けると、4.68兆円になる。訪日外国人の消費額3.5兆円(34,678億円)は、全体の42.6%(=3.47÷(3.47+4.68))ということになる。正直に言って、このウエイトの高さは驚きである。

同様に、飲食費2.1兆円についても計算すると、日本人の一般外食サービスが15.7兆円だから、11.6%のウエイトになる。交通費が0.9兆円に対して、日本人の鉄道・バス・タクシー・航空など運賃+ガソリン代が10.7兆円だから、8.1%という計算になる。

もしも、北米・欧州・オセアニアの地域の訪日外国人観光客が、燃油サーチャージなど中東情勢の緊迫化の悪影響を受けて減ってくると、宿泊・飲食・交通などの産業にも影響が及んでくるだろう。

対応策を考える

イラン攻撃のような出来事が起こる度に、観光需要はつくづく平和の配当なのだと感じてしまう。2020年のコロナではまさしく観光需要が干上がった。コロナ前は、3~4兆円だったインバウンド需要も、最近では9兆円台と2~3倍へと市場規模が膨らんでいる。最近、関西に仕事で出向くと、東京以上に訪日外国人を街中で目にする。増えすぎた外国人を嫌う人も多いが、経済的にはその外国人が観光業をはじめ、日本のサービス業を潤しているのは事実だ。東京都、大阪府、京都府の3地域だけで9兆円の需要の3分の2が集中していて、主要都市のいくつかでは猛烈なホテルの建設ラッシュが起きている。高市政権はあまり重視していないが、筆者は観光業は明らかに成長分野であるとみる。訪日外国人振興に消極的な人は、よくオーバーツーリズムと言うが、訪日外国人が3地域に過度に集中する様子は、むしろ「偏在ツーリズム」と言った方がよい。全体数を減らすのではなく、3都市に集中した観光客を全国に分散するという考え方が正解だとみている。

そして、最近の原油高騰のような外的ショックに対しては、さらに観光需要の頑健性を高める方策を考えていくことも重要だろう。

そこで、筆者は2つの対策があると考えているので紹介したい。1つは、燃油サーチャージの負担が相対的に小さい地域、近隣アジアからの訪日客を増やすことを狙うのである。2025年の訪日客数の内訳では、全体4,268万人のうち、韓国946万人、台湾676万人、香港252万人、タイ123万人を併せて、46.8%に達する(日本政府観光局)。2025年11月以降、中国からの訪日客の減少をこれらの地域からの増加が穴埋めした。日韓関係は、以前よりも良好になっていて、平和の配当として訪日客も増えている。その流れをさらに加速していくことが重要になる。

もう1つは、欧米・オセアニア地域向けの観光は、非価格競争力を高めることである。米国、欧州、オーストラリアの3地域からの訪日客数は、2025年度753万人(シェア17.6%)と多い。その訪日客の内訳では、初めて日本を訪問する以外に、2回3回と来てくれるリピーターが増えている。彼らは、旅行費用が多少高騰しても、日本旅行の魅力を重視して旅行回数を増やしてくれる大切なファンである。その中には、買い物や主要観光地巡りよりも、日本文化を体験し、長期滞在を楽しんでくれる方々が増えている。コト消費の愛好者たちである。

そうした日本観光の質的な追求は、非価格競争力を増して、「日本でなければいけない」という選好を高めることになる。いずれは、日本は円安に頼った産業振興を卒業していく必要があるので、やはり観光産業においても非価格競争力へのシフトが重要になる。

熊野 英生


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ