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猛暑対策として地球温暖化対策を推進せよ!

~化石燃料消費を抑制しよう~

熊野 英生

要旨

異常な猛暑を経験して、やはり地球温暖化が加速していると感じた。東京都の平均気温のトレンド線を引いても、気象庁などが引用する推計よりもハイペースで7月、8月の平均気温は上昇しているようだ。政府は、中国、米国、インドなどを巻き込んで温暖化対策に取り組む必要がある。化石燃料の価格支援などをしている場合ではない。

気温上昇は加速?

例年感じてきたことだが、夏の暑さが異常である。たまたま「今年が暑い」という確率的な変動に当たったこともあろうが、ここ2・3年の間はずっと7月、8月とも高温である。趨勢的な変化として地球温暖化を自覚せざるを得ない。温室効果ガスの排出を長年続けてきた結果として、趨勢的に気温上昇が進んで、たまたま暑くなる効果と合わさって、耐え難い気温にまで達しているというのが実情だろう。

環境省、国立環境研究所、JAXAの観測では、2024年のCO2の年平均濃度は特に大きく上がったとされる。コロナ後の経済活動の活発化が同時にCO2排出を加速させていると理解できる。今後、AI需要が高まり、データセンターの電力需要が爆発しそうなことを勘案すると、CO2濃度はさらに上がりそうだ。

いずれ、その結果が温室効果を通じて、じわじわと気温上昇に寄与していくのだろう。気象庁などが地球温暖化の説明として使うのは、世界で100年間で+0.76度の気温上昇という数字だ。日本は1991~2020年までの平均と100年平均(1989~2024年)との間では+1.40度とされる(区切りを10年間にすると+0.14度)。

しかし、気温上昇はもっと早いのではないかと筆者は感じてしまう。厳密な計算ではないが、気象庁の東京都の月間平均気温がどのように推移しているのかを、7月と8月で調べてみた(図表1、2)。すると、趨勢的に上がっていることがわかった。トレンド線を25年と35年で引いてみると、10年間に+0.24~+0.43度というハイペースになっていた。気象庁のデータでも、最近になるほどに観測される気温上昇が加速していたので、100年間の推計を25年間または35年間にするともっと上向きになることは容易に想像ができた。気温上昇の趨勢は、気象庁や国際的組織IPCC(気候変動に関する政府間パネル)などが示している数字よりも大きいことは、自分でラフな計算をすれば何となくわかることだ。

非協力ゲームの理論

筆者が「暑さ対策として、脱炭素の活動を加速させましょう」と声高に言ったところで、社会全体で脱炭素化に真剣に取り組む機運は高まらないだろう。自分一人が化石燃料を使わないことが、気温の低下に寄与するインパクトがあまりにも小さいからだ。「自分がやらなくても、誰かがやってくれる」という感覚になってしまうのも仕方がない。しかし、これでは経済学でいうところの非協力ゲームの罠に陥る。自分の利得を最大限にしようと化石燃料を使っていると、静かにかつ着実に温暖化が進んで、猛暑により不利益を受ける結果を招く。地球温暖化、つまり猛暑などの弊害は、外部不経済なのである。

ちょうど気温上昇が目立ち始めた2022年頃から、生鮮食品の価格上昇も加速している。消費者物価の生鮮食品・前年比は、2022年+8.1%、2023年+7.4%、2024年+7.0%と著しい伸びになっている。これも異常気象が原因で例年のように起こっている現象だ。

しかし、温暖化の弊害を強く意識する人でさえ、すぐさま地球温暖化のために身銭を切って支出しようとは思わないはずだ。例えば、炭素税を課税して、その税金を使って炭素固定化のために森林を増やしたり、干潟・アマモ場を作って海洋プランクトンによる炭素固定を推進しようというお誘いに皆さんは乗るだろうか。筆者は、国民の腰は重いと感じる。これは、自分一人の努力が、気候改善に寄与するインパクトがあまりにも小さいからだ。成果が顕在化するまでの時間軸が長すぎるから、大切な温暖化対策の優先順位を、人々はどうしても後回しにしてしまう。

メディアをみても、ほとんどすべてのニュースが、猛暑について完全に外的要因として捉えている。残念ながら、経済活動の副作用だという自覚は乏しい。そうした副作用が市場メカニズム(価格)に織り込まれる体制ではないから、長く放置されて温暖化が進んでしまう。この点については、昔の経済学者が公害問題に取り組んで、積極的に発言してきた活動の履歴を知っている。筆者にはそうした経済学者の著作によって啓蒙された記憶が残っているので、今、自分なりに情報発信をしている。

大局的に考えて、私たちがこうした非協力ゲームの罠から脱するには、政府や有識者を中心に啓蒙活動を推進し、広く国民と対話することが不可欠である。発電、輸送、産業活動など、CO2排出の大所に関しては月々どのくらい排出しているのかを「見える化」して、その抑制を心がけることが必要だろう。消費者も、企業ごとに脱炭素化に熱心な先を選別して、製品・サービスの購入を優先するという姿勢も大切になる。「自分がやらなくても、誰かがやってくれる」というマインドセットを、「自分がやるから、誰もがやってくれる」という風に変えることが、脱炭素化に向けて協力ゲームの体制に動くための「ミクロ的基礎」になると思う。日々、私たちはCO2を排出しながら生きている代わりに、能動的にそれを削減する施策に賛成し、政府や企業などを通じて推進してもらう責任があると思う。

政府の役割・日本の使命

日本のCO2排出量は、年間10.1億トン(2024年、Energy Institute統計)で世界第5位になる(環境省は2023年度10.2億トンと発表)。しかし、それでもシェアは2.8%に過ぎない。

大きなシェアを占めるのは、中国(31.5%)、米国(13.0%)、インド(8.3%)の3か国であり、この3つで全体の5割超(52.8%)にもなる。世界中の排出量は355億トン(2024年、Energy Institute統計)にも及ぶ。

日本だけで温暖化対策をやっても仕方がないと考えるよりも、目に見える成果を求めて、日本が上位3か国を説き伏せて、世界の半分以上を脱炭素化に動かそうと考える方が建設的だろう。これが日本の役割とも言える。

国ではないが、EUも日本に近い排出量であり、日本はEUと連携する方法がある。全体の約6割の排出国・地域が連携することで、脱炭素化を加速させられると考えられる。

目下、米国はトランプ政権の下で脱炭素化には極めて消極的であるが、この政権も3年半後に交代する可能性がある。トランプ政権の先を見据えて、地球温暖化対策に戻ってきた後の体制づくりを構想してもよいと思う。

トランプ関税に敵意を感じている国々は多いので、反保護主義の連携を築くための動機付けはかつてなく強まっていると推察される。そこに加えて、脱炭素化のアライアンスも設けられないだろうか。

最後に、国内的には脱炭素化を無視するような、ポピュリズムが台頭し始めていることに注意喚起を促したい。ガソリンの暫定税率を廃止し、化石燃料の使用をより促進するような野党の提案と、それに合意する与党の変化である。物価対策として、弊害を顧みずにてっとり早くやろうという姿勢は賛成できない。回り回って、異常気象は生鮮品などの価格高騰にもいずれ跳ね返ってくる。

むしろ、脱炭素と燃料コストの低下を両立させる発想が求められる。例えば、原発再稼働を推進する方が建設的であろう。そうやって、日本全体で排出量をネットで減らしていく。化石燃料の使用に向けて暴走しようとする政治の動きに対しては、冷静さを要求するのが政府、与党、有識者の役割であろう。厳密な話をすれば、ガソリン支援については、専門家たる霞ヶ関の人材にも協力してもらい、CO2排出量増加など政策コストを計算し、それを市場メカニズムの中で抑制する対案を提示してもらうことも一案だ。具体的により強力な脱炭素化を進めることが、他国に賛同を求めていく日本の責任にもつながる。

熊野 英生


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熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

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