インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国、25年4-6月成長率は+5.2%に鈍化、堅調さも課題は多い

~成長率目標のハードル低下も、内需は政策頼み、外需に不透明感、ディスインフレ圧力など課題山積~

西濵 徹

要旨
  • このところの中国経済は、不動産市場の低迷と若年層の雇用回復の遅れが重なり、個人消費をはじめとする内需は力強さを欠く推移が続いた。さらに、米中摩擦に加え、コロナ禍やウクライナ戦争を経た世界的なサプライチェーンの見直しなどを追い風に、外需を取り巻く環境も悪化している。こうしたなか、中国当局は政策総動員により内需拡大と不動産市場の下支えを図ってきた。さらに、米国以外の輸出拡大を目指すなか、足下の人民元安が輸出競争力を高めるとともに、米中関係の改善も重なり外需を下支えしている。
  • 4-6月の実質GDP成長率は前年比+5.2%と前期(+5.4%)から鈍化するも堅調な推移が続き、今年前半の経済成長率も+5.3%と政府目標(5%前後)を上回っている。ただし、実質成長率と名目成長率の逆転に加え、乖離も拡大するなどデフレ圧力は強まっている。足下の鉱工業生産はハイテク製造業を中心に堅調に推移するなど、供給サイドが景気のけん引役となっている。一方、小売売上高は中国当局の消費喚起策に依存する展開が続く。また、固定資産投資は鈍化傾向が続き、なかでも不動産投資は回復の兆しがみられず、市況も下落が続くなど、資産デフレをきっかけにしたデフレ圧力が一段と強まっているとみられる。
  • 足下の中国経済は総じて政策支援に強く依存する展開が続く。米中関係や内需の自律回復が不透明ななか、先行きの成長の持続性には不安がのこる。過剰生産能力やデフレ圧力の克服といった構造問題が今後の課題となるなか、その行方は中国のみならず、世界経済のリスク要因となる可能性に要注意である。

ここ数年の中国経済を巡っては、不動産不況による資産デフレに加え、コロナ禍を経た若年層を中心とする雇用回復の遅れも影響し、個人消費をはじめとする内需は力強さを欠く展開が続いてきた。さらに、ここ数年は米中摩擦に加え、コロナ禍やウクライナ戦争をきっかけにした世界的な分断、リスク低減を目的とするサプライチェーンの見直しの動きも追い風に、外需を取り巻く環境も厳しさを増している。このような状況を受けて、中国当局は昨年半ば以降、財政政策と金融政策を総動員し、内需喚起や不動産市場の下支えに注力するなど政策転換を図った。さらに、トランプ米政権の誕生により米中摩擦が一段と激化することを念頭に、3月の全人代(第14期全国人民代表大会第3回全体会議)では米国以外の国や地域向けの輸出拡大、多国間や二国間、地域的な経済協力の深化による外需下支えを図る方針が示された。このように内・外需の掘り起こしを図ることを前提に、中国当局は今年の経済成長率目標を「5%前後」と昨年と同じ水準とするなど強気の姿勢を維持した(注1)。

こうしたこともあり、年明け直後の中国景気は、中央や地方政府レベルで実施されている消費喚起策を反映して、その対象財を中心に個人消費が押し上げられているほか、企業の設備投資が活発化する動きが確認されている。さらに、いわゆる『トランプ関税』の発動を前に対米輸出に駆け込みの動きが出たことも重なり、内・外需双方で拡大する動きが確認されるなど、経済成長率目標の実現に向けたスタートダッシュに成功した(注2)。その一方、その後は4月のトランプ米政権による相互関税の発動、中国による報復措置を受けて米中双方が報復を応酬させた結果、互いに高関税を課す貿易戦争に発展するなど外需の下振れが懸念された。しかし、5月のスイスでの閣僚協議を経て米中双方が報復関税を撤廃した上で、関税の上乗せ分を90日間停止して継続協議を行うことで合意し、翌6月の英国での協議では追加的な了解事項でも合意するなど、関係改善の兆しがうかがえる。ただし、一連の米中協議では、中国が世界の精製能力の大半を独占するレアアース(希土類)の扱いが焦点となるなど、見通しが立ちにくい状況は変わらない。そして、トランプ氏は中国が世界精製量の大半を握る銅、医薬品への追加関税のほか、中国が加わるBRICS諸国への追加関税を示唆するなど、『中国包囲網』の構築を目指す動きをみせる。こうした事情も、米中関係の行方を不透明にすると見込まれる。

このように、足下の米中関係には雪解けの兆しがみられる一方、不透明要因も山積するなど見通しが立ちにくい状況が続いている。他方、中国当局が上述のように米国以外への輸出拡大を目指すなか、足下の人民元は主要貿易相手国通貨に対して調整する『実態的な』人民元安が進むなど、価格競争力の向上を通じて輸出を押し上げることが期待される状況にある(注3)。こうした動きが追い風となり、足下の中国の外需は、米中関係の改善を受けて米国向け輸出が底打ちの兆しをみせる一方、人民元安を追い風に米国以外の国や地域向けの輸出は堅調に推移し、景気を下支えしている(注4)。さらに、昨年後半以降の中国当局による内需喚起策の効果が続いているほか、こうした動きを追い風に製造業を中心とする企業は生産活動を活発化させており、過剰生産能力が懸念されるものの、景気の底堅さを示唆する動きがみられた。こうしたなか、4-6月の実質GDP成長率は前年同期比+5.2%と前期(同+5.4%)から鈍化したが、年前半の経済成長率は+5.3%と政府目標を上回る伸びとなっている。また、4-6月の成長率は前期比+1.1%と前期(同+1.2%)からわずかにペースは鈍化しており、年率ベースでは+4.5%と前期(同+4.9%)から4四半期ぶりの伸びに留まったと試算されるも、足下の景気は緩やかに拡大する動きが確認されている。ただし、4-6月の名目成長率は前年同期比+3.9%と前期(同+4.6%)から伸びが大きく鈍化しており、国内の物価上昇率を示すGDPデフレーターの伸びがマイナスとなるなど、デフレ基調が一段と深刻化していることに留意する必要がある。

図表
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なお、月次の経済指標の動きをみると、6月の鉱工業生産は前年同月比+6.8%と前月(同+5.8%)から加速して3ヶ月ぶりの伸びとなるなど、供給サイドをけん引役にした景気拡大の動きが続いていることを示唆している。前月比は+0.50%と前月(同+0.61%)からペースは鈍化するも拡大が続いているほか、年明け直後の拡大ペースが上方修正されるなど、堅調に推移している様子がうかがえる。分野別では、鉱業(前年同月比+6.1%)や製造業(同+7.4%)で伸びが加速しているほか、製造業のなかでもハイテク関連(同+9.7%)で高い伸びが確認されるなど、引き続きハイテク製造業が生産活動をけん引している。業種別でも、ハイテク製造業に当たる電気機械関連(前年同月比+11.4%)やコンピュータ・通信・電子機械関連(同+11.0%)で引き続き高い伸びが続いているほか、内・外需の堅調さを反映して自動車関連(同+11.4%)や鉄道・造船・航空宇宙関連(同+10.1%)も高い伸びで推移するなど、生産拡大の動きをけん引している様子がうかがえる。個別財の生産動向を巡っても、企業部門による省力化投資を中心とする設備投資需要を反映して産業用ロボット(前年同月比+37.9%)やサービス用ロボット(同+18.3%)は高い伸びが続いている。また、個人消費喚起策を反映して新エネルギー車(前年同月比+18.8%)を中心とする自動車生産の拡大が続くとともに、スマートフォン(同+8.4%)をはじめする電気機械関連、その生産に必要な集積回路(同+15.8%)やマイコン(同+6.4%)の生産も拡大傾向が続いている。一方、世界的な再生エネルギー需要の高まりを反映して、太陽光電池(前年同月比+24.1%)や発電機(同+26.1%)も高い伸びが続いており、中国メーカーが世界シェアの上位を占めるなか、その勢いは一段と強まっている。

図表
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一方、個人消費の動向を反映する小売売上高は5月に予想外に伸びが加速する動きがみられたものの、6月は前年同月比+4.8%と前月(同+6.4%)から鈍化して4ヶ月ぶりの伸びとなるなど、前月に上振れした反動が出ている様子がうかがえる。前月比も▲0.16%と前月(同+0.69%(←同+0.93%から下方修正))から一昨年4月以来となる減少に転じているほか、過去に遡って下方修正される動きが確認されている。3月の統計公表に際しては、過去に遡って上方修正されたことに伴い昨年後半以降の個人消費が拡大傾向を強めてきたとされたが、そうした見方に変化が必要になっていると捉えられる。さらに、対象別の小売売上高の伸びをみると、中国当局による消費喚起策の効果を反映して商品向け(前年同月比+5.3%)は比較的堅調な動きをみせるも、外食関連(同+0.9%)の伸びが大きく鈍化しており、浪費や腐敗防止を目的に励行する「倹約令」がディスインフレ圧力を増幅させるとともに(注5)、消費活動にも影響を与える様子がうかがえる。財別では、消費喚起策の対象である自動車(前年同月比+4.6%)の伸びは鈍化するなど需要が一巡しつつあるものの、家電関連(同+32.4%)や家具(同+28.7%)、文化・事務用品関連(同+24.4%)、通信機器関連(同+13.9%)などで高い伸びが確認されるなど、自動車以外の耐久消費財向けの需要が喚起されている。また、倹約令の影響が懸念されるものの、宝飾品(前年同月比+6.1%)は堅調な動きをみせる一方、化粧品(同▲2.3%)や医薬品(同▲0.7%)に対する需要は弱含んでいるほか、住宅需要の弱さを反映して建材(同+1.0%)も力強さを欠くなど、足下の個人消費は政策支援に左右される展開が続いている。

図表
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企業部門の設備投資や不動産投資、公共投資などを合わせた固定資産投資を巡っては、不動産不況が足かせとなる形で力強さを欠く推移をみせるなか、6月も年初来前年比+2.8%と前月(同+3.7%)から鈍化している。当研究所が試算した単月ベースの前年同月比も伸びも6月は+0.6%と前月(同+2.2%)から鈍化しており、昨年11月以来となる低い伸びとなるなど頭打ちの動きを強めている。前月比も▲0.12%と前月(同+0.33%)から減少に転じており、過去に遡って上下双方に修正が行われた結果、3ヶ月ぶりの減少に転じるなど底入れの動きに一服感が出ている様子がうかがえる。実施主体別では、国有企業(年初来前年比+5.0%)は引き続き堅調な動きをみせる一方、民間投資(同▲0.6%)は弱含むなど対照的な動きをみせている。さらに、投資対象別でも、中国当局による設備更新支援の動きを反映して設備投資関連(年初来前年比+17.3%)は高い伸びをみせる一方、建設関連(同+0.1%)は力強さを欠くなど、投資活動も政策支援に左右されている。また、6月の不動産投資は年初来前年比▲11.2%と前月(同▲10.7%)からマイナス幅が拡大しており、当研究所が試算した月次ベースの前年同月比の伸びも▲11.5%と前月(同▲10.9%)からマイナス幅が拡大するなど頭打ちの動きを強めている。住宅投資に加え、オフィス向けや商業用不動産も軒並み弱含んでおり、中国当局による需要喚起に向けた支援強化にもかかわらず改善の兆しはみえない。6月の新築住宅価格は前年同月比▲3.2%と前年を下回るほか、前月比も▲0.3%と前月(同▲0.2%)から下落ペースも加速しており、実勢に近い中古住宅はすべての都市で下落している。

図表
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上述したように、今年前半の経済成長率は+5.3%と政府目標(5%前後)を上回る伸びを維持する一方、足下の内需は中国当局の政策支援に強く依存している様子がうかがえる。一方、外需は人民元安による価格競争力の向上に加え、米中関係の改善期待が下支え役となる動きがみられる。しかし、先行きは米中関係の行方に加え、トランプ米政権の関税政策の行方も見通せず、極めて不透明感が高い。さらに、内需は政策支援への依存を強めるなど自律的な状況にほど遠いなか、支援効果が一巡した後には反動による下押し圧力が掛かる懸念はくすぶる。よって、金融市場においては中国当局が景気下支えに向けた追加対策に動くとの観測が強まることが予想される。しかし、昨年後半以降における政策総動員にもかかわらず、足下の不動産市況には改善の兆しがみえず、資産デフレの深刻化がバランスシート調整圧力を通じて幅広い経済活動の足かせとなる状況が続いている。中国当局による対策はいずれも『対症療法』の域を出ていない上、需要に不透明感がくすぶるなかでも供給サイドをけん引役にした景気拡大を志向する展開が続くなか、先行きはこうした状況が中国のみならず、世界経済全体の混乱を招く要因となる可能性もある。中国当局にとっては、当面の課題である成長率目標のハードルが低下していることは望ましいかもしれないが、過剰生産能力、デフレ圧力など克服すべき課題が山積する状況は変わっていない。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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