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2025.07.09
アジア経済
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中国、当局の対症療法が続くもディスインフレ圧力の根強さは歴然
~倹約令の一方で価格統制も、中国当局の悩みは尽きず、今後も対症療法を繰り返す展開が続くか~
西濵 徹
- 要旨
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- 米中関係は、米トランプ政権の関税政策に翻弄されている。一時は貿易戦争に発展したが、閣僚協議を経て合意に至るなど改善の兆しがみられる。しかし、中国が精製能力の大部分を占めるレアアースが協議の「切り札」となるなか、協議の行方は見通しにくい状況が続いている。その後も米国は様々な関税を課す動きをみせており、今後もトランプ氏の一挙一動に振り回される展開が続くことは避けられないであろう。
- 金融市場では、米トランプ政権の政策運営への不透明感を理由に米ドル安が進んでいる。人民元の対ドル相場は緩やかに上昇しているが、中国の貿易相手国通貨に対する通貨バスケットは大幅に調整するなど、実態的には人民元安が進んでいる。中国当局による人民元の変動抑制により実態的な人民元安に誘導することで、中国以外の国・地域向け輸出拡大により経済成長率目標の達成を図ろうとの意図がうかがえる。
- 中国当局は内需喚起に動いているが、不動産市況の低迷による資産デフレ圧力がディスインフレ圧力の元凶となっている。さらに、世界経済の不透明感による商品市況の低迷もディスインフレ圧力を招いており、6月の生産者物価は調達価格が前年比▲4.3%、出荷価格が同▲3.6%とともにマイナスで推移し、下落の動きを強めている。消費者物価は同+0.1%とわずかにプラスとなるも、食料品価格の下落に加え、中国当局による「倹約令」がサービス物価の重石となるなど、ディスインフレ基調が続く状況は変わっていない。
- 中国当局は不動産市況の安定化に努めるが、若年層の雇用回復の遅れが需要の足かせとなり、市況調整に歯止めが掛からない。過剰生産能力など構造問題への対応も望まれるが、成長率目標の達成を重視するなかで構造改革は期待できない。中国国内におけるディスインフレ圧力は長期化する可能性が高い。
米中関係を巡っては、米トランプ政権による関税政策に翻弄される展開が続く。米トランプ政権は自動車や鉄鋼製品、アルミ製品に対して追加関税を課すとともに、4月にはすべての国に一律10%、一部の国・地域に税率を上乗せする相互関税を発動した。その後は中国が報復措置に動いた結果、米中双方が報復を応酬して高関税を課す貿易戦争に発展した。しかし、5月のスイスでの閣僚協議を経て、双方が報復関税を撤廃した上で、関税の上乗せ分を90日間停止して追加協議を行うことで合意した。なお、その後の実務者協議では交渉の行き詰まりが懸念されたほか、米国は鉄鋼製品やアルミ製品への追加関税を大幅に引き上げた。しかし、先月の英国での閣僚協議では、両国がスイス協議での合意事項を再確認した上で、追加的な了解事項でも合意するなど関係改善の兆しがうかがえる。その一方、一連の協議では、中国が世界の精製能力の大半を独占するレアアース(希土類)や永久磁石の扱いに焦点が当たるなど、レアアースが中国にとって協議の『切り札』であることが浮き彫りとなっている。さらに、トランプ氏は中国が世界精製量の大半を握る銅のほか、医薬品に対する追加関税を表明するとともに、中国が加わるBRICS諸国への追加関税を表明するなど『圧力』を強める動きをみせる。トランプ氏の言動を巡っては、「TALO(暴言)」と「TACO(尻込み)」が繰り返されたことに鑑みれば、一連の動きも同様の展開をみせる可能性はある。とはいえ、金融市場はその一挙一動に振り回されることは避けられない。
金融市場においては、米トランプ政権の政策運営を巡る不透明感が米ドル安を招いており、人民元の対ドル相場も緩やかに上昇する動きがみられる。こうした動きを反映して、このところは人民元の対ドル相場も緩やかに上昇する動きが確認されている。他方、金融市場では米中関係の改善を期待したリスク選好の動きが強まるなか、米ドルは主要通貨のみならず、新興国通貨に対しても調整の動きを強めてきた。その結果、中国の主要貿易相手国の通貨を加味した通貨バスケットであるCFETS(中国外為取引センター)人民元指数は調整の動きを強めており、足元では2021年初以来の安値となるなど『実態的』には人民元安が進んでいる(注1)。これは、中国当局が人民元の対ドル相場に管理変動相場制を採用しており、変動相場制を採用する主要通貨などに比べて変動が抑えられていることが影響している。さらに、中銀(中国人民銀行)が各営業日前に公表する基準値設定を巡って、中国当局による恣意性が疑われており、米ドルに対しては緩やかな人民元高を容認しつつ、実勢としては人民元安を目指している可能性がある。

これは、3月の全人代(第14期全国人民代表大会第3回全体会議)において、米中摩擦の激化を念頭に米国以外の国・地域向けの輸出拡大により、対米輸出減の影響軽減を目指す姿勢を示したことに整合的である。事実、足元の輸出の動きをみると、新興国向けのほか、EUやカナダなど米国との関係悪化が懸念される主要国・地域向け輸出が拡大しており、対米輸出の大幅減の影響が相殺されている。よって、中国当局は今後も経済成長率目標の達成に向けて外需喚起への取り組みを強化する可能性は高いと見込まれる。その一方、中国当局は成長率目標の達成に向け、個人消費や企業部門の設備投資の喚起を図るべく、補助金や減税などの取り組みを強化させている。足元の経済指標をみると、補助金の対象である財などで需要が押し上げられるとともに、企業部門による設備投資も底入れする動きが確認されている。結果、企業マインドも製造業を中心に底堅い動きが確認される一方、サービス業は対照的に力強さを欠く推移をみせており、内需の弱さを示唆している。さらに、近年の中国の経済成長をけん引した不動産投資が弱含むなか、市況低迷による資産デフレ圧力が幅広い経済活動の足かせとなるとともに、中国国内におけるディスインフレ圧力やデフレ懸念の元凶になっていると捉えられる。

中国国内におけるディスインフレ圧力を巡っては、世界経済の不透明感の高まりを受けた商品市況の低迷も影響しているとみられる。6月の生産者物価(調達価格)は前年同月比▲4.3%と29ヶ月連続のマイナスで推移するとともに、前月(同▲3.6%)からマイナス幅が拡大するなど下振れしており、前月比も▲0.7%と前月(同▲0.6%)から12ヶ月連続でマイナスとなるなど下落傾向が続いている。種類別でも、エネルギー関連や金属関連、非鉄金属関連など幅広く原材料価格に調整圧力が強まる動きが確認されるなど、企業部門においてはコスト上昇圧力が後退している様子がうかがえる。こうした状況を反映して、6月の生産者物価(出荷価格)も前年同月比▲3.6%と33ヶ月連続のマイナスで推移するとともに、前月(同▲3.3%)からマイナス幅も拡大するなど下振れしており、前月比も▲0.4%と前月(同▲0.4%)から7ヶ月連続で下落しており、川上段階から川中、川下段階にかけて物価下落圧力が伝播している。種類別では、中間財関連で軒並み価格が下落する動きが確認されるなど、原材料価格の下落の動きが反映されているほか、消費財関連の価格も幅広く調整する動きがみられ、消費者段階にかけて物価上昇圧力が高まりにくい状況にある。資産デフレに加え、若年層を中心とする雇用回復の遅れも家計部門の財布の紐を固くしている上、中国国内におけるEC(電子商取引)の活発化も影響して価格競争が激化していることも物価の重石になるなか、企業部門の価格決定行動に下押し圧力が掛かりやすくなっているとみられる。また、上述したように実勢としては人民元安が進んでいるものの、商品市況は米ドル建てで取引される傾向があるなか、米ドルに対しては緩やかに上昇していることも輸入物価を下押ししている可能性も考えられる。

このように川上段階から、川中、川下にかけてディスインフレ圧力が強まる動きがみられるものの、6月の消費者物価は前年同月比+0.1%と前月(同▲0.1%)から5ヶ月ぶりのプラスに転じている。ただし、前月比は▲0.1%と前月(同▲0.2%)から2ヶ月連続で下落しており、ディスインフレ圧力が後退していると判断するのは早計と捉えられる。足元の物価下落の動きを巡っては、果物(前月比▲3.3%)や卵(同▲2.9%)、豚肉(同▲1.2%)など生鮮品をはじめとする食料品価格が軒並み下落するなど、生活必需品を中心に物価上昇圧力が後退していることが影響している。なお、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率は前年同月比+0.7%と前月(同+0.6%)からわずかに伸びが加速しているものの、前月比は+0.0%と前月(同+0.0%)から2ヶ月連続の横這いで推移しており、物価上昇圧力が高まっている訳ではない。さらに、インフレ率、コアインフレ率ともに3月の全人代で設定した目標(2%前後)を大きく下回る推移が続いている。消費財のみならず、サービス物価も横這いで推移する動きが確認されており、物価上昇圧力が高まりにくい状況にあると捉えられる。また、中国当局は浪費や腐敗防止を目的とする『倹約令』を励行しているが、その結果として外食需要が下振れするとともに、関連するサービス物価の重石となっている可能性がある。他方、先月末の全人代常務委員会は、ECにおける価格競争の是正を目的とする改正反不正当競争法を可決し、今後は価格統制を強化する方針を示しているものの、こうした対応が根強いディスインフレ圧力の払しょくに繋がるかは不透明である。

中国当局は、ディスインフレの元凶となっている不動産市況の安定を目的に、金融緩和や規制緩和などの取り組みを強化しているものの、住宅需要のボリュームゾーンである若年層を中心とする雇用回復の遅れが相場の足を引っ張る展開が続いている。結果、足下では一部の大都市で需要に底打ちの兆しがみられるものの、大半の都市では下落に歯止めが掛からない状況が続いている上、実勢に近いとされる中古住宅価格はほぼすべての都市で下落基調が続くなど、バランスシート調整圧力が掛かりやすい展開は変わらない。中国国内における過剰生産能力もディスインフレ圧力を招く一因となるなか、こうした構造問題への対応を強化することが望ましいものの、経済成長率目標の達成を重視する姿勢が変わらないことに鑑みれば、大幅な構造転換を期待することは難しい。よって、中国国内におけるディスインフレ圧力は長期化する可能性に留意する必要がある。
注1 7月2日付レポート「米ドル安の背後で進む「実態的な」人民元安」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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