インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

2025年全人代開幕、次期5カ年計画への基盤強化を目指す方針

~目標はほぼ維持しつつリスク要因は山積する一方、AIを重点分野に据えるなど野心的な内容も~

西濵 徹

要旨
  • 中国では5日に全人代が開幕した。足下の中国経済は内・外需双方で不透明要因が山積するなか、全人代でどのような方針が示されるかが注目された。昨年を巡っては、建国75周年という節目の年に国内外で問題が山積するなかでも並外れた発展を遂げるとともに、様々な問題がクリアになったと自画自賛している。その上で、今年は第14次5カ年計画の最終年であり、来年からの第15次5カ年計画に向けたスタートダッシュを切る上で重要な年であるとして、その基盤強化を図る必要があるとの認識を示している。

  • 今年の経済成長率目標は昨年と同じ「5%前後」とした上で、都市部で昨年と同じ「1200万人」の新規雇用を創出して失業率を「5.5%前後」とする目標を掲げている。また、具体的な政策運営では「より積極的な財政政策」と「適度に緩和的な金融政策」に動く方針をあらためて示した上で、財政出動を通じて内需の掘り起こしを図るとともに、外需面でもグローバルサウスを中心に影響力向上を図る考えを示した。さらに、投資の効率化を図るべくAI分野を重点化しており、テック企業への関与をこれまで以上に強めていくと見込まれる。

  • 他方、ここ数年問題化している不動産市況の食い止めを目指すとしているが、需給双方に不透明感がくすぶる。さらに、その表裏にある地方債務問題も事実上棚上げ状態にあるほか、金融リスクを巡る問題もここ数年同様の展開が続く可能性に留意する必要がある。また、対内直接投資の推奨を謳うがここ数年の政策や世界的な分断の動きを勘案すれば見通しは立ちにくい。そして、台湾問題を含めて対外関係は強硬姿勢を維持する見通しであり、地域情勢を巡る不透明要因となり続けることにも留意する必要がある。

  • 日本としては、中国の高まる「異質性」に留意しつつ、如何に対峙していくかを冷静に考える必要性は高い。

中国では5日に全人代(第14期全国人民代表大会第3回全体会議)が開幕した。ここ数年の中国経済を巡っては、不動産不況が幅広い経済活動の足かせとなるとともに、コロナ禍を経た若年層を中心とする雇用回復の遅れも重なる形で個人消費をはじめとする内需は力強さを欠く推移が続いている。よって、中国景気は外需への依存を強める展開をみせてきたものの、米トランプ政権は先月に中国からのすべての輸入品に10%の追加関税を課し、昨日(4日)付で関税率を20%に引き上げるなど、外需を取り巻く環境は厳しさを増している。こうしたなか、中国当局は昨年半ば以降に家計部門を対象とする耐久消費財の買い替え促進(以旧換新)に加え、企業部門を対象とする大規模設備の更新促進など、内需喚起に向けた動きを強めてきた。さらに、その後も経済政策について『より積極的な』財政政策と『適度に緩和的な』金融政策としており、なかでも金融政策のシフト転換は世界金融危機直後以来であるなど、総合的、かつ積極的な政策運営に舵を切る動きをみせた。よって、昨年末にかけての中国景気は底入れの動きを強めるとともに、通年の経済成長率は政府目標(5%前後)をクリアすることに成功した(注1)。しかし、先行きは外需の下振れに加え、内需も『先喰い』の反動が懸念されるなど不透明要因が山積するなか、全人代においてどのような方針が示されるかが注目された。

全人代は例年通り、李強首相による昨年の総括と今年の目標を示す「政府活動報告」を読み上げる形でスタートした。昨年の同国経済について、建国75周年という節目の年であったなか、昨年7月に開催した3中全会(第20期中央委員会第3回全体会議)での統治機構改革の実現に加え、国内外に様々な困難があるなかで安定と発展を実現しつつ並外れた発展を遂げたとの認識を示した。その上で、内政、外交の両面で大きな成果を上げるとともに、経済面ではデジタル化の推進や都市と農村のバランスの取れた発展を実現したほか、環境や文化、福祉などの面でも様々な問題がクリアされたとしている。そして、そうした成功の背後に『習近平の新時代の中国の特色圧社会主義思想』と、それに基づく党中央の強力な指導と、国全体としての団結による努力があるとするなど、自画自賛のオンパレードとなる例年通りの内容となっている。他方、足下の同国が直面する課題として、米トランプ政権の通商政策などを念頭に「この100年間に類をみない形での変化が世界中で起こるなど外部環境は複雑、かつ深刻化しており、貿易、科学技術などの分野で中国により大きな影響を及ぼす可能性がある」とした上で、同国では「雇用と所得に圧力が掛かるなかで消費が低迷しており、需要を強力に押し上げる必要がある」と指摘している。その上で、今年が「第14次5カ年計画」の最終年であることを念頭に、その目標と課題を高次元でクリアするとともに、「第15次5カ年計画」への良好なスタートダッシュを切るべく強固な基盤を作ることが重要との認識を示している。

そして、今年の成長率目標について「5%前後」と昨年から据え置いており、その理由に国内外の状況を考慮した上で、雇用の安定とリスク低減、国民生活の安定を図る観点から潜在力に沿った水準との見方を示している。しかし、上述のように足下の中国経済は内・外需双方に不透明要因が山積するなか、過剰供給能力がくすぶるなど需給ギャップが広がる状況が続くとともに、新興国においては中国による『デフレの輸出』とも呼べる動きがみられる。こうしたなかで供給サイドを中心とする形で引き続き高い経済成長を目標に据えたことは、中国経済が内包している過剰債務、過剰生産能力、過剰在庫といった問題を一段と深刻化させるリスクを孕んでいる。また、ここ数年の全人代では雇用政策が重視される傾向がみられるなか、今年も都市部での新規雇用を「1200万人以上」創出するとの昨年の目標を維持するとともに、都市部の調査失業率も「5.5%前後」とする昨年の目標を維持している。他方、足下の物価動向はゼロ近傍で推移しており、不動産不況による資産デフレをきっかけに本格的なデフレに陥る懸念が高まっているものの、インフレ目標は「2%前後」と昨年(3%前後)から引き下げるなどより現実的な目標設定にシフトさせた。

図表1
図表1

具体的な政策運営を巡っては、昨年12月の党中央政治局会議でのスタンス変更を反映して「より積極的な財政政策」と「適度に緩和的な金融政策」に動く方針をあらためて示し、財政赤字を「GDP比▲4%(5.66兆元)」と赤字幅を拡大させるとともに、通常予算に含まない特別債の発行枠を「1.3兆元」と昨年(1兆元)から拡大し、地方政府による特別債(専項債)の発行枠も「4.4兆元」と昨年(3.9兆元)から拡大させるなど、財政への依存度を一段と強める様子がうかがえる。一方、目標実現には質の向上と量の合理的な成長が不可欠とした上で、「消費を積極的に促進して投資効率を高めて内需を全方位で拡大させる」とともに、「対外開放の拡大や国際協力の拡大を通じて内・外需の相互促進と相互作用の実現を図る」とするなど、内・外需双方で『掘り起こし』を強化する考えを示している。とはいえ、上述したように内需では耐久消費財を中心に補助金政策による需要の先喰いの動きが顕在化している上、不動産市況の動向も依然として見通しが立たない状況が続くなか、過度な政策依存を強めればその『止め時』が困難になる事態が予想される。他方、欧米など主要国が中国製品の流入を警戒する動きを強めるなか、中国企業はアジアや中南米、アフリカなどいわゆる『グローバルサウス』と呼ばれる新興国での影響力拡大を目指す動きを活発化させている。しかし、これらの国々でも中国のデフレの輸出や中国製品の過剰流入が自国産業に悪影響を与えることを警戒する向きがみられるなど、外需を取り込むことのハードルが高まっていることに留意する必要があろう。

また、投資効率化の観点では、第14次5カ年計画の重点分野での投資促進や支援強化とともに、許認可権限の簡素化を通じて促進を図るほか、民間資本の参画を通じて幅広く投資拡大を図るとしている。そうした動きを通じて質の高い生産力や近代的な産業システムの構築を加速化させるとともに、科学技術と産業の革新化を一体化した上で新たな工業化を強力に推進し、先進的な製造業の拡大と強化を促すほか、現代的なサービス業の積極的な発展を促すとしている。具体的にはバイオ関連や量子技術、エンボディドAI(身体性を持つAI)、6G(第6世代移動通信システム)といった『未来の産業』の育成に取り組むとともに、若手技術者やエンジニアに対する強力な支援のほか、ユニコーン企業やガゼル企業を支援するとしている。さらに、伝統産業の変革と向上を推進するとともに、デジタル分野における革新的な変化を促すべく、大規模AIモデルの応用に加え、次世代のインテリジェント端末・スマート製造端末の積極的な開発を推進するとしており、先月初めに習近平国家主席が主催した座談会に多数のテック企業のトップが顔を揃えるなど党・政府との共同歩調がうかがわれたが(注2)、政府活動報告においてこうした分野が言及されたことはそうした傾向が一段と強まる可能性を示している。

そして、不動産市場を巡っても下落の食い止めや安定に向けた努力を払うとした上で、規制緩和を通じて都市部における老朽化住宅の改善のほか、潜在的な需要創出に向けた取り組みを強化するとしている。その上で、低所得者向けの住宅融資機会を拡大させるとともに、不動産開発を巡るモデルの改善に取り組むことにより建設促進を図るとしている。なお、足下では昨年来の支援策の効果も影響して一部の大都市で不動産市況に下げ止まりの兆しがみられる一方、地方都市においては依然として底がみえない展開が続いているほか、実勢価格に近い中古住宅に至ってはほぼすべての都市で下げ止まりの兆しがみえないなど、家計部門はバランスシート調整圧力に晒される状況が続いている。そもそも住宅需要のボリュームゾーンに当たる若年層を中心とする雇用回復が遅れていることが需要減退の一因になっていることに鑑みれば、規制改革などに依存した不動産市場対策がどこまで奏功するかは見通しにくい。さらに、不動産市場と裏表の関係にある地方債務問題についても、リスクを安全に解決するとして発展と債務削減のバランスを図る、債務管理システムも市場志向型へのシフトを目指すとしているものの、具体的な方策は示されないなど現状は『棚上げ』状態が続く可能性に留意する必要がある。よって、金融分野におけるリスクについても積極的に防止するとしているものの、同様に具体的な方策を示していないことに鑑みれば、過去数年同様の形で据え置かれる可能性に留意する必要があろう。

なお、このところの米中摩擦の動きに加え、世界経済が分断の様相を強めるなかで世界的にサプライチェーンの見直しの動きが広がるなかで対内直接投資に大きく下押し圧力が掛かるとともに、昨年は中国市場からの撤退の動きが活発化するなかで流出超となる動きが頻発する事態となっている。こうした事態を受けて、海外からの投資は強く奨励されているとした上で、サービス産業の開放拡大を図るとして具体的にインターネットや文化関連のほか、電気通信、医療、教育などの分野でも試行的な開放の動きを拡大させるとしている。さらに、自由貿易試験区や海南自由貿易港、経済技術開発区、総合保税区などを通じた受け入れの積極化を図るとしているが、世界的に中国を巡る『リスク』が意識されやすくなるなかでこれまでと異なる状況となる可能性に留意が必要である。また、外交関連では多国間、二国間、地域的な経済協力の深化を図るとしており、ASEAN(東南アジア諸国連合)を念頭にした自由貿易圏の強化のほか、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)への参加プロセスの推進を掲げている。他方、台湾問題を巡っては従来からの「九二共識」を堅持して台湾独立に断固反対する考えを示すとともに、国家統一の推進を図るとしており、今年度予算でも軍事費の大幅増(+7.2%)による軍の近代化を進める動きと相俟って地域情勢を巡る不透明要因となる展開は続くと予想される。

図表2
図表2

その意味では、中国を巡る『異質性』はこれまで以上に高まるとともに、世界的な分断の動きが不可逆的に進むと見込まれるなか、日本としては如何に中国と対峙するかを冷静に考える必要がある。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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