インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

南ア・ランドはなぜか強いが、不安要因山積で中銀は利下げ再開

~金価格の上昇や投資妙味の高さが影響も、実体経済やファンダメンタルズの脆弱さには課題が多い~

西濵 徹

要旨
  • 南アフリカ準備銀行(SARB)は、29日の定例会合で政策金利を25bp引き下げ7.25%とする決定を行った。昨年後半以降の利下げ局面で4回目、累計100bpの利下げとなる。インフレがSARBの定める目標の下限近傍で推移している上、足元のランド相場が底入れしていることも利下げを後押ししている。他方、慢性的な電力不足やトランプ関税など外部環境を巡る不透明感が実体経済の足かせとなっている。
  • SARBは、声明文で成長率とインフレ見通しをともに下方修正し、政策金利のさらなる引き下げ余地も示唆した。なお、実体経済を巡る不透明要因が山積しているにもかかわらずランド相場は堅調に推移しており、金価格の上昇や実質金利の高さによる投資妙味の高さが影響している可能性がある。しかし、近年は金の産出量が減少しており、金価格との連動性には限界がある。SARBは今後も慎重な政策運営を維持する見通しだが、実体経済の不透明さやファンダメンタルズの脆弱さが南アランドの足かせになるであろう。

南アフリカ準備銀行(SARB)は、29日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利であるレポ金利を25bp引き下げて7.25%とする決定を行った。SARBによる利下げは2会合ぶり、昨年後半からの利下げ局面では通算4度目の利下げである上、累計の利下げ幅は100bpとなり、金利も2年3ヶ月ぶりの水準となるなど、着実に金融緩和を進めている。

同国はここ数年、商品高や国際金融市場での米ドル高を受けた通貨ランド安、コロナ禍一巡による経済活動の正常化も重なる形でインフレに直面してきた。よって、SARBは物価と為替の安定を目的に累計325bpの利上げを行った。さらに、インフレを招く一因となった商品高の一巡を受けてインフレは2022年後半を境に頭打ちに転じ、2023年後半以降はSARBが定める目標(4.5±1.5%)域内で推移するなど落ち着きを取り戻した。しかし、国際金融市場では米FRB(連邦準備制度理事会)の政策運営を受けた米ドル高圧力がくすぶり、ランド相場の重石となるなどSARBの政策の制約要因となってきた。他方、昨年後半以降は商品市況が一段と調整するとともに、米FRBが利下げに転じてランド相場を取り巻く環境が変化したほか、インフレが一段と鈍化したこともあり、SARBには利下げが容易になったと捉えられる。

図表
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その一方、同国では過去10年以上にわたって慢性的な電力不足が幅広い経済活動の足かせとなる展開が続いてきた。足元の発電量はかつてと比べて低調な推移が続いており、昨年初旬以降は計画「外」停電は引き続き発生するも計画停電は回避されており、最悪期は過ぎつつあると捉えられる。他方、足元の世界経済や国際金融市場は『トランプ関税』に揺さぶられており、米トランプ政権は同国への強硬姿勢を示すなか(注1)、実体経済の足かせとなることが懸念される。なお、米トランプ政権はすべての国に一律で10%、一部の国や地域に非関税障壁に応じて税率を上乗せする相互関税の導入を発表した。米国の同国への貿易赤字は小幅にもかかわらず、米国は同国への税率を30%とした。同国の対米輸出額は名目GDP比4%強に留まるものの、仮に相互関税がすべて賦課されれば、過去2年にわたって経済成長率は1%未満に留まるなか、景気下振れの影響は相対的に大きくなる。さらに、今月開催された首脳会談でも、(同国と関係のない映像を用いて)トランプ氏は同国を非難するなど関係改善の糸口が見出せない状況にある。また、米トランプ政権による米国際開発庁(USAID)閉鎖に伴い、同国を含むアフリカでの電力整備事業が終了に追い込まれるなど、電力需給を巡る動向に悪影響を与える可能性も高まっている。

図表
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このように実体経済を取り巻く環境は厳しさを増す一方、足元のインフレはSARBの定める目標の下限を下回る伸びに留まることも、一段の利下げを後押ししたと見込まれる。会合後に公表した声明文でも、世界経済について「不安定さが増している」とした上で「貿易障壁と不確実性の高まりが重なる形で頭打ちを強める」とする一方、物価動向について「複雑さが増している」としつつ「世界的な金利は幾分低下が見込まれる」との見通しを示す。他方、同国経済について「下振れリスクが高まるなかで今年の経済成長率は+1.2%(←+1.7%)に留まるが、2027年には+1.8%に底入れする」としつつ、「構造改革への前向きな取り組みが期待される一方、世界経済の減速による逆風はくすぶる」との見方を示している。また、物価動向について「ガソリン税引き上げの影響は懸念されるが、ランド高と原油価格の下振れがその影響を相殺する」とした上で、「インフレ見通しを+3.2%(←+3.7%)に引き下げるとともに、リスクもバランスしている」との見方を示す。そして、前回会合で指摘したランド安への警戒を巡っては「足元で落ち着いている」とした上で、「今回の利下げを後押しした」としつつ「5(25bpの利下げ)対1(50bpの利下げ)で決定した」と一段の金融緩和の可能性が検討された模様である。なお、足元の物価は落ち着いた推移をみせるも「貿易摩擦に伴う世界経済の減速がランド相場の急落を招くことに伴う上振れリスクを検討した」として、「経済のファンダメンタルズの脆弱な国ではマクロ経済の安定を目的とする金融引き締めが求められる」とした。他方、インフレ目標を3%に引き下げるための新たな仕組みを公表した上で、政府との協議が進んでいるとの見方を示しており、先行きも慎重な政策運営を維持する可能性は高いと見込まれる。

図表
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実体経済には不安材料が山積しているにもかかわらず、同国の通貨ランド相場を巡っては対照的に堅調な動きが続いている。この背景には、同国がかつて世界有数の金産出国であった『名残』が影響している可能性がある。このところの国際金融市場では、米トランプ政権の政策運営を巡る不透明感を理由に『米国売り』とも呼べる動きが広がりをみせるなかで米ドル安が進んでいる。こうした動きは、多くの新興国通貨を押し上げているが、ランド相場は他の新興国通貨と比較しても堅調に推移している。これは、トランプ関税による世界経済への悪影響が懸念されるなか、金融市場では金が『無国籍資産』と見做され需要が押し上げられるとともに価格が上昇し、ランド相場を下支えしている可能性が考えられる。なお、同国は2000年代ごろまでは世界最大の金産出国であったものの、その後は鉱脈の枯渇や生産コストの上昇、電力不足など複合的な要因により産出量が低下しており、昨年は世界9位に留まる。金の埋蔵量は依然として世界有数ではあるものの、上述した要因が生産を困難にしていることに鑑みれば、ランド相場が金価格と連動する動きをみせることには無理があるのが実情であろう。他方、インフレが落ち着きを取り戻す動きをみせるなか、政策金利が依然高水準にあり、実質金利(政策金利-インフレ)のプラス幅の大きさという投資妙味の高さがランド相場を支えている可能性はある。しかし、実体経済への不安要因が山積するなかで高金利政策を維持できるかは見通しが立ちにくい。とはいえ、SARBは慎重姿勢を崩しておらず、その背景に米国の政策運営を巡る不透明感を挙げるなか、当面のランド相場は引き続き外部の『観測』に揺さぶられる展開が続くことになろう。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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