インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

メキシコは景気後退回避も、トランプ関税に揺さぶられる展開は続く

~製造業やサービス業を取り巻く環境は急速に悪化、ペソ相場の行方も見通しが立ちにくい展開~

西濵 徹

要旨
  • メキシコ経済は米国経済への依存度が高い特徴を有する。米トランプ政権は関税を材料に取引を持ち掛け、メキシコを標的に追加関税を課す姿勢をみせた。その後の両国の協議を通じてUSMCAの対象財は追加関税の対象から除外されるなど、最悪の事態は回避されている。しかし、先月にはUSMCAの対象財以外や自動車、鉄鋼製品、アルミ製品に追加関税が課せられており、外需への悪影響は避けられない。
  • 昨年末にかけてメキシコの景気にブレーキが掛かる動きがみられたが、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+0.63%となるなど景気後退局面入りは回避されている。しかし、トランプ関税の余波を受ける形で製造業の生産は低迷し、米国の雇用環境を巡る変化や金融環境の引き締まりも影響してサービス業の生産も頭打ちしている。結果、足元の景気は農林漁業や鉱業に支えられるなど不透明な状況にある。
  • 先行きもトランプ関税が同国経済や物価に影響を与えることが懸念されるなか、中銀は難しい政策対応を迫られる展開が続くと見込まれる。足元のペソ相場は米ドル安を反映して底入れしているが、米ドル相場の動向に揺さぶられるとともに、円に対しては米ドル/円相場が上値を抑える可能性に注意が必要である。

メキシコ経済は、財輸出の約8割を米国向けが占めるとともに、GDPの約4%に相当する移民送金の大宗を米国からの流入が占めるなど、米国経済への依存度が極めて高い構造を有する。こうしたなか、自身を『タリフマン(関税男)』と称して相手国に対して関税を材料にディール(取引)を持ち掛ける米トランプ大統領の一挙一動に揺さぶられる展開が続く。米トランプ政権は2月に同国からのすべての輸入品に25%の追加関税を課す大統領令を発動させるも、直後に行われた両国首脳による電話協議を経て関税賦課は一旦30日間延期された。翌3月にトランプ氏は再び追加関税を課す大統領令を発動し、メキシコ政府も報復措置に動く方針を示したことで貿易戦争に発展することが懸念された。しかし、その後の協議を経てUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に定められた原産地規則に準拠した財に対する関税を免除するなど二転三転している。また、米トランプ政権はすべての国に一律で10%の関税を課すとともに、一部の国に対して非関税障壁に応じて関税を上乗せする相互関税を発表し、発動させるも、直後に中国以外の国に対する上乗せ分は90日間延期されるなど、朝令暮改が繰り返されている。他方、米トランプ政権はメキシコを相互関税の対象外とする一方、先月からはUSMCAに準拠した財以外に25%の関税を課すとともに、自動車や鉄鋼製品、アルミ製品に対する追加関税も発動させており、少なからず外需に悪影響が出ることは避けられないと見込まれる。

図表
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メキシコ経済については、年明けのトランプ政権の発足を前にすでに『躓く』動きが確認されており(注1)、上述のトランプ関税を巡る不透明な動きも重なり、足元の景気は一段と下振れすることが懸念された。しかし、1-3月の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率+0.63%と前期(同▲2.50%(改定値))から2四半期ぶりのプラス成長に転じており、テクニカル・リセッションに陥る事態は回避された。中期的な基調を示す前年同期比の伸びも+0.8%と前期(同+0.5%)から加速するなど、頭打ちが続いた流れに変化の兆しがうかがえる。なお、分野ごとの生産動向を巡っては、トランプ関税を巡る不透明な動きが外需に悪影響を与えるとの懸念を反映して製造業など第2次産業の生産は2四半期連続のマイナスとなるなど景気の足かせとなっている。また、昨年後半以降のインフレ鈍化を受け、中銀は断続利下げに舵を切るなど景気下支えに向けた動きを強めているものの、実質金利(政策金利-インフレ率)は歴史的高水準で推移するなど金融環境は引き締まった状況が続いている。さらに、米国の雇用環境に変調の兆しが出ていることを受けて移民送金が頭打ちしていることも重なり、サービス業など第3次産業の生産も3年半ぶりの減少に転じるなど、家計消費の勢いに陰りが出る兆しもうかがえる。その一方、農林漁業や鉱業といった第1次産業の生産が大きく拡大に転じたことが景気を下支えしている。よって、メキシコ経済はテクニカル・リセッションに陥る事態は回避するも、先行きは極めて見通しにくい状況にあることは間違いない。

図表
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トランプ関税による景気への悪影響が懸念されるなか、インフレが頭打ちの動きを強めていることもあり、中銀は断続利下げのみならず、大幅利下げにより景気下支えに注力している(注2)。米トランプ政権は同国を相互関税の対象から除外するとともに、USMCAに準拠した財は追加関税の対象外としており、当初懸念された最悪の事態は回避されている。しかし、その後もトランプ氏は米国への生産拠点回帰を目指す姿勢をみせており、自動車産業などを中心に同国から米国に生産拠点を移転させる動きが広がるなど、対内直接投資の減少に加え、雇用機会の縮小に繋がることは避けられない。また、足元のインフレ率は中銀目標(3±1%)の域内で推移するも、頭打ちの動きに変化の兆しが出ており、今後はトランプ関税の影響が実体経済のみならず、物価に影響を与える可能性もくすぶる。よって、中銀にとっては難しい政策の舵取りを迫られる局面が続く可能性がある。

図表
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一方、昨年来の通貨ペソ相場は、左派政権の継続に加え、憲法改正による財政運営への不透明感の高まりをきっかけに調整の動きを強めるとともに、トランプ関税を巡る不透明感の高まりも重なり、上値が抑えられるなど、ここ数年強含みする展開が続いた状況は一変してきた。足元ではトランプ関税を巡る不透明感の高まりを受けた米ドル安を反映して、ペソの対ドル相場は底入れする動きをみせている。その一方、日本円に対しては米ドル/円相場が円高傾向で推移していることもあり、上値が重い展開をみせている。先行きについては、トランプ関税の動きやそれに応じて米ドル相場の動きが変化する可能性があり、ペソの対ドル相場はそうした動きの影響を受けやすい展開が見込まれるほか、日本円に対しては米ドル/円相場の上値の重さが足かせとなる可能性に留意する必要がある。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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