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2025.12.23
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経済安全保障
レアアースの中国依存リスクは甚大
~環境対策にも必要な稀少資源を外交戦術に利用される状況を変える必要~
嶌峰 義清
- 要旨
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10月に中国政府が発表したレアアースに関する新たな輸出規制は、その影響の大きさから米国が強く反発し、最終的にはその発動が1年間延期されることとなった。
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レアアースは最先端の軍事品に欠かせない資源であり、軍事転用を阻止することを目的とする輸出管理自体は禁止されていない。とはいえ、新たな輸出規制は産業情報が中国政府に筒抜けになることを意味するほか、中国政府が独自の基準に照らして輸出規制などを行ってきたこれまでの経緯から判断すれば、軍事転用リスクが高いなどとの名目で規制をチラつかせ、外交戦術に利用される恐れもある。
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レアアースは民生用の機械や環境対策の技術に欠かせない資源でもあり、中国への極端な依存は経済活動のみならず、環境対策にもリスクが大きすぎると言わざるを得ない。
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レアアース輸出規制強化方針で改めて明確になった“中国独占”のリスク
2025年10月9日に中国政府が公表したレアアースに関する新たな輸出規制(中国商務部公告2025年第61号:図表1)は、米国が報復措置として100%の関税上乗せを表明して撤回を要求するなど、世界に激震が走った。最終的には、10月末に行われた米中首脳会談において、同措置の1年間延期が決定されたものの、完全に撤回されたわけではない。

中国政府は、これらの規制について「軍事転用のリスクを除外するため」との趣旨を説明しており、WTO(世界貿易機関)の「国家安全保障例外」として認められる範囲内としている。WTOは自由貿易を原則としており、加盟国はこれを遵守する義務があるが、軍事転用可能な物品、核兵器などに関連する貿易については、国家安全保障上の理由で逸脱できるとする例外規定を設けている。日本でも「外国為替及び外国貿易法」に基づいて、一部の高性能な半導体製造装置の輸出規制の強化などを行っている。
中国政府は、これに先立つ2025年4月4日に、中・重希土類に属する7元素(サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウム)と関連物品について、中国から輸出する際の商務部への輸出許可申請、税関申告時の管理コード記載などが義務づけされた(中国商務部公告2025年第18号)。これにより、当該品の輸出には手間と時間を要しており、一部では生産活動にも影響が出ている。この措置は、10月に公表、その後1年間延期された第61号公告とは異なり、現在も生きた規制となっている。輸出許可に際しては、当局が軍事転用されるリスクが無いかどうかをチェックすることになるが、これに際しては当局のさじ加減で許可までの時間が左右される余地がある。このため、許可がスムースに進むかどうかは、外交関係次第で左右される可能性もある。
実際、ほぼ全てのレアアースと多くのレアメタルは軍事品に利用されている(図表2)。たとえば、米軍の最新鋭戦闘機であるF35には418kg、バージニア級原子力潜水艦には4600kgものレアアースが使用されている(米国防総省)。レアアースや一部のレアメタルは、飛行制御やステルス機能を支える永久磁石や、高度な兵器照準システム、レーダー、ソナー、ミサイル誘導などのためのレーザー技術、推進システムなどに不可欠となっている。したがって、該当する素材は軍事転用の恐れは常につきまとう。とはいえ、それは鉄や銅、アルミニウムなども同じである。

一方、レアアースやレアメタルは非軍事目的の民生用品にも欠かせない素材だ。代表的なものとしてネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石といった永久磁石がある。これらの磁石は、ネオジムやサマリウムとなどのレアアースを主原料としているほか、ネオジム磁石にはジスプロシウムやテルビウムといったより希少なレアアースが性能強化のための添加剤として使用されるケースもある。
永久磁石の用途は幅広く、ハイブリッド車や電気自動車(EV)の駆動モーターから、スマートフォンのバイブレーター、カメラのオートフォーカスや手ぶれ補正機能にも使用されている(図表3)。製品の中には、レアアースを使用しなくても製作できるものもあるが、レアアースの使用によって機能の強化や小型化が可能となっている。

また、私たちの生活周りの家電製品にもレアアースが使用されているものは多い(図表4)。表に挙げたもの以外にも、一部の炊飯器などにも使用されている。これらは主に省エネや高機能化のために使用されており、レアアースやレアメタルが必須原料というわけではないが、電力消費量を抑えることで省エネなどには大きな効果を生んでいる。

表現を変えれば、最先端の技術ほどレアアースを使用することによって成り立っているものが多く、現代の私たちの暮らしには欠かせない資源の一つとなっている。それと同時に、日本にとっては基幹産業の多くがレアアースを利用した高付加価値の製品を供給していることになる。例えば、輸送用機械(自動車など)、はん用機械(エンジンなど)、生産用機械(半導体など)、業務用機械(光学機器など)、電気機械(家電など)、情報通信機械(PCなど)は、製造業の売上高の約47%と約半分を占める。これらの全ての製品にレアアースが使用されているわけではないが、供給が途絶した場合の日本経済への影響は極めて大きくなると言わざるを得ない。
レアアース・レアメタルは環境対策にも必須の資源だからこそ“武器”にしてはいけない
レアアースやレアメタルの用途は、軍事品を含めた先端技術を支えている面の他に、環境対策として使用される技術に不可欠という側面もある(図表5)。

例えば、再生可能エネルギーとして火力発電や原子力発電に代わる発電方法として拡大している風力発電用のタービンにはネオジムなどを含む永久磁石が、太陽光発電パネルにはインジウムなどが高効率薄膜太陽電池に使用されている。いずれも発電効率を高める効果があり、再生可能エネルギーの利用拡大には不可欠だ。
また、EVやハイブリッド車では、駆動モーターにレアアースを使用した永久磁石を使用することで高効率化を図っているほか、リチウムイオン電池の正極・負極材料としてコバルト、車体の軽量化や高強度化にマグネシウムやマンガンなどのレアメタルが使用されている。これらの製品・技術を使用することで、ガソリン車に引けを取らない航続距離やパワーを生み出すことが可能となった。
そのほかにも、発電した電力の電圧や電流、周波数などを最適化してロスを抑え、電力インフラや様々な電気を使用する製品の安定的かつ効率的な動作を支えるパワーエレクトロニクスに必要な窒化ガリウムパワー半導体などにもレアメタルが使われている。
このように、レアアースやレアメタルは「CO2を放出しないエネルギー(電力)をより多く創出し、効率よく届け、できるだけ消費を抑制する」ための最新技術に欠かせない資源の一つだ。したがって、地球規模での気候変動への対応策として世界が歩調を合わせて迅速に取り組むべき課題解決のためにも、こうした資源は開かれた市場で取引されるべきであり、少なくとも政治的な争いや独善的な価値判断で取引が規制されるべきものではない。
嶌峰 義清
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

