株高不況 株高不況

日米交渉の行方を握るのはまさかのパウエル議長?

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均株価は先行き12ヶ月43,000円程度で推移するだろう。(修正検討中)

  • USD/JPYは先行き12ヶ月155円程度で推移するだろう。

  • 日銀は半年に一度の利上げを続け、2026年1月までに政策金利は1.0%に到達しよう。

  • FEDはFF金利を25年末までに4.0%まで引き下げ、その後は様子見に転じるだろう。

目次

金融市場

  • 前営業日の米国市場は、S&P500が+0.1%、NASDAQが▲0.1%で引け。VIXは29.7へと低下。

  • 米金利はベア・スティープ化。予想インフレ率(10年BEI)は2.238%(+5.1bp)へと上昇。
    実質金利は2.083%(▲0.4bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は+52.2bpへとプラス幅拡大。

  • 為替はUSDが中位程度。USD/JPYは142半ばへと上昇。コモディティはWTI原油が64.7㌦(+2.2㌦)へと上昇。銅は9188.5㌦(▲15.0㌦)へと低下。金は3308.7㌦(▲17.9㌦)へと低下。

米国イールドカーブ
米国イールドカーブ

米国イールドカーブ(前日差)
米国イールドカーブ(前日差)

米国名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国長短金利差(2年10年)
米国長短金利差(2年10年)

注目点

  • 米経済は、トランプ関税それ自体の行方が分からず、しかも関税が経済にどういった影響を与えるのかが不明という二重の不透明感に包まれている。

  • そうした不透明感がある意味で解消されたのは、4月16日のパウエル議長発言であった。パウエル議長は「関税の引き上げは、予想をはるかに上回るものになっている。インフレ率の上昇や成長率の鈍化など経済に与える影響も同じような状況だ」とした上で「関税は少なくとも一時的にインフレを上昇させる可能性が非常に高い。インフレ効果がより持続的になる可能性もある」とした。

  • 関税は一時的であるから、景気の下振れリスクに対して予防的な利下げを講じる、或いはそうすべきという市場関係者は少なからず存在する。Fed内部ではウォーラー理事が4月14日に「2021年に始まったインフレ上昇が、私自身や他の政策担当者の当初の想定よりも長引いたことは事実だが、関税によるインフレ上昇は一時的なものになると判断している」と従来からの見解を繰り返し、その上で「もし景気減速が深刻化し、景気後退の脅威さえある場合には、政策金利を従来想定より早く、かつ大幅に引き下げる方向を支持する」として、関税ショックを利下げで吸収する考えも示した。なお同理事は次期FRB議長の候補とも噂されている。

  • それに対してパウエル議長は「当面は、政策スタンスの調整を検討する前に、より明確な状況が明らかになるまで待つことができる」として、関税の帰趨とそれが経済にどう波及するかを見極めてから動く構えを示した。5月FOMC(7日)の利下げを排除し、6月FOMCの利下げにも距離を置いたように思える。4月17日時点でFF金利先物が織り込む6月FOMCまでの利下げ確率は70.6%と前日から約10%pt低下した。またパウエル議長は「最近の市場の変動はトランプ政権による関税政策の劇的な転換を論理的に消化している」などとして、トランプ関税による株価下落をパウエル・プット(≒利下げ)で打ち消すことに否定的な見解を示した。

  • 関税による負のショックをFedの利下げで相殺する、トランプ大統領の目論見は一旦否定された形だ。これに対してトランプ大統領は「(パウエル議長が)任務を果たしているとは思わない。私が彼に去ってほしいと望めばすぐに去ることになるだろう」などとパウエル議長を解任したい意向を示した。もちろん大統領がFRB議長を解任するのは制度上容易ではない。ベッセント財務長官がパウエル議長の解任は金融市場の不安定化を招くとして警鐘を鳴らしたとも報じられている。またトランプ大統領が後任にケビン・ウォーシュ元FRB理事を充てる方向で数ヶ月前から動いているとのWSJ報道もあるが、同記事によれば当のウォーシュ氏がパウエル議長解任に反対し、任期を全うさせるべきだとトランプ氏に助言したという。現時点ではFedの独立性が脅かされ、パウエル議長に代わる新議長が登場し、年内2回以上の積極的な利下げを講じる可能性は低いと判断される。

  • パウエル議長がパウエル・プットを否定したことはトランプ政権の通商政策を穏健なものにさせる可能性があるだろう。株安、債券安をFedが食い止めるという甘えが強いと、トランプ大統領に自制を迫る要素が弱まってしまう。トランプ政権の政策不透明感に起因する金融市場の混乱をパウエル議長が放置する構えをより明確にすれば、日米交渉を含め、トランプ政権の政策態度が軟化するのではないか。

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。