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参院選と日米交渉合意を受けた今後のマーケット

~日米交渉合意も不安定な政局が足かせ~

嶌峰 義清

要旨
  • 参院選では与党が過半数割れとなり、衆参両院での少数与党が決定した。一方で、日米関税交渉が期限前に合意したこと、自動車関税の引き下げといった望外の内容もあって、株高、円高が進むなど、日本の景気に対する楽観論も広がった。
  • しかし、自動車関連を除いた分野の関税は引き上げられており、景気へのマイナスのインパクトも相応に大きくなると見込まれる。
  • 今後の政局が極めて不透明であることを勘案すれば、市場の楽観的な見方がいつまでも続くとは考えにくい。

参院選与党敗北からの日米関税合意

7月20日に行われた参院選では、自民党と公明党の与党が過半数議席を失う結果となった(図表1・2)。これにより、衆参両院で与党が過半数割れとなり、これまで以上に与党の法案は通過が難しくなる一方、野党の法案が実現しやすい状況となった。

図表
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もっとも、選挙などを通じて訴えてきた野党の政策にはバラツキも多い。このため、「与党の法案が通りにくい一方で、野党の法案も(一元化せず)通りにくい」ことで、必要な経済政策などが実現しにくくなることへの懸念もある。

参院選の結果を受けた3連休明けの7月22日の東京市場は複雑な反応を見せた(図表3)。株価はしばらく上昇していたものの、引けにかけては失速し、選挙前となる前週末比小幅安で終えた。一方、為替市場では日本が祝日であった7月21日の月曜日の海外市場で円高ドル安となった流れをそのまま受け継ぎ、ドル円相場は前週末比1円程度の円高となった。

株式市場の当初の反応や、対ドル相場での円高の進展は「選挙結果を好感して日本が買われた」というよりも、「選挙直前に報道されていた印象ほど与党は議席数を減らさなかった」ことによるとの見方が多い。もっともこうした「思ったほど悪くない」という評価では株式市場の上昇は長続きせず、為替市場ではトランプ政権に対する不安から生じているドル安圧力が円高を維持させたということだろう。

図表
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これに対し債券市場では、10年国債利回りは低下した一方で、30年国債利回りは上昇するというねじれが生じた。相対的に足元の景況感に左右されやすい10年国債は景気に対する不安から買われる一方、将来の財政リスクの影響を受けやすい30年国債は野党が掲げる財政拡張的な政策が実現するリスクが高まることを警戒して売られたものと考えられる。

こうした複雑な反応を見せた東京市場の動きが一変したのが、翌朝明らかになった日米関税交渉が合意に至ったとのニュースである。これにより7月23日の日経平均株価は前日から1,000円以上上昇、翌24日は終値ベースで過去最高値をつけた2024年7月11日(42,224.02円)以来となる水準(41,826.34円)まで上昇した。予想外のタイミングでの合意に加え、相互関税率は米国が示していた25%から15%に引き下げられたこと、引き下げは困難とみられていた自動車関税も15%に引き下げられたことから、日本経済へのダメージは想定されていたほど大きくはならず、景気は失速を回避しうるとの期待が高まったことが株価を押し上げたと考えられる。債券市場でも同様の考え方から、10年国債利回りは日銀の利上げへの道は途絶えないとの見方も手伝って利回りは上昇、30年国債は24日には財政懸念による売りは一服し、小幅ながら買い戻され利回りは低下した。また為替市場では円高の流れが継続した。

日米合意は朗報だが、自動車を除けば状況はこれまでより悪化

市場の雰囲気を一変させた日米関税交渉の基本合意だが、トランプ政権以降引き上げられていた自動車の関税が25%から15%に引き下げられた一方で、鉄鋼・アルミ製品は50%の高関税に据え置かれたうえ、その他については10%(交渉期限までの基本税率)から15%に引き上げられる格好となった。部品も合わせた自動車輸出は対米輸出全体の3分の1強を占めるうえ、裾野の広い産業で従事者も多いことから、自動車の関税率が引き下げられた効果は非常に大きい。とはいえ、対米輸出全体の3分の2については関税率が引き上げられており、その影響は無視できない。

今回の決定により、日本の実質GDPは▲0.5%程度押し下げられるとの試算が多い。これは、日本の現在の潜在成長率(≒実力の成長率)に等しく、2024年度の実質GDP成長率が+0.8%であったことを勘案しても、大きな押し下げインパクトといえよう。

足元で、東証プライム全銘柄における予想EPS(一株あたり利益)は、前期対比▲2.3%の減益予想となっている。こうした今季の小幅減益予想はほぼ変わっていない中で、株価が急上昇したことにより、予想PER(株価収益率)は16.29倍と上昇している。一般的にはPERは15倍程度が業績に見合った適切な株価水準と考えられており、現在の水準は若干の割高感が生じていると評されよう(図表4)。

もっとも、この程度の“割高”であれば、業績の先行き改善期待が高ければ、目くじらを立てるほどのものではない。しかし、①世界の多くの国の対米関税率はまだ決まっておらず、特にEUや中国との関税交渉次第では、世界経済へのマイナスのインパクトが大きくなるリスクがある、②国内の政治動向が不透明、といった点を勘案すれば、PERが上昇するような楽観的な状況の持続可能性は低いと判断される。むしろ、EPSが下方修正されるリスクに注意を払うべきではないか。

図表
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読めない政局と政策リスク

日本の政治状況については、自民党内で首相の責任論が強まっていると報道されるなど、先行きが非常に読みにくい環境となっている。

現時点では、8月1日にも臨時国会が開かれる予定だ。通例では、参院選を受けて各委員長ポストなどが決定されるにとどまるが、野党ではガソリン税の暫定税率の廃止案を提出、決定したいとしているほか、日米交渉の内容についても審議したいとの声もあり、会期日程は自民党が提案している5日程度から延長される可能性もある。

一方、自民党では石破首相が辞任を表明しない場合、両院議員総会で総裁交代決議を可決し、新たな自民党総裁を立てるべきだとの声もある。これにより石破現自民党総裁に変わる新たな自民党総裁が選出された場合も、臨時国会が召集されて首班指名選挙(首相選出選挙)が開催されることになる。それが、8月1日に予定されている臨時国会の日程とどう絡むのかも不明で、自民党内の動きを見守るしかない状況だ。

首班指名選挙が開催される場合、野党(の大半)が統一候補に投票することが無い限り、衆参両院で最大議席を持つ自民党総裁が新首相に選出されると見込まれる。野党が一枚岩になるためには、野党間の主要政策のすりあわせが必要と考えられるが、現状では注目されている物価高対策一つをとっても野党間の開きは大きく、首班指名選挙において野党が統一候補を立てることは困難と言える(逆に、政策のすりあわせを後回しにして統一候補を立て、政権を奪取することも可能性としてはあるものの、その場合はその後の政策運営が難しくなると考えられる)。

秋に予定されている臨時国会では、いよいよ物価対策が論じられることになる。もっとも、臨時国会における与党と野党、首相が誰なのかも未知数ではあるため、どの政策が成立するのか、あるいは何も成立しないのかさえ全くわからない。

まず、自公が主張している一時給付金を成立させるためには、野党の協力が必要となる。現在、給付金については立憲民主党が、実現まで日を要する消費税減税までの“つなぎ”的な措置として提案しているため、両党が折り合うことができれば、給付金の支給が実現する可能性は高まる。もっとも、立憲民主党はその先の消費税の軽減税率対象となる食料品の消費税ゼロ(原則1年間限定)と、給付付き税額控除の導入を提言しており、これらを自民党が受け入れられるかどうかが給付金実現の鍵となる。

一方、消費税の減税については、野党間でもその内容が大きく異なる。前述した立憲民主党の「食料品の1年限定ゼロ」から、国民民主党の「時限的に全体を5%に減税」、れいわ新撰組の「廃止」まで、野党が主張する消費税減税の内容は多様だ。しかし、野党がほぼ一枚岩にならない限り、自公が反対している消費税減税が実現する可能性はほとんど無い。可能性があるとすれば、各党が主張する最もハードルが小さい部分(1年間の軽減税率撤廃)を決定し、それが実行されている間に追加の可否について議論する、ということで折り合うことができれば、消費税減税は実現しよう。短期間に限定した減税は、経済の押し上げ効果は限定的ではある一方で、財政への負荷も限定的であるため金利の急騰リスクは抑えられよう。もっとも、1年後に撤回できる条項などが付与されないことが前提だ。

このように考えると、物価対策として各党が掲げている政策の実現可能性は、低いと判断せざるを得ない。しかし、今回の選挙で有権者が最も関心を寄せていた物価対策が何も講じられなければ、政治不信は一層深まる。株式市場をはじめとしたマーケットも、有効な政策が打ち出せないことを懸念して、特に株価にはネガティブ要因となろう。有権者や市場の期待に応えるためにも、与野党の議論の末、何らかの政策が打ち出されることが望まれる。

嶌峰 義清


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

嶌峰 義清

しまみね よしきよ

経済調査部 シニア・フェロー
担当: 経済・金融市場全般、地政学

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