インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国がトランプ相殺関税に報復、25年成長率は「4%割れ」も視野に

~世界経済は「けん引役不在」の状況に、世界貿易の萎縮が足を引っ張る可能性にも要注意~

西濵 徹

要旨
  • 足元の世界経済や国際金融市場はトランプ米大統領の関税政策に揺さぶられている。トランプ氏は米国の巨額の貿易赤字解消と国内産業保護を目的に、中国を標的に段階的に追加関税を課す動きをみせた。さらに、すべての国を対象とする関税賦課に加え、非関税障壁を考慮した相互関税に動く方針を明らかにし、対中関税はこれにより大統領選での公約(最大60%)に近づくなど、圧力を一段と強める動きをみせている。

  • 一方、中国は追加関税に対して報復措置を講じるも、実体経済への影響に鑑みて抑制的な内容に留めてきた。しかし、トランプ氏の相互関税賦課発表を受けて、米国からのすべての輸入品に34%の関税を上乗せするなど報復措置を強化する方針を示し、貿易戦争とも呼べる状況に発展している。米国の関税賦課による中国経済への直接的な影響は名目GDP比1.5%強に達し、輸入関税の影響も同0.3%強となると試算される。中国当局は成長率目標を据え置き、内需喚起を図る考えを示したが、そのハードルは高まっている。

  • 米中による貿易戦争の激化は両国経済のみならず、世界経済にも深刻な悪影響を与えることが懸念される。アジア新興国では、米トランプ政権の相互関税による対米輸出の下振れに加え、サプライチェーン再々編の影響を受ける可能性がある。中国は一段の内需喚起や貿易圏の構築を強化させると見込まれるが、世界貿易の萎縮が世界経済の重石となることも考えられる。結果として世界経済は成長のけん引役を失うとともに、これまで以上に厳しい状況に陥る可能性が高まっていることに留意する必要がある。

足元の世界経済や国際金融市場は、『タリフマン(関税男)』を自称するトランプ米大統領の一挙一動に揺さぶられる状況に直面している。同氏は昨年の大統領選において、関税を材料に相手国に対して『ディール(取引)』を持ち掛ける考えを示してきた。なかでも中国に対しては、すべての輸入品に一律で最大60%の関税を課す考えを示してきた。こうした手法は第1次政権下においても多用されるとともに、現実には『高い球』を投げて相手国の反応をうかがい、協議に持ち込む動きがみられた。よって、大統領就任に際しても一連の対応は『見せ球』に過ぎず、最終的には双方の協議を通じて現実的な落としどころを探るとの期待が高かったとみられる。しかし、トランプ氏は2月にすべての中国からの輸入品に10%の追加関税を課す大統領令を発令し、先月には追加関税の税率を10pt引き上げて20%とする大統領令を発令させた。一方の中国も、2月に米国からのLNG(液化天然ガス)や石炭などの輸入に最大15%の関税を課した上で、中国に進出する米国企業に対して独占禁止法に基づく調査など報復措置に動いた。そして、先月には大豆やとうもろこしなどに最大15%の輸入関税を課すなど関税賦課の対象を広げるとともに、重要鉱物に対する輸出規制を課すなどの報復措置に動いた。

米中両国は水面下で協議を行う一方、中国も米国の措置に比べると小幅に留めるも報復措置に動いたこともあり、その後も米トランプ政権は一段の関税賦課による圧力を強める考えをみせてきた。この背景には、トランプ氏が米国の抱える巨額の貿易赤字とそれに伴う国内産業の空洞化を「国家非常事態」に当たるとの認識を示すとともに、その解消を目的に貿易相手国に関税を賦課することにより輸入抑制や輸出拡大を図りたいとの思惑が影響している。結果、トランプ政権は貿易相手国に対して関税のみならず、その国における付加価値税(VAT)や為替政策、規制など非関税障壁を加味する形で平均関税率を算出した上で、その水準に対応する『相互関税』を課す方針を示した。そして、トランプ氏は2日に相互関税の内容を発表し、中国について非関税障壁を加味した平均関税率を67%とWTO(世界貿易機関)が示す2024年時点の平均関税率(7.5%)を大きく上回るとした上で、相互関税率をその半分に当たる34%と設定することを明らかにした(注1)。なお、上述したように米トランプ政権は先月に中国からのすべての輸入品に20%の追加関税を課しており、相互関税が上乗せされることにより中国に対する関税賦課率は54%と大統領選での公約(最大60%)に大きく近づくことになった。

さらに、米トランプ政権による相互関税の賦課を受け、中国政府はすべての米国からの輸入品に34%を課すとともに、一部の米国企業を『信用できない企業』とする報復措置を講じる方針を明らかにした。結果、世界1位と2位の経済規模を誇る米中による貿易摩擦は抜き差しならない状況になり、「貿易戦争」とも呼べる事態に発展する可能性が高まっている。米トランプ政権による追加関税の第1弾(10%)、および第2弾(10→20%)による中国経済への直接的な影響は名目GDP比で0.5%強と試算されるため、中国当局は先月開催した全人代(第14期全国人民代表大会第3回全体会議)で今年の経済成長率目標を5%前後と据え置く一方、外需への下押し圧力が懸念されるなかで景気下支えに向けて内需喚起への取り組みを一段と強化させる方針を示した(注2)。しかし、相互関税を加味すると中国経済への直接的な影響は名目GDP比で1.5%強に大幅に押し上げられるなど、外需に大幅な下押し圧力が掛かることは避けられなくなっている。また、中国による報復措置も第1弾、および第2弾は抑制的な内容に留められたものの、相互関税への報復は米国からのすべての輸入品に対象が広げられており、その直接的な影響は名目GDP比0.3%強に大幅に拡大すると試算される。中国にとっては飼料用穀物を中心とする農産品の輸入を巡って米国への依存度が高く、なかでも大豆の輸入は8割を米国からの輸入に依存しており、関税引き上げに伴う物価上昇は豚肉など生鮮食料品を中心とするインフレを招くことが懸念される。なお、トランプ1次政権下での米中摩擦の激化を受けて中国は米国に代わる穀物輸入先の多様化を図るとともに、習近平指導部が主導する外交戦略(一帯一路)の動きも重なりブラジルやアルゼンチンなど中南米諸国からの輸入を拡大させてきた。今後も同様の動きが活発化することが予想される一方、全世界的に米トランプ政権に対する反発が強まるなかで多くの国が中南米諸国からの穀物輸入を拡大させるなど競争が激化する可能性があり、市況上振れがさらなる物価上昇を招くことも考えられる。

図表1
図表1

全人代では対米輸出のハードルが高まることを念頭に、ASEAN(東南アジア諸国連合)をはじめとする自由貿易圏の強化、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)への参加プロセスを推進する方針が示されている。しかし、米トランプ政権はすべての国を対象とする関税賦課に動くとともに、ASEANなどアジア新興国には高水準の相互関税を賦課することを明らかにしている。この背景には、多くのアジア新興国が米中摩擦の背後で対内直接投資の受け入れを活発化させ、対米輸出を大きく拡大させるなど経済的利益を享受する一方、南シナ海問題など安全保障面で米国に依存することに米トランプ政権が『苛立ち』を隠さないことがある。結果、アジア新興国でも対米輸出のハードルが高まっており、米国に代わる輸出先を模索するなかで中国への依存を強めることが見込まれる。ただし、中国の内需喚起策は需要の先喰いに留まる内容となっている上、中国自身も製造業の『自立自強』を目指す姿勢を隠しておらず、結果的に製造業を巡ってアジア新興国との競争が一段と激化することも予想される。世界貿易の拡大の動きは、経済構造面で外需依存度が相対的に高いアジア新興国景気の追い風となってきた。しかし、世界貿易に下押し圧力が掛かることで景気の足が引っ張られ、中国にとってもアジア新興国向け輸出が伸び悩むなど玉突き的な悪影響が出ることも考えられる。さらに、米中摩擦激化の背後でアジア新興国は中国に代わる生産拠点として対内直接投資の受け入れを拡大させたが、米トランプ政権がアジア新興国を標的にしたことを受けてサプライチェーンの分散化が事実上無意味となっており、中国に生産拠点を回帰させる事態も想定される。そうなれば、現時点においても中国における過剰生産能力が問題視される状況にあるが、先行きは一段とそうした事態が深刻化するとともに、世界経済のリスクとなることも見込まれる。

足元の中国経済を巡っては、当局による内需喚起策を反映して支援対象である耐久消費財を中心とする個人消費押し上げや企業部門による大規模設備更新の動きに加え、『トランプ関税』を念頭にした輸出の駆け込みの動きも重なり、1-3月の実質GDP成長率は前年同期比+5.0%と試算されるなど成長率目標(5%前後)実現に向けて「まずまずの出だし」になっていると捉えられる(注3)。しかし、先行きはトランプ関税を理由に対米輸出の下押しが懸念されるとともに、アジア新興国をはじめとする米国以外向けの輸出にも悪影響が出ることは避けられない。また、内需喚起策による個人消費や企業の設備投資の下支えは期待されるものの、報復措置の影響による食料インフレが実質購買力の下押し圧力を招くほか、根強い不動産不況も幅広い経済活動の足かせとなる展開が続くことに鑑みれば、内・外需双方で下押し圧力が掛かりやすい展開となることは避けられない。当研究所は2月に今年の中国の経済成長率が+4.4%になるとの見通しを示したが(注4)、内・外需双方に下押し圧力が強まることに鑑みれば4%を下回る伸びとなるほか、状況如何では一段と下振れする事態も予想される。そのため、世界経済は『けん引役不在』という厳しい状況に陥る可能性が高まっていることに留意する必要がある。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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