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2026.06.24
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タイ中銀、2会合連続で金利据え置きも、バーツ安が懸念材料に
~原油高一服を好感も、バーツ安による輸入インフレへの対応は政策運営を困難に~
西濵 徹
- 要旨
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タイ中銀は6月の定例会合で、政策金利を1.00%に据え置くことを全会一致で決定した。2月会合では景気回復の遅れとデフレ傾向を理由に利下げを実施したが、その後の中東情勢悪化による原油高とインフレ圧力の高まりを受け、4月会合に続いて様子見姿勢を維持した。
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タイ経済は原油や天然ガスへの依存度が高く、原油価格上昇の影響を受けやすい。5月のインフレ率は前年比+2.79%と長く続いたデフレ局面から脱している。さらに、肥料価格の高騰や干ばつリスクにより、今後は食料インフレが進む可能性もある。足元ではバーツ安が進み、輸出には追い風となるものの、エネルギーや肥料など輸入価格の上昇を通じてインフレ圧力を強めている。加えて、原油高が観光業や家計消費にも悪影響を及ぼす懸念がある。
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中銀は経済成長率見通しを上方修正し、AI・半導体関連輸出や投資を成長要因として評価している。一方、インフレ見通しはやや下方修正し、中東情勢の改善によるエネルギー価格の落ち着きを期待している。しかし、バーツ安による輸入インフレや景気の不透明感が残るため、今後も物価安定、景気回復、金融安定のバランスを取りながら難しい政策運営が続くと見込まれる。
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【原油高によるインフレを理由に中銀は様子見姿勢を継続】
タイ銀行(中央銀行)は、6月23~24日に開催した定例の金融政策委員会で、政策金利を1.00%に据え置くことを決定した。中銀は、2月の定例会合で、デフレ基調が続いていることに加え、ASEAN(東南アジア諸国連合)のなかでコロナ禍からの景気回復が遅れていることを理由に利下げに動いた。しかし、直後に中東情勢が緊迫化し、原油高が全世界的にインフレを招くなかで状況は大きく変化している。このため、中銀は4月の前回会合で一転して様子見姿勢に転じるとともに、2会合連続で政策金利を据え置いた。
タイは、一次エネルギーに占める原油比率が4割強、天然ガス比率が3割弱を占めており、合わせると7割弱に達する。さらに、原油輸入の6割を湾岸産油国からの輸入が占めており、価格上昇や供給不安に直面している。このため、5月のインフレ率は前年同月比+2.79%と中銀目標(2±1%)のレンジ内で推移しているものの、2025年4月から1年以上にわたってマイナスで推移してきた状況は一変している(図1)。なお、コアインフレ率は前年同月比+0.92%に上昇幅が拡大しているものの、水準は目標レンジの下限を下回る水準で推移している。米国とイランの停戦合意で原油高は一服しており、先行きはエネルギーインフレの動きも一服することが期待される。その一方、化学肥料の価格が高騰しているうえ、足元ではスーパーエルニーニョが発生しており、タイでは高温と少雨(干ばつ)により農業生産が低迷して食料インフレを招く可能性が高まっている。

【足元で進行するバーツ安も中銀の対応を困難にしている】
金融市場においては、原油高による経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の悪化を警戒する向きに加え、「有事のドル買い」の動きも重なり通貨バーツ相場は調整の動きを強めた。また、年明け直後にかけては、タイでは金取引が盛んであることを理由に、バーツ相場は金相場に連れ高するなど実体経済と無関係に強含む推移をみせてきた。しかし、このところの金相場はピークから大幅に調整しており、こうした事情も影響してバーツ相場は頭打ち感を強めている。足元では原油高は一服しているものの、FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げ観測を反映して米ドル高が意識されている。このため、足元のバーツの対ドル相場は1年2ヵ月ぶりの安値となるなど、急速にバーツ安が進んでいる(図2)。

ASEANでも有数の製造業の集積地であるタイにとって、バーツ安は輸出競争力の向上を通じて景気を押し上げることが期待される。しかし、足元の原油価格は依然高止まりしているうえ、原油や石油製品、天然ガスの収支(輸出入の差し引き)がGDP比で▲5.4%に達すると試算されるため、原油高はマクロ面で景気の足を引っ張ることが懸念される。さらに、原油高やジェット燃料の供給懸念を理由に航空便の減便が進めば、GDPの1割を上回る観光関連産業への悪影響も避けられない。そして、タイは化学肥料のほぼすべてを輸入に依存しており、価格が高止まりするなかでバーツ安による輸入インフレは、異常気象と重なる形で食料インフレを引き起こすことも考えられる。したがって、中銀は今年初めにおいてはバーツ高への対応に苦慮してきたものの、足元では一転してバーツ安への対応に苦慮している状況にある。
【中銀は中東情勢の改善を期待も、バーツ安で政策の舵取りは困難続く】
会合後に公表された声明文では、今回の決定が「全会一致(7人全員が据え置きを支持)」であったことを明らかにした。タイ経済について「従来見通しを上回る勢いが見込まれるが、低水準にとどまり、不均一な状況が続いている」との見方を示した。物価動向について「供給要因による上昇が見込まれるが、徐々に低下に転じると見込まれる」とした。信用動向については「引き続き低調であり、中小企業や脆弱な家計の融資の質を監視する必要がある」とした。このため、今回の結果について「緩和的な金融政策スタンスと的を絞った措置の組み合わせで景気回復が下支えされており、金利据え置きを通じて物価動向や中期的なインフレ期待を注視する」との判断を示した。
具体的には、経済成長率を「2026年は+2.3%、2027年は+1.8%」と4月時点(2026年は+2.0%)から上方修正し、「AI・半導体関連の輸出や投資の好調さ」を上振れ要因に挙げる一方、「政府の救済措置が終了した後はコスト上昇が家計消費の重しとなる」との見通しを示した。インフレ率は「2026年は+2.8%、2027年は+1.4%」と4月時点(2026年は+2.9%)からわずかに下方修正する一方、先行きは「中東情勢の改善が見込まれるが、コスト高が続くなかで企業のコスト転嫁の動きや中期的なインフレ期待を注視する必要がある」との見方を示した。バーツ相場について「FRBのスタンス転換を背景に下落した」としつつ、「金融システム全体の金利はおおむね安定している」との見方を示す。そして、「金融機関による信用の伸びが低迷している」として「的を絞った金融措置の継続を促す」との考えを示した。
そのうえで、先行きの政策運営について「物価安定と持続可能な経済成長、金融安定の維持を目指す」との従来からの考え方を繰り返した。しかし、「供給要因による物価は上昇しているが、今後もインフレ見通しや関連するリスクを注視する」と、4月の前回会合時点に比べて物価への警戒感が和らいでいるとの見方を示した。とはいえ、前述したように足元では一転してバーツ安が進むなど輸入インフレへの懸念が高まっており、中銀にとっては、景気の先行きに不透明感が残るなか、難しい政策運営を迫られる局面が続くと予想される。
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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