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2025.04.04
世界経済
国際秩序
米中関係
トランプ関税
米国第一主義の象徴となるトランプ相互関税
~中国の相対的な魅力の増大と、世界のブロック化には要注意~
嶌峰 義清
- 要旨
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- 米国の相互関税措置は、世界経済にマイナスとなるだけでなく、米物価上昇を通じて世界同時不況を招くリスクもある。
- こうしたリスクを抱えた上でも、トランプ大統領は自らが掲げる米国第一主義に突き進んでいるが、世界の中での米国の権威を貶めかねない。
- 米国の孤立主義的な動きに代わり、中国が世界を引き寄せる動きを強める可能性がある。世界経済のブロック化、安全保障リスクの高まりには要注意だ。
短期的にはマイナスの影響しかないトランプ相互関税
4月2日に発表された米国の相互関税の内容は、事前予想に比べて非常に厳しい内容となったことで、各国マーケットはリスク回避の動きを見せた。高い関税を課された国の株価はもとより、そうではなかった国(一律で課せられる10%のみにとどまった国)においても株価は大幅に値下がりした。背景には、この措置が世界経済、特に米国経済に悪影響をもたらすと考えられるからだ。 今回の措置により、米国の輸入関税率は加重平均で20%前後になると試算されている。関税の支払いは輸入業者が負うことになるが、その一部は販売価格の引き上げによって消費者に転嫁されることになろう。この結果、米国の消費者物価は試算によって幅はあるものの、概ね+0.5~1.0%押し上げられるとされている(エネルギーと食料品を除くコアベースでは1.0~1.5%程度と試算されている)。足元(2月)の米消費者物価は前年同月比+2.8%であるが、これが同+3.3~3.8%に達することになる。3%代半ばの物価上昇率となると、FRBは追加利下げを躊躇うことになろう。労働需給が逼迫している中での物価上昇は、更なる賃上げ圧力を高めかねないことも懸念材料となる。
もっとも、その前に消費者が長期化する高金利や更なる物価の上昇に耐えられなくなり、個人消費が失速するリスクの方が警戒されている。家計の財布の紐の緩み具合にも繋がる米消費者信頼感指数(3月)は92.9ポイントと、消費失速の分岐点となる100ポイントを6ヶ月ぶりに割り込み、2021年12月以来の低水準にまで落ち込んだ。関税引き上げの内容が予想以上だったことや、これを受けて米国株が急落していることは消費者マインドをさらに冷え込ませかねない。その場合、予想外に早く個人消費が落ち込んで、米景気が失速する可能性もある。
米国経済の失速は、世界に波及する恐れがある。当社の試算によれば、関税の引き上げは世界の実質GDPを▲0.5%押し下げるインパクトがあるとされるが、景気次第ではそれ以上の落ち込みとなり、世界同時不況に繋がる可能性も否定できない。
関税引き上げはアメリカ第一主義に適った政策なのか
関税引き上げを発表した翌日(4/3)の米国株は急落したが、トランプ大統領はこれを意に返さず「患者が外科手術を受けたようなもの」と述べた。そのまま解釈すれば、“病んでいる米国が健全に戻るために必要な措置(これによって病は治る)”ということになる。
確かに関税の引き上げによって輸入品の価格が上昇すれば、相対的に米国内産製品の価格競争力が向上する。米国内への生産シフトを表明した韓国の自動車メーカーのように、今後は米国内で販売する製品は米国内で製造する動きも出てこよう。これは当該国の雇用を悪化させる代わりに、ラストベルト(錆び付いた地帯)で70年代から80年代にかけて職を失ったような人たちの雇用確保に繋がろう。トランプ支持層の中心には、白人低所得者層があると言われている。その不満は、“金融とITのスキルが高いものだけが優遇される一方で、(不法)移民が低賃金で職を奪う”というものだ。関税の引き上げが一時的に世界経済を失速させ、世界の製造業を混乱に陥れたとしても、彼らの賃金を引き上げ、新たな雇用を生み出すのであれば、トランプ大統領が謳い、その支持者が熱狂する「米国第一主義(America First)」は、成功を収めるだろう。しかし、トランプ大統領が謳うもう一つのスローガンである「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again:MAGA)」には繋がらない。トランプ大統領はこのスローガンの下、米国の経済的な繁栄、強力な国際的地位、伝統的な価値観を持っていた時代への回帰を訴えた。しかし、WTOのルールにも反する一方的な関税の引き上げは、国際的な地位を貶めるものだ。そればかりではなく、足元をすくわれる可能性もある。
猛反発する各国と、時計を巻き戻す世界
案の定、世界各国の首脳は米国の一方的な関税の引き上げに猛反発している。EUやカナダ、中国などは報復関税を含めた対抗措置に言及したほか、フランスのマクロン大統領は「物事がはっきりするまでは、(米国への)投資を凍結すべき」と主張した。これに対し、トランプ大統領は対抗措置には対抗措置を講ずる用意があることを表明するなど、(少なくとも表面上は)事態はエスカレート一途を辿っている。
今回の関税が完全に実施されれば、米国の実効関税率は1909年以来の高さになるとされている(図)。

そもそも関税の引き下げは1947年に設立されたGATT(関税及び貿易に関する一般協定)の下で推進されてきた。そこには、世界の保護主義や孤立主義が第二次世界大戦の一因になったという反省がある。1920年代の大恐慌時に、多くの国が自国経済の立て直しや失業対策のために保護主義を打ち出し、輸入制限や関税の大幅引き上げなどの対策を打った。これにより国際貿易は縮小し、却って不況を深刻化させることとなった。これによる政治への不満や国際的な摩擦は、独裁的な政治や排他的な政治に繋がったとされている。トランプ大統領による今回の関税引き上げは、世界をGATT以前に戻すかのようなものだ。
注目される中国の動き
トランプ大統領は、関税の交渉については相手国が「並外れた何か」を提供するのであれば交渉に応じるとの認識を示した。米国のラトニック商務長官は3日、「トランプ大統領が関税を撤回する可能性はないと思う」と述べ、貿易相手国が不公平な関税率や非関税障壁を完全に是正したときのみ交渉する余地があるとし、関税撤回のハードルは非常に高いことを印象づけた。もっとも、世界情勢次第で様相は一変し、米国は孤立化政策を撤回する可能性もある。
今回の関税引き上げは、日本やEU、カナダ、豪州という米国の“同盟国”も含まれ、同盟体制にひびが入るのではないかと危惧する見方もある。一方で、中国については先に引き上げた20%の賦課関税を含めて54%の関税引き上げ措置となったほか、中国製品の迂回輸出が指摘されているカンボジアには49%、ベトナムには46%などと、極めて高い関税を課すことを発表した。トランプ大統領は一期目でも中国を相手に関税引き上げ合戦を行っているほか、安全保障面でも台湾有事に言及するなど、強く警戒している様子が窺われる。
しかし、中国への警戒感もにじませた今回の関税措置は、対象となった国々にとって中国との関係を深めることを後押しする可能性がある。かねてより中国は東南アジアやアフリカ、中南米の一部の国々との交流を深め、独自の貿易網と資源確保ルートを築いている。足元で中国経済は不動産バブル崩壊の影響などもあって停滞しているものの、インフラ支援や軍事支援などを含めた多面的な外交は、一部の新興国には魅力的に映るだろう。
米国が孤立的な動きを強めるほど、中国の経済的な魅力は相対的に増すことになるため、今後は貿易面での中国の外交活動がより活発化することになろう。それは、“台湾有事”の際に中国が国際的に孤立するリスクを低減することにも繋がる。米国第一主義の象徴とも言える今回の関税引き上げが、米中対立の構図を浮き上がらせ、世界のブロック化を煽り、ひいては安全保障面でもリスクが高まることには注意が必要だろう。
嶌峰 義清
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

