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2025.04.04
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韓国・尹大統領の罷免決定、政治混乱の収束は進むか
~次期大統領選は李氏優位の情勢、政治混乱収束の一方で対米関係の行方には不透明要素も~
西濵 徹
- 要旨
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韓国の憲法裁は4日、昨年12月の尹錫悦大統領による非常戒厳発令を巡る弾劾訴追について罷免を妥当とする判断を下した。憲法裁は判決で一連の対応が憲法違反や法律違反、大統領としての義務違反に当たるとの見方を示すなど、尹氏側の主張の大宗が退けられた格好である。この決定を受けて尹氏は即日失職し、60日以内に次期大統領選が実施されるなか、現時点では6月4日の可能性が高いとみられる。
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世論調査では、次期大統領選を巡って野党・共に民主党の李在明代表が有力候補となっている。李氏は、過去の不正疑惑で有罪判決を受けるも、先月の控訴審で逆転無罪判決を受けており、大統領選出馬に弾みが付いている。一方、世論はインターネット上の様々な陰謀論も影響して右派と左派の対立が先鋭化しており、選挙戦の激化も予想される。政治混乱は経済や外交に悪影響を与えるなか、政治混乱の終結はプラスに寄与することが期待される。ただし、李氏は中国や北朝鮮との関係を重視する一方、米トランプ政権との関係には不透明なところが少なくないなか、ウォン相場は見通しが立ちにくい展開となる可能性もある。
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韓国の憲法裁判所は4日、非常戒厳の布告を巡って弾劾訴追された尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対して罷免を妥当とする判断を下した。判断は8人の裁判官による全会一致であり、現職の大統領に対する罷免決定は2017年の朴槿恵(パク・クネ)元大統領に続いて2例目となる。また、憲法裁判所には上訴の制度がないため、今回の判断が最終決定となるとともに、尹氏は即日失職した。尹氏を巡っては、昨年12月3日夜に内政停滞の打開を目的とする非常戒厳を発令し、発足された戒厳司令部が政治活動の禁止、言論・出版統制を布告するとともに、国軍が国会に突入した。しかし、発令直後から野党のみならず与党内にも非常戒厳に対する批判が強まり、国会が非常戒厳の解除要求決議を可決したことを受け、尹氏は翌日未明に戒厳解除に追い込まれた(注1)。
その後、野党が多数派を占める国会において尹氏に対する弾劾訴追を求める動きが強まるも、一旦は尹政権を支える与党・国民の力が結束する形で弾劾訴追案の廃案に追い込んだ(注2)。しかし、その後も尹氏は自らの判断の正当性を主張するなど徹底抗戦の構えをみせた結果、与党内に非常戒厳に対する批判が出ていたことも影響して一部が離反し、最終的に弾劾訴追案が可決された(注3)。さらに、年明けには高位公職者犯罪捜査処(公捜処)が尹氏による非常戒厳の発令を巡る内乱首謀容疑で逮捕するなど、現職大統領として初めて逮捕されることとなった。結果、その後は弾劾裁判と公捜処が主導する内乱首謀罪による刑事裁判が並行して行われた。しかし、先月初めにソウル中央地裁は尹氏の勾留取り消しを決定するとともに、捜査手続きの不備を理由に尹氏に対する逮捕状・勾留状を発布したソウル西部地裁の判断を取り消す決定を行い、尹氏は釈放された。
一方、一連の問題を巡る世論は右派と左派が真っ向から対立するとともに、インターネット上で流布されている様々な陰謀論も影響する形で一段と深刻化する展開が続いている。こうしたなか、憲法裁判所は今回の決定に当たって、非常戒厳の発令要件として現行憲法が規定する『戦時や事変、またはこれに準ずる国家非常事態(77条1項)』に当たらないとした上で、「国民を衝撃に陥れるとともに、社会、経済、政治、外交に混乱をもたらすなど、国民の信任を裏切った」と指摘した。そして、発令に正統性がなく(憲法違反)、手続きにも瑕疵があった(法律違反)とした上で、国会の機能妨害を目的とする国軍の動員は三権分立という大統領としての義務に対する重大な違反であると指摘するなど、尹氏側が展開してきた主張の大宗が退けられた格好である。
尹氏の失職を受けて、今後は憲法規定に基づく形で60日以内に次期大統領選挙が行われるなか、現時点においては6月3日の投開票が有力視されている。次期大統領選を巡っては、世論調査において野党・共に民主党代表の李在明(イ・ジェミョン)氏が一貫してトップを走る展開が続く。李氏を巡っては、2022年の大統領選出馬に際し、城南市長時代の土地開発事業に関する不正疑惑に関連して虚偽申告を行ったことを理由に公職選挙法違反で起訴され、昨年の一審判決で懲役1年、執行猶予2年の有罪判決を受けた。当該判決は李氏による次期大統領選への出馬を困難にするとみられた。しかし、先月末にソウル高裁は控訴審で一審判決を破棄した上で無罪判決を下すなど、次期大統領選に向けて弾みが付いているほか、直後に行われた世論調査においても他の候補予定者を大きく引き離している。よって、現時点においては李氏が次期大統領となる可能性は高まっていると捉えられる。
他方、足元の韓国経済を巡っては、政治混乱が長期化するなかで幅広く経済活動の足を引っ張る悪循環に陥る動きが顕在化している(注4)。さらに、政治混乱による外交停滞を受けて、米トランプ政権が関税賦課を材料にディール(取引)を仕掛ける動きをみせるも、有効な手立てを打つことが出来ない展開が続いてきた。結果、トランプ氏が2日に公表した相互関税を巡っては、同国の非関税障壁を加味した平均関税率は50%とWTOベース(13.4%)から大幅に高いと評価した上で、税率を25%としている。相互関税による直接的な影響は名目GDP比で1.7%程度と試算されるなど、景気に悪影響を与えることは避けられない。しかし、足元のウォン相場を巡っては尹氏の失職による政治混乱の終結に加え、次期大統領選挙を経て政府と国会のねじれ状態が解消されることを見越して好感している模様である。ただし、李氏は中国や北朝鮮との関係を重視すると見込まれ、在韓米軍を巡って米トランプ政権との摩擦が生じる可能性もあり、ウォン相場は方向感を見出しにくい展開が続くことも予想される。

注1 2024年12月4日付レポート「韓国・尹大統領が内政停滞を理由に「非常戒厳」を突如宣言」
注2 2024年12月9日付レポート「韓国・尹大統領への弾劾訴追案は廃案も、政局の混乱は不可避」
注3 2024年12月16日付レポート「韓国・尹大統領の弾劾訴追案可決、「情」に揺さぶられる政治の行方」
注4 1月23日付レポート「韓国、政治混乱が経済の足を引っ張る悪循環、「トランプ2.0」にも懸念」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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