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2024.12.04
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韓国・尹大統領が内政停滞を理由に「非常戒厳」を突如宣言
~宣言の妥当性に疑問の上、与野党の反対で早々に取り下げ、尹政権は「終わりの始まり」に突入~
西濵 徹
- 要旨
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- 韓国では、2022年の大統領選を経て右派の尹政権が誕生したが、国会は左派勢力が多数派を占める「ねじれ状態」が続き、政権運営は混迷を深める展開が続いてきた。こうしたなか、尹大統領は3日夜に緊急談話を発表して非常厳戒を布告した。現行憲法では非常事態に際して大統領に戒厳の布告が認められる一方、内政問題を理由に挙げるなど「筋が悪い」なか、野党のみならず与党内からも反発が高まった。結果、国会の過半数による戒厳の解除要求決議が可決され、尹大統領は4日早朝に戒厳の解除を決定した。他方、一連の混乱を受けて野党は尹大統領の退陣を要求するとともに、弾劾決議に動く方針を示しているほか、大統領府や内閣が総退陣するなど政局は混乱している。尹氏が退任に追い込まれれば、次期大統領選では左派政権が誕生する可能性が高く、国会を含めて左派一色となり、朝鮮半島情勢や日韓関係への不透明感が高まる。また、左派政権となれば財閥企業を取り巻く環境悪化も予想され、外国人投資家による韓国資産への投資意欲を後退させる可能性もある。中銀の政策運営も見通しが立たなくなることも予想される。
韓国では、2022年の大統領選で保守政党の「国民の力」から出馬した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が勝利し、5年ぶりとなる政権交代が行われた(注1)。しかし、国会(一院制:総議席数300)においては左派政党の「共に民主党」が多数派を占める『ねじれ状態』であるなど、発足当初から政権運営は困難に直面してきた。さらに、今年4月に実施された総選挙でも与党が議席を減らすなどねじれ状態が一段と深刻化しており(注2)、政権運営は一層厳しさを増す状況が続いてきた。事実、国会は尹政権が提出した予算案の修正を要求するとともに、政権の中枢を尹氏をはじめとする検察出身者が占めていることを受けて、検察官をはじめとする官僚の弾劾を推進するなど政権との対決姿勢を鮮明にしてきた。また、尹政権が今年2月に地方の医師不足解消を目的に医学部定員の大幅増計画を発表したことをきっかけに、多数の研修医がストを決行して医療現場が混乱に陥るとともに、国民生活にも悪影響が出る事態に発展してきた。結果、政権運営は停滞するとともに、足下の景気は国内・外双方に不透明要因が山積するなかで頭打ちの様相を強めるなか(注3)、政権支持率は20%程度の『低空飛行』が続くなど事態打開も見通せない展開が続いてきた。こうしたなか、尹大統領は3日夜に緊急の談話を発表し、野党が多数派を占める国会が国政や司法を麻痺させていることを理由に、憲法秩序を守るべく「非常戒厳」を宣布すると表明したほか、国防省も軍に警戒態勢の強化を指示し、司令官を陸軍参謀総長とする戒厳司令部が稼働するとともに、戒厳司令部は国会や地方議会、政党活動、政治的結社、集会、デモなどの政治活動を禁じる旨の布告令を発表するなど、言論と出版も統制を受ける旨が示された。韓国における非常戒厳の発令は、1980年の民主化運動の際以来で44年ぶりのことである上、1987年の民主化以降では初めてのこととなる。現行憲法においては、戦時や事変、またはこれに準ずる国家非常事態に際して大統領は戒厳を布告することを定めている(77条1項)ものの、戒厳司令部が公表した布告文には、戒厳の理由に上述した国家非常事態に該当する内容はなく、内政を巡る問題を挙げるなど『筋が悪い』内容となっている。よって、非常戒厳が公布された直後から、野党のみならず、与党からも批判が出るとともに、現行憲法では国会議員の過半数が戒厳令の解除を要求した際は、大統領はこれに応じる必要が定められるなか(77条5項)、国会が戒厳の解除要求決議を可決したことを受け、尹政権は4日早朝に戒厳の解除を決定した。一連の混乱を受けて、野党は尹大統領による戒厳決定が国家反逆罪に当たるとして批判を強めるとともに、尹大統領に対する弾劾法案を上程して早期の採決に動く方針を明らかにするなど、政局は一段と混乱することが避けられなくなっている。その後も、一連の混乱の責任を取る形で大統領府の高官が一斉に辞意を表明するとともに、内閣の閣僚も一斉に辞任を表明する事態に発展するとともに、野党や労働団体は尹大統領の辞任を要求するデモを展開するなど事態収拾の見通しが立ちにくくなる動きもみられる。民主主義国家である韓国において、検察出身の尹大統領が内政混乱の局面打開に戒厳を用いる『禁じ手』に走ったことの批判は免れない一方、朝鮮半島情勢が混迷の度合いを増す動きがみられるなかで、韓国の政局混乱が長期化することは実質的に北朝鮮を利することになる。さらに、一連の混乱が尹政権にとって『終わりの始まり』の引き金を引くきっかけとなることは間違いなく、弾劾決議に至る如何に拘らず最終的に退陣を余儀なくされる可能性は高まっていると判断できる。そうなれば、その後に実施される次期大統領選では左派候補が当選する可能性が高いと見込まれるほか、総選挙も前倒しで実施されることにより野党勢力が伸長すれば、政権、国会ともに左派一色の様相を強める可能性も考えられる。そうなれば、尹政権の下で関係改善に向けた取り組みが着実に前進してきた日韓関係についても一転して見通しが立たなくなることが予想される。なお、一連の混乱を受けて通貨ウォンの対ドル相場は大きく調整して一時2年強ぶりの安値を付けたものの、直後に中銀(韓国銀行)が必要に応じて『無制限』の流動性供給に動く方針を示すとともに、米ドル売りの為替介入に動いていることも重なり、落ち着きを取り戻している。他方、主要株式指数(KOSPI)は米大統領選でのトランプ氏勝利を受けて、朝鮮半島情勢を巡る見通しが立ちにくくなっていることに加え、その通商政策が韓国経済に与える影響を警戒して上値が抑えられる展開が続いている。こうしたなか、仮に次期政権が左派一色の様相を強めれば、財閥企業などに対して厳しい姿勢が強まることも予想されるほか、外国人投資家を中心に韓国資産に対する投資意欲が低迷する可能性にも留意する必要がある。中銀は先月末の定例会合で2会合連続の利下げに動いたものの(注4)、先行きの政策運営に不透明感が高まっていることは間違いないと言える。その意味でも、尹大統領の罪は極めて重いと捉えられる。


注1 2022年3月10日付レポート「韓国大統領選は尹氏勝利で政権交代も、期待値を上げない対応が肝要」
注2 4月11日付レポート「韓国総選挙、与党惨敗で尹政権は「死に体」化必至、日韓関係にも影か」
注3 10月24日付レポート「韓国景気は一段と頭打ちも中銀は政策の手足を縛られる」
注4 11月28日付レポート「韓国中銀、為替や不動産に懸念も、景気優先で2会合連続の利下げ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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