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2026.04.22
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インドネシア中銀、ルピア最安値更新で様子見姿勢を維持
~ルピア安定を最重要課題に挙げるも、中東情勢に左右される展開は続く~
西濵 徹
- 要旨
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インドネシア中銀は4月21〜22日の会合で、政策金利を4.75%に7会合連続で据え置いた。中銀は2024年9月から累計150bpの利下げを実施してきたが、その背景には、インフレの落ち着き、法改正による景気重視の政策運営、プラボウォ大統領が掲げる経済成長率を8%に押し上げる目標への達成圧力があったと考えられる。
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2025年以降はインフレが加速したものの、3月は再び中銀目標の範囲内に戻っている。しかし、中東情勢の緊迫化が新たなリスクとなっている。インドネシアは2004年に石油の純輸入国に転じており、原油高と石炭価格の上昇でエネルギーコストの増大は避けられない。政府は燃料補助金で物価上昇を抑えようとしているが、財政悪化への懸念が高まっている。
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プラボウォ政権の拡張的な財政運営により、2025年度の財政赤字はコロナ禍を除くと約20年ぶりの高水準に達している。原油高が続けば補助金拡充で財政赤字はGDP比▲4%近くに膨らみ、経常赤字との「双子の赤字」が深刻化する恐れがある。株式市場、ルピア相場ともに低迷しており、中銀は利下げ示唆を撤回して様子見姿勢を維持している。
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中銀はルピア安定を優先する姿勢を示しつつ、世界経済の成長率を下方修正、インフレ率を上方修正した。インドネシア国内の成長率見通しは維持し、為替介入強化や物価目標の達成に自信を示した。外貨準備高はIMFが示す「適正水準」を下回ると試算され、経済の構造的脆弱性を踏まえ、政府・中銀の政策対応を注視する必要性は高まっている。
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インドネシア銀行(中銀)は、4月21~22日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利である7日物リバースレポ金利を7会合連続で4.75%に据え置くことを決定した。中銀は、2024年9月にコロナ禍後初の利下げに踏み切り、その後も一時休止を挟みつつ、2025年9月まで計6回、累計150bpの断続的な利下げを実施してきた。中銀が利下げに動いた背景には、インドネシアのインフレ率が2023年半ばから中銀目標(2.5±1%)の範囲内で推移するなど落ち着きを取り戻したことがある。さらに、中銀を巡ってはここ数年、法改正を通じて、政策運営に景気を重視せざるを得ない状況に置かれてきた。そのうえ、2024年に大統領に就任したプラボウォ氏は、自身の任期中に経済成長率を8%に引き上げる方針を掲げており、過去数年の平均成長率が5%程度で推移してきたことを踏まえれば、成長率を3pt押し上げる必要がある。こうした事情も中銀が積極的な利下げに動く一因となってきた。
2025年以降のインフレ率は加速に転じているうえ、年明け直後は前年にプラボウォ政権が時限措置として実施した電力料金引き下げの反動も重なり、インフレ率が大きく上振れして中銀目標を上回る伸びとなった。足元では、そうした動きが一巡しており、3月のインフレ率は前年同月比+3.48%と3ヶ月ぶりに中銀目標の範囲内に戻っている。しかし、2月末のイスラエルと米国によるイランへの軍事行動をきっかけとした中東情勢の緊迫化を受けて、インドネシア市場は混乱に直面している。インドネシアは産油国ではあるものの、近年は国内需要が拡大しているうえ、国内の精製能力不足も重なり、2004年に純輸入国に転じた。さらに、その後も経済の堅調な成長を追い風に国内需要は一段と拡大しており、原油や石油製品、天然ガスの収支(輸出と輸入の差し引き)はGDP比▲1.6%程度の赤字と試算される。一次エネルギーに占める石炭比率は約35%であるうえ、石炭火力発電への回帰を強める動きをみせているものの、中東情勢の緊迫化以降は代替需要の拡大を反映して石炭価格も上昇しており、エネルギー価格の上昇は避けられない。こうしたなか、プラボウォ政権は原油高による物価への影響を懸念して、燃料補助金を維持して販売価格を抑える動きをみせているものの、補助金歳出の膨張は避けられず、財政運営に対する不透明感が高まっている。

プラボウォ政権による財政運営を巡っては、大統領肝いりの学校給食無償化政策をはじめ拡張志向が強く、2025年度の財政赤字はGDP比▲2.92%と法定上限に近付き、コロナ禍の影響を除けば約20年ぶりの水準となるなど財政状況が急速に悪化している。仮に原油価格が足元の水準で1年間推移した場合、原油高はマクロ面で景気の足を引っ張ることで歳入減を招く一方、燃料価格を抑えるべく補助金を拡充すれば、財政赤字はGDP比▲4%近くに膨張する可能性が懸念される。そのうえ、原油高は貿易赤字を拡大させ、経常赤字と財政赤字の「双子の赤字」が一段と深刻化するなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の悪化を招くことにつながる。インドネシア株式市場を巡っては、1月末に指数算出会社のMSCIが情報開示に関する懸念を表明したことをきっかけに、その後の主要株価指数(ジャカルタ総合指数)は大幅に調整した。これを受けて、証券取引所は懸念解消に向けた対策を公表し、市場改革への意欲をみせているものの(注1)、中東情勢を巡る不透明感が相場の足かせとなっている。さらに、財政運営への懸念は通貨ルピア相場の重しとなり、足元では最安値圏で推移するなど、輸入物価の押し上げを通じたインフレが懸念される状況にある。中銀のペリー総裁は、3月の前回会合後の記者会見において、利下げの可能性を示唆する見解を撤回する考えを明らかにしたが(注2)、今回もルピア安に直面するなかで、様子見姿勢を維持せざるを得なかったと考えられる。

会合後に公表した声明文では、今回の決定について「ルピア相場の安定を目指す政策方針に合致したもの」としつつ、「ルピア相場の安定や物価安定に向けて政策調整を行う用意がある」との考えを示した。世界経済について「中東情勢の悪化を理由に見通しは悪化している」としたうえで、「2026年の経済成長率は+3.0%になる」と従来見通し(+3.1%)から下方修正する一方、「2026年のインフレ率は+4.2%になる」と従来見通し(+4.1%)から上方修正した。一方、同国経済について「世界経済の減速にもかかわらず、内需が下支え役になる」として、「2026年の経済成長率は+4.9~5.7%になる」との従来見通しを維持した。対外収支については「世界経済の不透明感が増すなかで政策の相乗効果を高める」として、「2026年の経常赤字はGDP比▲1.3~▲0.5%に収める」としつつ、ルピア相場について「為替介入を強化する」、「相場安定に向けた取り組みを強化する」、「中銀の政策対応や良好な景気動向を理由に先行きは徐々に安定化が見込まれる」との見通しを示した。そのうえで、物価動向について「2026年も27年も目標の範囲内にとどまる」として、「政府による政策対応が目標の範囲内にとどめることに資する」との見方を示した。しかし、3月末時点における外貨準備高の水準はIMF(国際通貨基金)が金融市場の動揺への耐性の有無を示すARA(適正水準評価)に照らして「適正水準(100~150%)」の下限を下回ると試算される。この場合の「金融市場の動揺」とは世界金融危機のようなグローバルなショックを想定しており、現時点ではそうした事態が懸念される状況にはないことを勘案すれば、過度に悲観的になる必要はない。しかし、インドネシア経済が抱える構造的な脆弱性が資金流出圧力を招く一因となっており、政府や中銀の政策対応にこれまで以上に注意を払う必要性は高まっている。

注1 4月2日付レポート「インドネシア、市場改革は着実に前進も、イラン情勢次第の展開」
注2 3月17日付レポート「インドネシア中銀、ルピア安定重視へ、総裁も利下げの可能性を撤回」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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