- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- 2025年3月の日銀短観予測
- 要旨
-
次回の3月調査では、大企業製造業の業況判断DIが小幅で悪化すると予想する。3月12日にトランプ関税が鉄鋼・アルミに対して発動された。こうした悪影響は、さらに先行き広がっていくと警戒され、先行きDIにも表れるとみる。設備投資は堅調さが維持されるだろうが、売上・収益の2025年度初回計画にはトランプ関税の不安がにじむであろう。
業況判断は小幅悪化の見通し
4月1日に発表される予定の日銀短観3月調査では、大企業製造業の業況判断DIが前回比▲1ポイントの悪化(12月調査14→3月予測13)になる見通しである(図表1)。背景には、輸出・生産動向が伸び悩んでいることや、鉄鋼・アルミへのトランプ関税の実施、今後のトランプ関税への不安があるとみられる。トランプ関税は、3月12日に鉄鋼・アルミに25%の関税率がかけられた。貿易統計などのデータには、まだ悪影響が表れてきていないが、関連する素材業種では、輸出数量の減少に対する不安は強いはずだ。今後、トランプ関税は、自動車や半導体、医薬品、銅、木材などにも適用されていく公算が高く、それが各業界に不安を与えているだろう。この点は、短観の先行きDIのところに示されると予想している。

日銀短観の予測の参考にしているロイター短観の製造業DIでは、2024年秋頃から業況がじりじりと悪化する動きになっている(図表2)。景気に加速感が表れない状況は、中国・欧州向けの輸出が低調で、生産が盛り上がりに欠ける展開になっているという事情があるからだろう。輸出先でほとんど唯一堅調だった米国向けがトランプ大統領の登場で先行き不安に変わっていることは、輸出全体の停滞を予想させている。

非製造業については、3月の業況判断DIは前回比+2ポイントの改善が見込まれる。冬のボーナスは、実質賃金をプラスにする勢いがあり、訪日外国人消費も再び増えつつある。先行きについては、運輸・通信や卸売(商社)の分野でやはりトランプ関税への強い警戒感があり、業況悪化を予想する動きになるだろう。消費周りの先行きDIは、春闘における高い賃上げ率への期待感が示されるものの、相対的にトランプ要因のマイナスの方が大きいとみられる。
需給判断と価格判断
植田総裁は、この3月調査には非常に注目しているはずだ。1月の追加利上げ以降で初めての短観だからである。ここで、さらに物価上昇トレンドが強まっているかを確認したいと思うだろう。帝国データバンクの値上げ品目の調査では、この3~4月にかけて食料品などの値上がりが加速する動きになっている。全国と東京都区部の消費者物価も12月・1月と上昇率が加速する変化がみられる。この短観でも、仕入価格DIや販売価格DIの変化があってもおかしくはない。
こうした値上がりが単なる材料のコストプッシュ圧力(植田総裁の言う「第一の力」)だけではなく、需給逼迫や賃上げ圧力に伴う要因(「第二の力」)が働き始めているかどうかも知りたいところだろう。
売上・収益計画の先行き
トランプ関税の悪影響は、今回3月調査に初めて明らかになる2025年度の売上・経常利益計画にどう反映されるだろうか。前回12月調査での2024年度の経常利益計画は、大企業・製造業で前年比▲5.2%と必ずしも良くない。
売上計画では、国内と輸出の内訳も発表される。トランプ関税は、2025年度の輸出計画の方に表れるだろう。折から、中国向け輸出がじりじりと悪化して、アジア向け全体も低調である。先行きの実需拡大に期待が持ちにくい中で、悪化に拍車をかけるトランプ関税は、誠にタイミングが悪い。
設備投資の強さを確認
現下の景気情勢で前向きに評価できそうなのは、設備投資の強さである。「法人企業統計」では、さすがに2024年10~12月は設備投資の前年比も一巡する動きになった。そこで、日銀短観の年度計画で、設備投資の流れを確かめたいところだ。
今回3月調査では、設備投資についても2025年度の初回計画(発射台)が明らかになる。筆者は、大企業の製造業・非製造業がともに前年比プラス計画になると予想する(図表3)。また、2024年度の実績見込みでもかなり強い数字になりそうだ。トランプ大統領の影響で、先行き不透明感が設備投資にも影響しないかが警戒されるが、数字上はやはり堅調とみてよいだろう。

中小企業については、大企業ほどではないものの、2024年度実績見込みはプラス計画になる見通しだ。中小企業で注目しているのは、ソフトウェア投資の伸び率である。近年はAI投資のように新しいテクノロジーを活用したソフトウェアを中小企業でも積極的に導入して、生産性向上に努めている。そうした活動は、中長期的に生産性上昇→賃金上昇へとつながっていくので、好循環のメカニズムを強める意味でも重要な変化だと理解している。
金融政策への含意
日銀は、2025年中にあと2回の利上げをする可能性がある。金利正常化をできるときに極力推し進めたいという考えなのだろう。ここにきて、日銀の追加利上げは意外に早いのではないかという観測もある。そうすると、自ずと短観に対する注目も高まっていく。
おそらく、企業にとって①春闘の賃上げが消費などに前向きな変化をもたらすのか、②逆にトランプ関税が企業マインドをひどく萎縮させてはいないか、といった点が3月調査におけるチェックポイントになるだろう。トランプ関税はまだ本格的な発動には至っていないから、先行きDIの変化などにその警戒感は表れるだろう。経常利益計画や想定為替レートには、間接的なトランプ関税の影響が及んでいることを読み取れるかもしれない。
逆に、意外に企業はトランプ関税を脅威とは感じていないという結果になることもあり得る。その場合は、春闘の前向きな動きが内需を強めていくことになるので、次の利上げのタイミングは割りと早いという読み方ができるだろう。
熊野 英生
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

