インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

トルコ24年成長率は+3.2%止まりも、最悪期を過ぎつつある兆候

~インフレ鈍化で景気後退局面脱出も、先行きの景気には国内外双方で懸念要因が山積する展開~

西濵 徹

要旨
  • ここ数年のトルコでは、インフレが常態化するにも拘らずエルドアン大統領の下で中銀は低金利政策を迫られ、結果的にインフレが上振れする展開が続いた。しかし、昨年の選挙後は一転して物価と為替の安定を目的に正統的な政策に舵を切られたことで、昨年半ばを境にインフレは頭打ちの動きを強めた。その一方、物価高と金利高の共存状態が続いたことで、景気後退局面入りするなど実体経済を巡る状況は悪化した。
  • ただし、インフレが頭打ちの動きを強めて実質金利はプラスに転じるなど引き締め度合いが強まったことを受け、中銀は昨年12月に続き、1月にも追加利下げに動いた。ただし、中銀は引き締め姿勢を維持する考えをみせているが、その背景には昨年末以降の米ドル高再燃を受けてリラ安の動きに歯止めが掛からない展開が続いている上、実体経済を巡る動きに不透明感が高まっていることも影響している。
  • なお、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+6.92%と、3四半期ぶりのプラス成長に転じるなど景気後退局面を脱した。EUの景気低迷などが輸出を下押しする一方、インフレ鈍化による実質購買力の押し上げや住宅需要の堅調さが内需を押し上げるなど、内需と外需で対照的な動きがみられる。幅広い分野で生産拡大が確認される上、在庫調整が進む動きもみられるなど景気実態は数字より良好と捉えられる。
  • 昨年の経済成長率は+3.2%と4年ぶりの低成長に留まったが、これは年央の景気後退局面入りが影響している。足下では景気底打ちが確認されているが、外需には不透明要因が山積するとともに、金融市場を巡る懸念が金融政策の手足を縛るなど内需の足かせとなる材料はくすぶる。さらに、今年は経済成長率のゲタのプラス幅も縮小しており、当研究所は今年の経済成長率は+3.0%に留まると予想する。

ここ数年のトルコを巡っては、コロナ禍一巡による経済活動の正常化、商品高、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨リラ安の動きが重なりインフレが常態化してきたにも拘らず、エルドアン大統領が主張する「高金利がインフレを招く」という因果が倒錯した理論に基づく形で中銀は低金利政策を余儀なくされたことでインフレが大きく上振れする事態に直面してきた。なお、エルドアン氏は一昨年の大統領選で再選を果たしたものの、インフレ長期化に伴い幅広く国民生活に悪影響が出たこともあり、辛勝に留まるなど苦戦を強いられた。よって、エルドアン氏は選挙後の内閣改造を経て経済チームを『正統的な』政策を志向する陣容で固めるとともに、中銀は物価と為替の安定を目的に累計4100bpもの利上げに動いたほか、政府も緊縮財政に舵を切るなど物価抑制に本腰を入れる動きをみせた。

しかし、昨年は前年にインフレが頭打ちした反動で再び加速に転じるとともに、国際金融市場では米ドル高の動きが再燃してリラ相場は最安値を更新するなど輸入物価に押し上げ圧力が掛かる展開が続いた。よって、昨年半ばにインフレ率は再び70%を上回る高い伸びとなるとともに(図1)、中銀は政策金利を50%で据え置く対応を維持したため、物価高と金利高の共存が個人消費をはじめとする内需の足を引っ張る懸念が高まった。さらに、トルコ経済は輸出の4割以上をEU(欧州連合)向けが占めるなどEUとの連動性が極めて高く、EU景気が頭打ちの動きを強める展開をみせたことは外需の足かせとなった。その結果、昨年は4-6月、7-9月と2四半期連続のマイナス成長となるテクニカル・リセッションに陥るなど景気は頭打ちの動きを強める展開をみせた(注1)。

図表
図表

一方、インフレは昨年5月を境に頭打ちの動きを強めるとともに、昨年9月には政策金利を下回る伸びとなるなど実質金利(政策金利-インフレ)はプラスに転じて引き締め効果が顕在化する一方、上述のように景気が頭打ちの動きを強めていることもインフレ鈍化を促すことに繋がってきた。その後もインフレは一段と鈍化して実質金利は数年ぶりのプラス水準となるなど金融政策の引き締め度合いは一段と強まる一方、実体経済への悪影響が懸念される事態となったことを受けて、中銀は昨年12月の定例会合で現行の経済チームの下で初の利下げに動いた(注2)。さらに、中銀は先月の定例会合においても2会合連続の利下げを決定する一方(図2)、先行きの政策運営についてはインフレを一段と鈍化させるべく引き締め度合いを調整するなど、実質金利をプラスに維持可能な程度で利下げ幅を決定する考えを示した(注3)。

図表
図表

なお、中銀は今週7日に次回の定例会合の開催を予定しているものの、足下のインフレが中銀想定を上回る展開が続くなかで先月初めに今年末時点のインフレ見通しを引き上げるとともに、カラハン総裁も利下げ休止に言及する難しい対応を迫られている。この背景には、昨年末以降の国際金融市場では米トランプ政権の通商政策をはじめとする政策運営が米国のインフレを招くとの見方が強まるとともに、米ドル高の動きが再燃しており、経済チームによる正統的な政策運営を受けて調整のペースが緩む動きをみせてきたリラ相場が再びリラ安の動きを強めていることが影響している(図3)。トランプ氏は米FRB(連邦準備制度理事会)の政策運営に『口出し』するなど不測の動きをみせているものの、仮に追加関税が発動される事態となれば物価のみならず、様々な影響が広がることが懸念されるほか、リラ相場に混乱を招く可能性に留意する必要がある。

図表
図表

このように、金融市場を取り巻く環境は厳しい展開が続いているものの、インフレ鈍化による実質購買力の押し上げが期待されるなか、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+6.92%と3四半期ぶりのプラス成長に転じるなど景気後退局面を脱している(図4)。需要項目別では、EUの景気低迷が足かせとなる形で輸出は下振れする展開が続いているほか、外国人来訪者数も頭打ちに転じるなかで輸出に下押し圧力が掛かる一方、インフレ鈍化による実質購買力の押し上げを受けて個人消費は底入れしている。さらに、ウクライナ戦争を機に拡大が続くロシアからの移民流入を追い風にした住宅需要の高まりが固定資本投資を押し上げるなど、内需と外需で対照的な動きがみられる。結果、旺盛な内需を反映して輸入は大きく拡大しており、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度は前期比年率ベースで▲6.72ptと大幅マイナスになるとともに、在庫投資の寄与度もマイナスで推移するなど在庫調整が進む動きもみられる。よって、足下の景気を巡っては数字以上に勢いを増していると捉えられる。分野ごとの生産動向を巡っても、金融など一部のサービス業の生産に下押し圧力が掛かる動きがみられる一方、内需の堅調さを反映して小売をはじめとするサービス業の生産が拡大するとともに、建設業や製造業などでも生産拡大の動きがみられるほか、異常気象の頻発が足かせとなってきた農林漁業の生産も底入れするなど、全般的に生産が拡大している動きがみられる。

図表
図表

結果、昨年通年の経済成長率は+3.2%と前年(+5.1%)から鈍化して、コロナ禍の影響が現れた2000年(+1.9%)以来の低い伸びに留まった。これは上述のように昨年半ばにかけての同国経済が景気後退局面入りしたことが大きく影響している一方、足下では景気の足を引っ張っていた物価高と金利高の共存状態が徐々に解消しつつあることに鑑みれば、先行きの景気は徐々に底入れが進むことが期待される。なお、今年の経済成長率のゲタについては+1.2ptと昨年(+2.0pt)からプラス幅が縮小している上、外需を巡ってはEUをはじめとする主要貿易相手の景気動向に不透明感がくすぶるほか、米トランプ政権の通商政策をはじめとする世界貿易を巡る懸念が山積するなか、外需をけん引役にした景気底入れのハードルは高まっている。また、国際金融市場を取り巻く状況にも不透明感がくすぶるなどリラ安圧力に晒されるなかで中銀にとっては機動的な政策対応が困難になることも予想されるなか、足下で底入れの動きをみせる内需が一段と回復する見通しも描きにくい。その意味では、今年のトルコ経済も勢いの乏しい展開が続くと見込まれるなか、当研究所は今年の経済成長率見通しを+3.0%と想定している。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ