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2025.02.20
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インドネシア中銀、緩和サイクルを再停止、難しい判断を迫られる展開
~幾分ハト派姿勢後退も、ペリー総裁を巡る動きがルピア相場に影響を与える可能性に要注意~
西濵 徹
- 要旨
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インドネシア中銀は19日の定例会合で政策金利を2会合ぶりに5.75%に据え置いた。同行は昨年9月にコロナ禍一巡後初の利下げに動くも、その後は米ドル高再燃に伴うルピア安に直面して利下げに二の足を踏む難しい対応を迫られた。しかし、先月には再利下げに動くなど景気下支えに注力する姿勢をみせた。
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同国では昨年10月に誕生したプラボウォ大統領が「8%成長」実現を公約に掲げるなか、様々な政策後押しを強化する動きをみせる。足下のインフレはエネルギー価格の下振れを受けて中銀目標をも下回るなど追加利下げへの環境は整う一方、ルピア安も影響してコアインフレは緩やかに加速する状況が続く。ルピア相場も昨年後半に底入れした分が足下では相殺されるなど、政策対応は困難の度合いを増している。
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会合後に公表した声明文では、世界経済の不透明感が高まる一方、同国経済は良好との見方を示すとともに、政策運営を巡ってもルピア相場と物価の安定、景気下支えを目指すとの従来からの考えが示された。他方、ペリー総裁はルピア相場が管理可能とした上で、政府の輸出規制強化が下支えするとの認識を示す。また、追加利下げ余地に言及したが外部環境如何とするなど、幾分ハト派姿勢が後退した模様である。ただし、政府との政策協調に前向きの姿勢を示しており、現地報道で一部国会議員が同氏の解任を模索との報道が影響した可能性がある。同氏を巡る状況がルピア相場を揺るがす可能性にも留意する必要がある。
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インドネシア銀行(中銀)は、19日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利である7日物リバースレポ金利を2会合ぶりに5.75%に据え置く決定を行った。同行を巡っては、昨年9月にコロナ禍の影響一巡後初の利下げに動くとともに、同行のペリー総裁は追加利下げに含みを持たせる考えをみせたものの(注1)、その後は追加利下げに二の足を踏む難しい対応を迫られてきた。この背景には、同国では一昨年以降に商品高の一巡などを追い風にインフレは中銀目標の域内で推移してきたものの、国際金融市場では米ドル高の動きが強まるなかで通貨ルピア相場は調整圧力に晒されてきたことが影響している。さらに、米大統領選でのトランプ氏の勝利を受けて、その後は公約に掲げた関税政策の行方が世界経済を揺さぶるとの懸念が高まるとともに、米ドル高圧力が一段と強まりルピア安の動きが進んだことも利下げのハードルは高まってきた。

こうした状況にも拘らず、中銀は先月の定例会合ではルピア安の懸念はくすぶる展開が続いたものの、インフレが一段と鈍化しているなかで4会合ぶりの利下げ実施を決定するなど、景気下支えを優先する姿勢を前面に打ち出した(注2)。その後に公表された昨年10-12月の実質GDP成長率は前年同期比+5.02%と前期(同+4.94%)から加速するとともに、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースでも伸びが加速しており、足下の景気は底入れの動きを強めている様子が確認された(注3)。しかし、同国経済は家計消費をはじめとする内需が経済成長のけん引役となってきたものの、足下については鉱物資源を中心とする輸出拡大のほか、公的需要への依存を強める動きがみられる一方、家計消費は頭打ちの動きを強めるとともに、企業部門の設備投資意欲は後退するなど、内需は力強さを欠く推移をみせるなど不透明感がくすぶる状況にある
さらに、昨年10月に就任したプラボウォ大統領は自身の任期中に経済成長率を8%と過去数年の平均(5%)から大幅に引き上げる公約を掲げており、その実現に向けて今月には新たな政府系ファンド(ダナンタラ)の設立に動くなどあらゆる政策を総動員する姿勢をみせている(注4)。他方、国際金融市場におけるルピア安の進行は輸入物価を通じたインフレを招くことが懸念されたものの、直近1月のインフレ率は前年同月比+0.76%と一段と鈍化して中銀目標(2.5±1.0%)の下限を大きく下回るなど落ち着いた推移をみせている。ただし、足下のインフレ下振れの動きはエネルギー価格に大きく下押し圧力が掛かったことが影響している一方、コアインフレ率は前年同月比+2.36%と目標域で推移するも昨年以降は緩やかに加速する展開が続いており、インフレ圧力は緩やかに高まっている。こうしたなか、足下のルピア相場は米ドル高の再燃を受けて昨年後半の米ドル高一服を受けた底入れの動きが完全に相殺されるなど、中銀は難しい舵取りを迫られている。

会合後に公表した声明文では、世界経済について「国ごとに景気のバラつきが強まっている上、不確実性は高まっている」との見方を示した上で、「米国の通商政策や米FRB(連邦準備制度理事会)の政策動向が国際金融市場の不確実性を招いている」としている。一方、同国経済については「良好な推移をみせているが、継続的に政策の後押しが必要である」とした上で、「今年の経済成長率は投資拡大の動きを追い風に+4.7~5.5%と見込んでいる」としつつ「家計消費の喚起や輸出の強化を図る必要がある」との見通しを示している。また、対外収支については「経常収支は良好な水準にあり、強靭さを維持している」とした上で、「外貨準備高は潤沢」、「今年の経常赤字幅もGDP比▲1.3~▲0.5%に留まる」としているほか、ルピア相場についても「今後も当局の安定化策を追い風にした資金流入によって下支えされる」との見方を示している。そして、物価動向について「目標域内で抑制された推移が続く」とした上で、「今年、来年とともに目標域に抑えるべく、金融政策の機能強化に取り組むとともに、経済成長を促すべく努力を払う」との考えを示している。その上で、先行きの政策運営については「ルピア相場の安定化策の強化とインフレ目標実現のため、引き続き様々な手段を通じて最適化を図る」との従来からの考えを強調している。
また、会合後に記者会見に臨んだ同行のペリー総裁は、足下のルピア相場について「管理可能な水準にあり、周辺国に比べて相対的に落ち着いている」とした上で、先行きについて「中銀のコミットメントや経済見通しを勘案すれば安定が見込まれる」、「政府による資源輸出規制強化策も下支え役になる」との見方を示した。なお、プラボウォ大統領は17日、3月1日付で原油と天然ガス以外の資源輸出企業に対してすべての収益を1年間同国内で保有することを義務付ける旨の規則に署名するなど事実上の『資本規制』を敷く動きをみせている。同規則を巡っては、一昨年からすべての資源輸出企業を対象に収益の3割を国内金融機関に預けるよう義務付ける措置が取られてきたものの、プラボウォ氏は規制強化により800億ドル程度の外貨準備高の積み上げを目指しているとしている。また、今回の決定について「インフレ抑制、ルピア相場の安定、景気下支えという目的に合致したもの」とした上で、先行きについて「ルピア相場や物価、景気動向を睨みつつさらなる利下げ余地を検討する」としつつ「タイミングは世界の動向を考慮する必要がある」の考えをみせている。そして、政府との政策協調を巡っては「安定と持続可能な経済成長の実現を目指したもの」とした上で、「高い経済成長を実現すべく、政府の計画を十分に支援する用意がある」との考えを示している。なお、ペリー氏が政府との政策協調をあらためて強調した背景には、現地報道で一部の国会議員がプラボウォ大統領に対して同氏の解任する旨の提案がなされる可能性が報じられたことも少なからず影響している可能性がある。とはいえ、仮に同氏が解任される事態となればルピア相場は大きく混乱するとともに、利下げどころではなくなる可能性も高まるだけに、当面はその動向にも注意を払う必要性が高まっている。


注1 2024年9月18日付レポート「インドネシア中銀、物価と為替を好感してコロナ禍後初の利下げ」
注2 1月16日付レポート「インドネシア中銀、ルピア安も景気下支えを優先して再利下げに舵」
注3 2月5日付レポート「インドネシアの24年成長率は+5.03%と堅調な推移が続く」
注4 2月14日付レポート「インドネシア・プラボウォ政権が「新たな」政府系ファンド設立へ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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