インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インドネシア中銀、物価と為替を好感してコロナ禍後初の利下げ

~ペリー総裁は早くも追加利下げに含み、米ドル相場など外部環境がカギを握る展開は変わらず~

西濵 徹

要旨
  • インドネシア中銀は18日の定例会合で政策金利を25bp引き下げて6.00%とする決定を行った。同行の利下げはコロナ禍後初、利下げそのものも3年半強ぶりとなる。足下のインドネシアでは政局に不穏な動きがみられるが、実体経済は堅調な動きが続いている。足下のインフレは一段と鈍化しているほか、中銀の悩みの種となってきたルピア相場も米ドル安を受けて底入れの動きを強めるなど輸入インフレの懸念は後退している。中銀は8月の定例会合で利下げ前倒しを示唆したが、ルピア高は利下げを後押ししたとみられる。
  • 会合後に公表した声明文では、米FRBをはじめとする主要国の利下げを好感する見方を示す一方、同国経済については堅調な推移が続くとの従来からの見方を維持している。その上で、記者会見に臨んだ同行のペリー総裁は今回の決定について、米FRBの利下げ見通しに加え、ルピア相場などが後押ししたことを明らかにした。また、先行きについて次回会合以降の追加利下げに含みを持たせる考えをみせる。ただし、先行きの政策運営については米ドル相場といった外部環境の行方がカギを握る展開が続くと予想される。

インドネシア銀行(中銀)は、18日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利(7日物リバースレポ金利)を25bp引き下げて6.00%とする決定を行った。同行による利下げ決定はコロナ禍以降初めてであるほか、利下げそのものも2021年2月以来で3年半強ぶりとなる。インドネシアでは2月の大統領選でプラボウォ国防相が、同時に実施された副大統領選でプラボウォ氏とタッグを組んだギブラン氏(現職のジョコ大統領の長男)が勝利し、来月に新政権が発足する。なお、現職のジョコ大統領は2期10年の任期満了を以って退任するものの、長男のギブラン氏が副大統領に就任することで退任後も政治的影響力を残すとみられる。ただし、正副大統領選と同時に実施された議会下院(国民議会)総選挙では、プラボウォ氏が党首を務めるグリンドラ党は第3党に留まるも、同陣営(先進インドネシア)に参画した政党などと大連立を構築しており、次期政権は強固な政権基盤を追い風に船出を迎える。他方、インドネシアでは11月に統一地方選が予定されるなか、中央政界で地盤を固めたプラボウォ氏は地方政界でも地盤固めを急ぐとともに、ジョコ氏も同様に政治的影響力の維持を目指す姿勢をみせている。こうした両者の思惑を受けて、両者の支持者が憲法裁判所に対して思惑に沿う形での現行の選挙法の解釈を求める請願を行ったものの、憲法裁はこうした見方を拒否する判断を下した。これを受けて議会では憲法裁の判断を覆す形での選挙法の改正を目指す動きがみられ、こうした動きに反発するデモ活動が首都ジャカルタのみならず多くの都市に広がる事態に発展した(注1)。

図表
図表

このように政局を巡っては『怪しい』動きが顕在化している一方、実体経済は引き続き潜在成長率並みの成長を実現するとともに、家計消費をはじめとする内需がけん引役となる展開が続いている。さらに、ここ数年のインドネシアではコロナ禍一巡を受けた経済活動の正常化に加え、商品高や米ドル高を受けた通貨ルピア安に伴う輸入インフレも重なり、インフレ率は一昨年後半に一時7年ぶりの高水準となる事態に直面した。中銀は物価と為替の安定を目的に断続的な利上げを実施したほか、商品高の一巡も重なり、その後のインフレは頭打ちに転じるとともに、昨年半ば以降は中銀目標の域内で推移してきた。ただし、年明け以降のインフレは中銀目標の域内で推移するも、金融市場における米ドル高がルピア安圧力となる展開が続いたため、中銀は引き締め姿勢を維持せざるを得ず、通貨防衛を目的とする利上げを迫られる事態が続いた。なお、8月のインフレ率は前年比+2.12%と頭打ちの動きを強めている上、中銀目標の中央値(2.5%)をも下回るなど落ち着いた推移をみせている。なお、コアインフレ率も同+2.02%に留まるも、年明け以降は緩やかに底入れするなど異なる方向に動いている。他方、中銀にとって悩みの種となってきた為替については、米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げを織り込んだ米ドル安を反映してルピア相場は底入れの動きを強めており、輸入インフレの懸念が大きく後退している。よって、中銀は先月の定例会合で金利据え置きを決定する一方で、利下げの前倒しに言及する考えを示していたなか(注2)、その後のルピア相場の堅調さが利下げ実施を後押ししたものと考えられる。

図表
図表

図表
図表

会合後に公表した声明文では、「世界的なインフレ圧力が後退するとともに主要国の金融政策に対する不確実性は後退している」とした上で、「先行きは主要国の利下げを受けて新興国では資金流入の動きが促されるとともに、対外的な安定性が高まることが期待される」との見方を示す。その上で、同国経済について「依然良好な動きが続くなかでさらなる押し上げ余地がある」としつつ「今年通年の経済成長率は+4.7~5.5%」に、対外収支については「健全な推移が続くとともに強靭さも増している」としつつ「今年通年の経常赤字はGDP比▲0.9~▲0.1%」と従来からの見通しを据え置いている。そして、ルピア相場については「中銀による一貫した政策運営と資本流入を追い風に上昇した」とした上で、先行きも「投資妙味や低インフレ、実体経済の堅調さ、中銀による政策運営に基づき上昇が見込まれる」ほか、物価動向についても「中銀目標の域内での推移が見込まれる」との見方を示す。なお、会合後に記者会見に臨んだ同行のペリー総裁は今回の決定について「ルピア相場の安定と景気下支えに沿ったもの」との認識を示した上で、先行きの政策運営について「インフレ見通しやルピア相場の動向、景気動向をみつつ追加利下げの余地を探る」との考えを示した。その上で、今回の利下げ実施を巡って考慮した要因について、「米FRBの利下げとそのタイミング」を挙げるとともに「年内に3回、来年に4回」との見通しを示したほか、それ以外にも「ルピア相場の動向」、「利下げに動いたとしてもインフレは管理可能な水準に留まること」、「利下げが景気下支えを促すこと」、「金利低下を通じて財政余地が生じること」を挙げた。そして、先行きの利下げについて問われると「毎月見直しを行う」と述べるなど、来月の次回会合における追加利下げに含みを持たせたものと考えられる。足下においては上述したように米FRBの利下げを織り込む形で米ドル安が続くなど、ルピア相場にとって追い風となる動きがみられるなか、先行きにおける中銀の判断を巡ってもルピア相場の動向がカギを握る展開が続こう。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ