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インドネシア・プラボウォ政権が「新たな」政府系ファンド設立へ

~シンガポールのテマセクをモデルに、国有企業の経営統合を通じて「8%成長」実現を目指す方針~

西濵 徹

要旨
  • インドネシアでは昨年10月にプラボウォ政権が発足したが、同政権の下では公的部門が肥大化する動きがみられる。他方、プラボウォ氏は任期中に経済成長率を8%に引き上げる公約を掲げるなか、就任直後にシンガポールのテマセクをモデルにした政府系ファンド(ダナンタラ)の設立を打ち上げた。なお、同国では幅広い分野で国有企業の存在が大きく、ジョコ前政権下でインフラ投資を行う政府系ファンドが設立されており、ダナンタラの行方が注目された。そうしたなか、今月初めに国会はダナンタラ設立法案を可決するなど着実に前進してきた。ダナンタラはすべての国有企業の経営を引き継ぐほか、今月24日に設立されることとなった。同国で進む資源ナショナリズムの実働部隊となるほか、8%成長の実現の後押しが期待されている模様である。ただし、公的部門の肥大化が進むなかで公的部門のさらなる増大はクラウディング・アウトなど弊害を引き起こすリスクもあるなか、ダナンタラがどのような運営を行っていくかを注視する必要がある。

インドネシアでは昨年10月、昨年2月の大統領選を制したプラボウォ氏が大統領に就任し、政権が発足した。政権発足に際しては、すべての政党が与党入り、ないし閣外協力を行う大連立となるなど政権基盤は極めて盤石な形でスタートを切ることに成功している。他方、こうした事情も影響して、論功行賞を目的とするポスト設置に向けて、省庁解体や新設などを通じて大臣が大幅に増員され、省庁間の調整役となる調整相も増員されるなど、政府部門は大幅な膨張を余儀なくされている(注1)。結果、国内外においては同政権のことを『肥満内閣』と揶揄する向きもみられる。

さらに、政権が掲げる公約には様々なバラ撒き政策が示され、その実現には大幅な歳出拡大が避けられないとみられる。他方、ここ数年はコロナ禍対応を目的とする歳出増圧力が強まるなかで公的債務は拡大のペースを強めており、政権公約の実現に固執すれば財政状況が一段と悪化することが懸念されてきた。国際金融市場ではそうした懸念が通貨ルピア安圧力を招く動きがみられる一方、財務相にはジョコ前政権からスリ=ムルヤニ氏が横滑りするなど市場の懸念に配慮する動きがみられた。しかし、プラボウォ政権の下では、財務省が経済担当調整相府から大統領直轄に変更されており、国家開発企画省も同様に大統領直轄とされており、財政運営を巡る独立性が棄損される懸念はくすぶる。

プラボウォ氏がこうした動きを強める背景には、任期中の経済成長率を平均で8%程度と、ジョコ前政権禍の平均成長率(4%)から大幅に引き上げるとともに、建国100周年を迎える2045年を目途に先進国入りを果たすとの目標を掲げていることがある。同氏は、その実現に向けて経済開発を重視する考えを示すとともに、就任直後には新たな政府系ファンド(ダナンタラ)の設立を打ち上げた。ダナンタラを巡っては、シンガポールの政府系ファンドであるテマセクをモデルにしているとした上で、同氏が掲げる経済成長率の押し上げに向けた実働部隊にしたいとの意欲を示していた。

ただし、インドネシアでは、銀行、通信、建設、鉱業をはじめとする幅広い分野で国営企業が支配的な役割を果たしており、その資産は国営企業省が管理してきた。さらに、ジョコ前政権下の2021年には政府系ファンドであるINA(インドネシア投資公社)が設立され、政権が目指すインフラ投資の拡充実現に向けた実働部隊の役割を果たしている。よって、組織の在り方如何ではダナンタラの業務が重複を招く可能性があるなか、どのような組織が構築されるかが注目された。

こうしたなか、今月初めに国会はダナンタラの設立法案を可決しており、すべての国営企業の経営を統合することにより、配当、及び投資管理の最適化を図るとともに、具体的には国営企業省が管理している国有企業のすべての政府保有株をダナンタラが引き継ぐことになった。さらに、プラボウォ氏はダナンタラを今月24日に設立する方針を明らかにしており、計画発表から4ヶ月ほどで組織が設立されることとなる。なお、プラボウォ氏はダナンタラを通じて再生可能エネルギー関連のほか、ハイテク関連、食品関連、資源の加工組み立てといった川下産業など幅広い分野を対象に投資を実施し、公約である8%成長の実現に貢献するものになるとの考えを示している。

ここ数年のインドネシアではいわゆる『資源ナショナリズム』色の強い政策運営に舵が切られるなか、ジョコ前政権はニッケルの未加工鉱石の輸出を禁止したほか、その後も禁輸の対象をボーキサイト、銅、錫などに広げるなど、同国内での川下産業の誘致による投資流入やそれに伴う雇用機会の拡大などを目指す動きをみせてきた(注2)。プラボウォ政権においても、副大統領のギブラン氏はジョコ前大統領の長男である上、資源政策を巡って前政権の方針を継承する考えを示してきたほか、プラボウォ氏もこうした考えを後押しする姿勢をみせてきた。ダナンタラの投資対象を巡っても川下産業が含まれていることに鑑みれば、資源ナショナリズムの実働部隊のひとつになる可能性もあろう。

他方、インドネシアを巡っては人口規模がASEAN内で最も大きい上、若年人口の割合が高く中長期的にも人口増加が見込まれるほか、ニッケルをはじめとする鉱物資源も豊富であるなどその成長性に対する魅力は高い。しかし、ここ数年の経済成長率は平均して5%程度で推移するなか、プラボウォ氏の目標実現には成長率を3pt程度押し上げる必要があり、そのハードルは決して低くないのが実情である。海外からの投資誘致などを通じて国内における雇用機会を拡充させるとともに、家計向け信用残高がGDP比で2割にも満たないなど新興国平均(5割弱)に対しても大幅に低いなか、金融包摂の強化に取り組むことにより、家計消費のすそ野と厚みを向上させることが不可欠と捉えられる(注3)。

ただし、プラボウォ氏が任期中の成長率引き上げを目指していることに鑑みれば、公共投資をはじめとする公的需要の拡大を通じた成長率押し上げに舵を切る可能性があるほか、ダナンタラもそうした実働部隊としてフル稼働を余儀なくされることも予想される。とはいえ、すでに公的部門が肥大化するなかで公的需要への依存を強めれば、クラウディング・アウトを引き起こすなどマクロ的にみた非効率が増大するリスクもある。その意味では、ダナンタラがどのような運営を行うかに注意を払う必要がある。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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