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トランプ関税は、様々な形態で実施されることになりそうだ。全輸入品に対して10~20%という場合に比べて、インフレ加速のインパクトは小さくなりそうたが、1月の米消費者物価が高い伸び率になったため、2月以降にインフレ圧力を加速するのではないかと警戒されている。為替相場に対して、そうした要因はドル高・円安を促すことになりそうだ。
マーケットへの影響
トランプ関税の全体像がはっきりと見えない。それが、金融市場の先行きを極めて不透明にしている。シンプルに考えると、輸入品に関税率をかけると、輸入物価が上がり、インフレ要因になる。FRBは、そのインフレ圧力がどのくらい顕在化するのかを見極めたいと考えるので、1月のFOMCで利下げを見送ったのと同じように様子見を決め込むだろう。12月時点でアナウンスした2025年内に2回の利下げシナリオが修正されて、株式市場はそれを失望する。日本にとっては、利下げの見送りは米長期金利の上昇要因になるので、ドル高・円安が進む圧力になる。日本の物価上昇圧力を高めるという訳だ。
この流れは、1月24日に日銀が追加利上げを決めた後に、ドル円レートが円安水準に釘付けになっているところにも表れている。2024年7月の利上げ時には、ドル円レートは一時的に▲20円の幅で円高に振れた。この1月はほとんど動いていない(図表)。事前に投機的なポジションの積み上がりが1月は小さかったこともあるが、潜在的なドル高圧力が働き続けている要因も根底には横たわっているだろう。

様々なアナウンス
攪乱要因であるトランプ関税について見ておこう。全体観としては、当初、警戒された全輸入品への10~20%の関税率の適用はほぼなくなったのではないだろうか。もしも、これが実施されていれば、「(輸入財額×10%)÷名目GDP」で近似的に計算して、米国の物価が1%程度は上がっていくインパクトであっただろう。しかし、目先、そのシナリオが大きく後退している。筆者は、その点は評価できると思う。
一方、その流れは一律関税から個別の関税適用に変化している。相手国・商品別にトランプ関税は細分化してかけられる格好になるだろう。すでに実施されたのは中国向けに10%の輸入関税の追加(2月4日)である。メキシコ・カナダは、3月初めまで協議を継続して、そこで実施するかどうかを決定する。
中国だけに限ってみると、2024年の全輸入額のうち中国輸入の占める割合は13.5%と小さい(米商務省統計)。それと対比すると、メキシコ・カナダの27.9%のシェアは大きい。仮に、この両国に25%の関税率がかけられれば、近似的に物価に対するインパクトは0.8%ポイントと大きくなる。
日本については、石破・トランプ会談(2月7日)で全輸入品に関税率をかけるというアナウンスはなかった。しかし、会談直後にトランプ大統領が、鉄鋼・アルミに25%の関税をかけると表明した(3月12日から実施の見通し)。こちらは日本も含まれていて、全輸入相手国が対象である。しかし、鉄鋼・アルミ(含む加工品)の輸入シェアを調べると、こちらは2.0%と小さく、そこへの関税適用がマクロのインフレにつながる可能性は相対的に小さい。
トランプ大統領は、ほかの項目についても、関税率の引き上げを言及している。半導体、医薬品、石油・天然ガス、銅といった品目だ。いずれにしても、輸入シェアはそれほど大きくはない。
また、今後の交渉によっては、除外対象国になる可能性があったり、関税割当(一部数量の適用除外)などの条件緩和がある可能性はある。オーストラリアは、対米貿易黒字がないので、鉄鋼・アルミのトランプ関税は除外される見通しだ。
さらに、トランプ大統領は相互関税を持ち出している。相手国が関税をかけているときに、同率の関税をかけて対抗するという措置である。その実施は、4月初から始まるとみられている。日本は農産物の分野で米国から相互関税をかけられる可能性がある。
大きく分けると、①メキシコ・カナダ交渉、②鉄鋼・アルミ関税、③相互関税、の3つの方面でトランプ関税が実施されていくことになろう。今後、各国は、2~4月にかけて米国と協議して、適用取り下げ等を議論することになる。今後の交渉次第で関税適用の範囲などが変化することは、マーケット心理に対しては、「はらはらさせる」要因になって決してプラスではない。当面、マーケット心理をかき乱すトランプ関税という「妖怪」が、株価の下押し要因となり続けることが懸念される。
再燃してきたマクロのインフレ圧力
こうしたトランプ関税を前に、米国の消費者物価(1月)が前年比3.0%という高い伸び率になった。これでFRBの利下げは当分の間先になったとみられている。FRBは、次回のFOMCで政策金利の見通しを公表する。次回FOMCは、3月18・19日の日程だ。それまでに2月の消費者物価も発表される予定だ。
トランプ関税のインパクトは、当初に警戒されていたほどではないとしても、2月以降の物価指標には何らかの影響を与えていくだろう。だから、それを踏まえてもFRBが利下げに前向きになるとは考えにくい。
少し気になるのは、米国では各種のトランプ関税の導入を警戒して、輸入前倒しが1月以降に徐々に進んでいる点だ。こうした要因は、BtoCの消費者物価段階にはあまり織り込まれていないだろうが、BtoBのところにはより明確に影響が働いて、一時的にしろ物価の前月比を押し上げる要因だと考えられる。
物価指数では、前月比の変化も注目される。米消費者物価は、11月は+0.3%、12月は+0.4%、2025年1月は+0.5%とインフレ圧力が徐々に高まる格好で推移している。これからトランプ関税が実行されるという手前から、米国の限界的なインフレ圧力が高まっていることは、非常に見栄えが悪い展開だと思われる。
前向きな要因はないか?
トランプ政策はどうしてもネガティブな側面に意識が行きやすい。敢えてプラス面を探すと、ウクライナ・ロシアの間の停戦交渉であろう。仮に、短期間で停戦合意が成されれば、それはインフレ要因を減圧する。例えば、トランプ大統領がロシアに対して、原油輸出の拡大をアメとして持ち出すとそれは世界の原油市況を下落させることになる。化石燃料の消費拡大に躊躇する気持ちがないトランプ大統領だからこそ、そうした点を交渉材料に使ってくる可能性はある。
一方、ウクライナのゼレンスキー大統領には、停戦交渉で利得は相対的に少ない。領土の割譲を許せば、求心力は低下してその地位も危うくなる。ロシアの侵略リスクが根強く残ることも懸念材料である。合意に漕ぎ着けるのはかなり困難だとみられる。
トランプ取引の影響
トランプ関税の狙いには、対米投資の拡大がある。日本も1兆ドルの直接投資残高を目標にすることを約束した。おそらく、各国の首脳や経営者にも、多かれ少なかれこうした約束を、関税引き上げを思い止まる見返りにさせようということだろう。
その効果は、米国の需要拡大に貢献し、国内投資・雇用を増加させる。その点で景気拡大+インフレ圧力になる。また、投資拡大はドル需要を拡大させる点で、ドル高を促すことにもなる。つまり、マーケットに対する影響は、少し長いスパンでの長期金利上昇+ドル高・円安の効果である。
トランプ取引によって、予想されていた関税率の引き上げが見送られると、その効果はインフレ圧力を弱めることにはなるが、その代わりに約束された対米投資が実行されると、米景気が改善してドルが買われる展開が予想される。いずれにしても、今後のドル高・円安基調は継続するという見通しになる。
熊野 英生
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