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日本経済のエネルギー転換

~以前よりも原油依存度は大きく低下~

熊野 英生

要旨
  • 原油輸入の供給不安が高まっているが、過去のデータを調べると趨勢的に輸入量は減少している。
  • 日本経済のエネルギー効率は向上し、原油・ガス依存度は低下しているからだ。この流れを加速することが、エネルギー安全保障にも資すると考えられる。
  • 例えば、日本の一次エネルギー自給率は2024年度で16.3%だが、原発稼働を2010年度並みに引き上げれば自給率は約26%まで上がる。これは、原油・ガスの依存度を下げることにもつながる。

原油輸入量の減少

イラン攻撃が始まって、とかく日本の原油輸入の中東依存度が9割以上もあることが強調される(2025年度「貿易統計」から計算)。一方、日本の原油輸入量は、ここ数年でも趨勢的に減少している(図表1)。実際、直近30年程のピークだった1994年から約半分の水準まで減少している。過去にオイルショックが起きた1974年や1980年と比べても、約4割強の減少幅になる。だから、「第3次オイルショックが来る」という危機的な見方が少数派になる訳である。原油の輸入途絶リスクがあることに変わりがないとしても、かつての原油依存体質が徐々に変化していることは頭に入れておく必要がありそうだ。

図表
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エネルギー効率の向上

多くの人が、日本のエネルギー効率は高く、その改善ペースが今も趨勢として続いていることは知っていると思う。よく使用される実質GDP当たりの一次エネルギー国内供給の割合でみても、2010年度から2024年度までに4,146GJ/億円(GJはギガジュール、使用量の単位)から2,975GJ/億円へと減少している(▲28.2%)。この一次エネルギーの中には自然エネルギーや原子力、石炭なども含まれている。そこで、それらを除外して、(原油+天然ガス・都市ガス)÷実質GDPで、経済成長に対する原油・ガス依存度を計算すると、2010年度2,290GJ/億円から2024年度1,562GJ/億円へと▲31.8%も減っていた。日本の原油・ガスの使用効率は格段に上がってきていることが改めてよくわかる。

その背景には、経済のサービス化や効率化がある。経済活動の中で、石油・ガスなどのエネルギー消費量が相対的に大きいのは、農林漁業、鉱業、製造業である(図表2)。逆に、非製造業は相対的に極めて少ない。つまり、日本は製造業などよりも、非製造業を中心に経済成長をするように変わってきたので、そうした産業構造の変化に伴って、石油・ガスへの依存度が低下してきたように見えるのである。

図表
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また、業務他部門のエネルギー消費原単位の低下や、家庭部門のエネルギー消費の減少は、エネルギー効率向上の技術の普及が漸進的に進んできた結果という理解ができる。「総合エネルギー統計」(経産省)では、業務他部門のエネルギー消費原単位は、2010年度から2024年度にかけて▲22%も低下している。家計消費でも同じことが言えて、1世帯当たりのエネルギー消費額は、2010年度から2024年度にかけて▲24%ほど低下していた。省エネ家電の普及や、高齢化に伴う燃料使用の減少が背景にはあると考えられる。達観すると、脱炭素化の流れが社会の省エネ志向を後押ししているのだろう。

日本の進む道

2月28日以降のイラン情勢の混乱は、なかなか終息の方向に向かわない。原油備蓄の少ない国々では、エネルギー節約に動く国も多い。韓国は、200日程度の備蓄量を確保して、日本と同程度だと言われるが、李政権は日本よりもエネルギー節約を熱心に働きかけている。日本では、韓国ほどの危機感がない。筆者は、日本も前もってエネルギー節約の計画を示して、社会全体が場合によっては節約活動に動き出す準備をした方がよいと考える。脱炭素化は、イラン情勢が終息しても日本が推進すべき方針であり、節電の呼びかけはそれと整合的である。

これまで、日本の石油・ガスの使用効率は年々向上してきたから、政府がより社会全体の効率化を呼びかけることで、経済活動のエネルギー効率向上の流れを後押しすることになるだろう。わが国にはエネルギー効率を引き上げる余地は、まだ十分にあると考えられる。政府は、目先の課題だけではなく、もっと先々を見据えて、日本経済の体質転換を推進する方針を打ち出す方がよい。

日本のエネルギー安全保障に関する議論は、目下のところ、原油調達の多角化や、原油備蓄の確保が言われるが、同時に視野をもっと広げて効率化の計画・見通しを示してもよいと思う。仮に、1日の原油使用量を減らせれば、相対的に原油備蓄の日数は増える。1日当たりの原油使用効率を上げることを目指せば、日本経済の耐久性は増すことにもなる。つまり、エネルギー効率を高めることが、安全保障に資するということだ。

現状の政策を点検してみると、ガソリン、灯油、重油、軽油への補助を激変緩和措置という名目で2022年から断続的に行っている。これは、エネルギー効率の向上とは逆行するもので、原油備蓄を減らす要因にもなる。望ましいのは、こうした補助を段階的・計画的に縮小して、コスト効果を通じて、民間部門のエネルギー効率を高める発想である。しばしば「ナフサが足りない」と騒がれるが、石油精製の内訳でみれば、ガソリンはナフサの3倍以上の量を使用している。ガソリン使用を促してナフサが足りなくなるのは、バランスを失していると思う。

発電の問題

エネルギー政策を鳥瞰してみると、一次エネルギーの自給率は過去は20%程度で推移してきた(図表3)。データは、2011年度のところでガクンと下がり、それが2024年度にかけて復調してきている。2011年度の落ち込みの理由は、東日本大震災により原発停止になったことである。その後の復調は、太陽光発電を中心とした自然エネルギーの普及が主因である。原発再稼働が2023年度以降に進んでいるが、それでもまだ太陽光の発電電力量の方が多い。もしも、原発の発電量が2010年度並みに戻ったならば、太陽光など再生可能エネルギーと併せて、日本のエネルギー自給率をもっと引き上げるのではないかと筆者は期待している。計算上は、2010年度から太陽光などの再生可能エネルギーが増加した分が自給率を押し上げ、約26%まで上昇することになる。この数字は、裏返しとして、海外からの原油などの輸入量を削減することを意味する。エネルギー安全保障のポイントは、少し長いスパンで化石燃料依存度を低くすることだろう。

図表
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国内では、原発を嫌って再生エネルギーの普及を唱える人と、再生エネルギーの不安定性等を問題視する人が、それぞれ一定数いるように思う。筆者は、そのいずれとも異なっていて、原発と再生エネルギーの両方を推進することが望ましいと考える。両方を推進することで、エネルギーの海外依存度を低減することが安全保障に資すると考えられる。当然、この方針は、日本の脱炭素化とも整合的なものとなる。

熊野 英生


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

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