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2025.02.06
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ウクライナ侵攻から丸3年を前に、ロシア経済の立ち位置を再確認
~戦争終結後の混乱は必至の一方、終結の道筋がみえないなかで火種は一段と深刻化する懸念も~
西濵 徹
- 要旨
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- ロシアによるウクライナ侵攻開始からまもなく丸3年が経過しようとしている。侵攻直後に欧米などはロシアへの制裁を強化したため、一旦はGDPが大きく下振れした。しかし、様々な「抜け穴」を通じてその影響を掻いくぐり、その後のGDPは底入れの動きを強めている。他方、経常黒字の縮小に加え、米ドル高も相俟ってルーブル相場は調整の動きを強めている上、貿易決済の複雑化も重なり輸入インフレ圧力は増幅されている。さらに、動員拡大に伴う労働力不足が賃金上昇を招き、インフレは加速して中銀目標から乖離しているが、中銀は昨年12月にプーチン氏の意向を忖度して利上げを休止させる難しい対応を迫られている。
- 戦争という不正義がもたらすGDP拡大を以って「景気回復」と評するかは議論を要するが、ロシア政府は今年度予算でも軍事費増大に傾斜しており、経済を支える観点から戦争を止められない可能性がある。戦争終結後には資源配分の歪さや人口減少よる潜在成長率の低下も相俟って深刻な混乱に陥る懸念がある一方、戦争終結の道筋がみえないなかで混乱の火種は一層と深刻化していくことが懸念される。
ロシアによるウクライナ侵攻からまもなく丸3年が経過しようとしている。侵攻直後には欧米などがロシアへの経済制裁を強化し、なかでもロシアの金融機関をSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除するなど国際的な決済網から締め出したことを受けて、ロシアは事実上のデフォルト(債務不履行)に追い込まれる事態となった。さらに、投資家のみならず、ロシアにおいて事業を展開する企業の間にもロシア資産を手放す動きが強まり、ルーブル相場は大きく調整するとともに、制裁に伴う物資不足も影響してロシア国内ではインフレが急騰するなど、経済に深刻な悪影響が出る事態となった。
しかし、その後は主力の輸出財である原油などの商品市況の上振れが輸出を押し上げるとともに、中国やインドなどがロシア産原油や肥料などの輸入を拡大させたことも輸出を下支えしたほか、中国やトルコ、中央アジアなどを通じた迂回貿易や並行貿易の活発化により物資調達が進んだことも経済活動を下支えしている。そして、ウクライナ侵攻に関連した軍事費増大は公的需要を押し上げるとともに、戦争長期化を受けて国民の間に不満がくすぶるなか、プーチン政権は様々なバラ撒き政策を通じて不満を抑え込む動きをみせている。また、戦争長期化や動員拡大による労働力不足が深刻化するなか、軍需関連産業を中心とする生産拡大が続いていることも重なり賃金上昇圧力が強まるなど、家計消費を下支えすることに繋がっている。
こうしたことから、ロシア景気は一旦大きく下振れしたものの、直後に底入れに転じるとともにその後も拡大するなど、様々な『抜け穴』を通じて欧米などの制裁の影響を掻いくぐる展開が続いている。他方、その後も欧米などは様々な分野で制裁の枠組みを広げているほか、米国はロシアと取引する第三国の金融機関を対象にした経済制裁強化を模索するなかでロシアの貿易決済は複雑化しており、ロシア国内では再び物資不足が顕在化する動きがみられる。さらに、商品市況の上振れを受けて経常黒字は大きく拡大して一旦は調整の動きを強めたルーブル相場は底入れするも、その後は商品高の一巡を受けて輸出は頭打ちするなか、迂回貿易や並行貿易を通じた輸入増を受けて経常黒字幅は急速に縮小する動きがみられる。結果、昨年以降のルーブル相場は国際金融市場における米ドル高の動きも追い風に再び調整局面に転じるとともに、米大統領選でのトランプ氏勝利や就任に伴い米ドル高が急激に進むなど、ルーブル相場は再び混乱する事態に直面した。足下では米ドル高の動きに一服感が出ており、ルーブル相場を巡る混乱も一巡しているものの、基調としてルーブル安圧力がくすぶるなかで輸入物価に押し上げ圧力が掛かり、上述したように貿易決済が複雑化していることも重なり輸入インフレ懸念が増幅されている。

さらに、労働力不足による賃金上昇の動きも重なる形で足下のインフレ率は上振れしており、中銀目標から再び乖離する動きがみられる。こうした状況ながら、中銀は昨年12月の定例会合において4会合ぶりに政策金利を据え置いたが、その判断を巡っては産業界を中心に中銀への圧力が強まっていることに加え、直前に開かれたプーチン大統領の会見での発言に対する『忖度』がうかがえた(注1)。事実、その後に公表された昨年12月のインフレ率は前年比+9.52%、コアインフレ率も同+8.92%とともに2年弱ぶりの伸びとなるとともに、食料品など生活必需品のみならず、幅広く財、サービス価格で上昇圧力が強まる動きが確認されている。

なお、足下の実質GDPの水準が底入れの動きを強めていることを以って『景気回復』と評する向きがある一方、戦争という「不正義」な行為や軍需関連産業での生産拡大がGDPを押し上げることがロシア国民の「豊かさ」に繋がっていると判断するのは様々な角度から議論を要するところである。ただし、ロシア政府は今年度予算において軍事費を前年比+25%と大幅に増やすとともに、歳出全体の3分の1弱としており、ウクライナ侵攻直前と比較して軍事費は4倍強となるなど一大産業化しており、経済を維持する観点から戦争を止められくなっている可能性もうかがえる(注2)。戦争継続中は軍需関連産業の生産拡大を通じてGDPを押し上げることは可能と見込まれるが、すでにロシア国内の資源配分は軍事関連に重点化されるなか、人口減少の加速化も相俟って(注3)潜在成長率が低下していることに鑑みれば、戦争終結後のロシア経済を巡る環境が急速に悪化することは避けられない。とはいえ、依然としてウクライナ戦争を巡る状況は見通しが立たない上、就任前には「1日で終わらせる」と豪語していた米トランプ大統領も態度を修正しており、終結に向けた道筋も描けないなかで混乱の火種は一段と高まると予想される。
注1 2024年12月25日付レポート「ロシア中銀はプーチン大統領が求める「バランス」を忖度したか」
注2 2024年10月2日付レポート「ロシアは経済を維持する観点から戦争を止められないのかも」
注3 2024年11月26日付レポート「2024年の世界で「産めよ増やせよ」を喧伝するロシア・プーチン政権」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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