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2024.11.26
新興国経済
ロシア経済
2024年の世界で「産めよ増やせよ」を喧伝するロシア・プーチン政権
~伝統的価値観により一段と内向き姿勢を強め、益々特異性を強めていく方向に進んでいる~
西濵 徹
- 要旨
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- 足下のロシアは戦時経済が下支えする形で景気は一見堅調な推移をみせる。他方、プーチン政権の下では人口増加へ様々な取り組みが示され、一時的に効果を上げたものの、ここ数年は出生数が頭打ちし、ウクライナ戦争を機に減少ペースが加速している。プーチン政権は憲法改正や法律制定を通じて伝統的価値観を後押しし、欧米的な価値観排除により人口減少の食い止めや大家族を奨励する動きをみせるも、出生数の減少に歯止めが掛からない状況が続く。こうしたなか、プーチン政権はチャイルドフリー(選択として子供を持たない考え方)の宣伝を禁止する法律制定に動き、表現の自由に新たな制限が加わる。ただし、現実にはウクライナ戦争の行方や長引く物価高が人生設計に影響を与えていることに鑑みれば、期待通りに事態が進むかは見通せない。ロシアは益々「それじゃない」感じの強い国になっていると捉えられる。
ロシアでは、ウクライナ戦争が2年半以上に及ぶとともに先行きのみえない状況が続いている。こうしたなか、プーチン政権は西側諸国への対抗心をむき出しにするとともに、国内においては『内向き姿勢』を強めることを通じて戦争遂行を後押しする動きをみせている。足下の実体経済を巡っては、増大する軍事費や軍需関連産業における生産拡大の動きが景気を押し上げるなど、一見すると堅調さを維持している様子がうかがえる(注1)。その一方、戦時経済が長期化するなかでインフレ圧力が強まるなど幅広く国民生活に悪影響が出る動きもみられるほか、中長期的にみれば悪化の度合いが一段と増すことが懸念される兆しも出ている。そうした状況は、戦争が長期化するなかで出生数が大きく低下するとともに、今年は四半世紀ぶりの水準となっているほか、ウクライナでの戦闘が激化するなかで死亡者数は上振れするなか、人口減少の動きが急速に進んでいることに現れている。なお、旧ソ連が崩壊して以降のロシアにおいては、経済的な苦境も影響して人口が減少局面に突入する事態に直面するなど、如何にそうした問題に歯止めを掛けるかが問題となってきた。よって、プーチン政権の下では、人口増加を目的に女性に少なくとも3人の子供を産むことを奨励するとともに、その実現に向けて育児手当をはじめとする経済的インセンティブを拡充させる動きをみせてきた。こうした動きも追い風に、2000年以降のロシアにおいては出生数が緩やかに拡大するなど、一連の政策支援が出生数を後押しする動きが確認された。他方、近年のロシア国内においては、旧ソ連が崩壊して以降に欧米などの文化が流入した動きも追い風に、若年層を中心に価値観の多様化が進むとともに、そうした動きが家族観などにも影響を与えているとされる。結果、上述のようにプーチン政権発足以降のロシアでは出生数が増加する動きがみられたものの、ここ数年は頭打ちに転じるとともに、減少ペースも加速しているほか、ウクライナ戦争がダメを押す動きに繋がっているとみられる。なお、プーチン政権が2020年に実施した憲法改正においては、同性婚を事実上禁止するとともに、伝統的な家族の価値を重視するといった『伝統的価値観』に関する内容を盛り込むなど、ウクライナ戦争を前に内向き姿勢を強める動きがみられた(注2)。さらに、2022年には上述した憲法規定を補強するように、LGBTなどの性的少数者や非伝統的な性的志向に関する情報をインターネットやメディア、映画、広告などを通じて拡散することを禁止する法律が施行されるなど、欧米と異なるロシアの伝統的価値観を重視することを目的に、対象となる人々に対して『抑圧』を強める動きをみせてきた。こうした動きは、ここ数年の海外への移民者数が増えるなか、ウクライナ戦争を機にその数が上振れし、その後も高止まりしている一因になっているとみられ、ロシア国内における人口減少を後押ししている可能性がある。こうしたなか、若年層を中心に選択として子供を持たない考え方(チャイルドフリー)が広がりをみせていることに対して、プーチン大統領の側近議員を中心に議員立法が議会に上程され、23日にプーチン大統領が署名して成立することとなった。同法では、インターネットやメディア、映画、広告などでチャイルドフリーに関する内容を宣伝することを禁じており、違反した場合は最大で市民が40万ルーブル、公職者が80万ルーブル、法人が500万ルーブルの罰金が科されると規定している。これにより、すでに非伝統的なライフスタイルに関する内容のほか、ウクライナ戦争に関する反対意見などに加え、新たな形で表現の自由に対する制限が加えられることとなり、益々ロシア国内における情報は『特異性』を強めることは避けられない。プーチン政権としては人口減少がロシアの弱体化を招くとして、こうした考え方を『欧米などの陰謀』などと主張することにより強制を後押ししたと考えられる。しかし、足下で出生数の減少ペースが加速している背景には、ウクライナ戦争を巡る不透明感に加え、物価上昇が長期化するなかで生活水準に下押し圧力が掛かっていることが影響していることを勘案すれば、こうした当局による『締め付け』が期待通りの効果を上げられるかは見通しにくい。今後のロシアを巡ってはこれまで以上に『それじゃない』感が強い国となる可能性が高まっている。



注1 10月2日付レポート「ロシアは経済を維持する観点から戦争を止められないのかも」
注2 2020年7月2日付レポート「ロシア:憲法改正成立へ、プーチン氏の「永世大統領」化はほぼ確実」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

