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2025.01.24
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日銀が追加利上げを決定
~+0.25%利上げで円安対策に動く~
熊野 英生
- 要旨
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遂に日銀が追加利上げに動いた。昨年12月の会合では、植田総裁があと1ノッチを見極めたいと述べていた。賃上げの環境が前向きになったことがヒアリング調査などで見えてきたので、追加利上げに動いたという訳だ。展望レポートの物価見通しも上方修正されている。変動型住宅ローン金利の引き上げの影響も、多くの家計にいずれじわじわと響いてくるだろう。
あと1ノッチが揃った!
1月23・24日の金融政策決定会合では、日銀が政策金利を0.50%程度で推移するように、+0.25%ポイントの追加利上げを決めた。昨年7月以来の利上げである。決め手は、「賃上げを実施するといった声が多く聞かれている」という支店長会議などでのヒアリング結果なのだろう。12月会合であと1ノッチがほしいと言っていた条件は、賃上げの可能性が高まったことで満たされた。1月20日にトランプ大統領が就任した後、マーケットで大きな混乱が起こらず、日米株価が上がったことも要因だ。以前、内田副総裁は、市場が不安定化しているときに利上げは行わないと宣言していた。裏を返せば、市場が安定していれば、利上げを躊躇わないということだ。
ドル円のリアルタイムチャートは、この発表を受けて急速に円高方向に動いている。しかし、もしも、ここで利上げが見送られていれば、反対に大幅な円安に動いていただろう。日銀は、ここで動かなければ円安になるという雰囲気を醸成しておいて、自分で外堀を埋めにかかっていた感はある。円安是正という動機も大きなものだったのだろう。
発表文の中には、「このところの為替円安等に伴う輸入物価の上振れもあって、2024年度が2%台後半になったあと、2025年度も2%台半ばになる見通しである」と記されている。円安から物価上昇に向かう経路を自分たちは重視しているという説明だ。物価安定のためには、追加利上げをして円安防止に努めなくてはいけないと訴えている。
追加利上げの動機
日銀は、2024年3月、7月と2回の政策修正に動き、日本を「金利のある世界」に移行させた。本来は、それがいくらか消費者物価の予想を押し下げてもよいはずなのだが、2025年1月の展望レポートをみる限りはその形跡は表れてない。2024年度の消費者物価(除く生鮮食品)の前年比見通しは、前回10月2.5%から今回1月2.7%へと上がっている。2025年度は、前回10月1.9%から1月2.4%へと上方修正幅がより大きい。この上方向の変化幅には少し驚きを感じてしまった。
その理由を考えると、同じく展望レポートで、除く生鮮食品・エネルギーの消費者物価の伸び率がそれほどは上がっていない点から察すると、この物価上振れの犯人はエネルギー要因だとみられる。おそらく、原油高騰と円安が、2025年の物価上昇幅を押し上げると日銀はみているのだろう。いわば、トランプ・リスクを見越した数字だと筆者は考えている。植田総裁は、そうした物価上振れに対して、まだ低すぎる政策金利水準を段階的に引き上げていくことを考えているのはないだろうか。
今後の追加利上げ
日銀の発表文には「現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、(中略)それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」と決意表明にも似た文言が並んでいる。展望レポートの物価見通しが上方修正されれば、その分、実質金利は下がるという理屈になるから、今後必要となる利上げの調整幅は上積みされることになる。その意味で、当分の期間は段階的な利上げが継続すると予想される。
筆者は、6・7月は参議院選挙活動の期間になるので、それまでは「次なる追加利上げ」は見送られると予想する。次なる利上げがあるとすれば、その後の2025年7月の決定会合である。そのタイミングは7月30・31日であり、選挙後になるから、そこが次回利上げだと予想する。また、もしかすると、その次は年内最後の12月18・19日が利上げのタイミングではないかとも考えられる。12月利上げによって、政策金利水準が2025年末に1.00%程度になれば、輸入物価を含めた物価上昇圧力はかなり減じるはずだと、植田総裁は読むだろう。
読めないトランプ政策
今後の日銀の政策運営にとって伏兵とは何だろうか。それは、トランプ政策だろう。前回12月会合での追加利上げを見送った根拠の一つは、1月20日のトランプ大統領就任のマーケットの反応を見極めたいという意図からだ。実のところ、植田総裁は、米国からの影響を人一倍警戒しているのではないだろうか。直接、FRBのパウエル議長と会話できる立場であれば、その恐怖感を肌で強く感じられるはずだ。2025年の隠れたリスクは、トランプ政策なのだろう。
例えば、日本から米国への輸出に10%のトランプ関税がかけられると、日本からの輸出数量は減っていくだろう。すでに、メキシコ・カナダに2月1日から25%のトランプ関税を課す構えをみせている。両国に進出した日本の自動車現地工場が打撃を受けることは、日本からカナダ・メキシコへの輸出を減らす要因にもなる。
今回の展望レポートでは、2025年度の実質GDP見通しは前年比1.1%、2026年度は同1.0%と前回10月から横ばいであった。先行きの景気見通しは必ずしも楽観方向に動いてはいない。実際のところ、トランプ政策の景気への影響はまだ織り込み切れていないのだろう。もしも、具体的な悪影響が起こり、経済見通しが大きく下方修正されることがあるならば、2025年末までに2回の追加利上げのシナリオも見直しを迫られるだろう。
家計への影響
最後に、日銀の政策が家計に与える影響を考えてみたい。思い浮かぶのは、住宅ローンへの影響である。これまで7月利上げで短期プライムレートが上がった。おそらく、今回も上がるだろう。すると、変動金利型の住宅ローンを借りている個人は、追加的な金利負担を求められる。一応、賃上げが進めば、そこで返済原資が増えることになるので、金利負担は一定程度カバーできる。しかし、サラリーマンの中には、賃上げの恩恵などは全く関係ないという人もかなり多い。だから、変動金利型の住宅ローンの金利負担は、じわじわと個人消費にも及んでくる可能性がある。
おそらく、日銀の説明は、住宅ローンの返済方式は、元利均等返済を選択している人が多いので、負担増がすぐには響いてこないというものになるだろう。確かにその通りなのであるが、自分が変動型を選択しているのならば、実質的に利払い負担が増えていることによって、マインドは慎重化するはずだ。その累積的な効果も、いずれはもっと問題視されていくに違いない。
熊野 英生
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