インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インドネシア・プラボウォ政権、ハネムーン期間は「上々の船出」の模様

~支持率は政策遂行を追い風に80%超、欧米などと中ロの両天秤にかける政策運営の行方は~

西濵 徹

要旨
  • インドネシアでは今月、プラボウォ政権が「ハネムーン期間」と称される発足から100日を迎える。ジョコ前政権の政策継続の一方、大連立を理由に内閣は膨張するなど「肥満内閣」と揶揄する向きもあり、金融市場ではバラ撒き政策による財政悪化が警戒されている。足下では米ドル高が再燃するなかでルピア相場は調整の動きを強めているにも拘らず、中銀は利下げによる景気下支えを重視する姿勢をみせる。政権は2045年を目途にした先進国入りを目指すなか、政策運営を巡っては経済成長重視姿勢に傾いているといえる。
  • ここ数年の世界は分断の動きを強める一方、欧米などと中ロなどはともに新興国への影響力向上を目指すなか、インドネシアは両陣営を両天秤にかける動きをみせる。公約実現を巡っても、学校給食無償化で日本と中国からの支援受け入れを図るなどの動きをみせる。他方、着実な政策遂行を追い風に足下の政権支持率は80.9%と極めて高い水準となるなど、政権は「上々の船出」を向けた格好である。経済成長の実現へ対内直接投資の受け入れ活発化も見込まれるなど注目は高い一方、近年は民主化に逆行する動きも散見され、中ロへの接近でそうした動きが加速するリスクもあり、政策運営を具にみる必要があると捉えられる。

インドネシアでは今月、昨年10月に発足したプラボウォ政権がいわゆる『ハネムーン期間』と称される100日を迎える。同政権を巡っては、副大統領にジョコ前大統領の長男(ギブラン氏)を据えることで、国民人気の高いジョコ前大統領に抱き着くとともに、前政権からの政策運営の『継続』を訴える姿勢をみせた。他方、大統領選と同時に実施された議会下院(国民議会)総選挙でプラボウォ氏が率いるグリンドラ党は第3党に留まるも、その後の政党間協議を経てすべての政党が連立与党入り、ないし閣外協力入りする『大連立』が構築された。結果、同政権においては論功行賞のためのポストが必要となり、省庁解体や新設などを通じて大臣ポストは大幅に増員されるとともに、省庁間の調整役となる調整相も同時に増員されるなど内閣は『膨張』を余儀なくされている(注1)。こうした事態を巡って、国内外では『肥満内閣』と揶揄する向きもみられ、その背景として、プラボウォ政権が掲げる公約がバラ撒き政策のオンパレードである上、公的部門の肥大化が避けられないとみられたことも影響している。政権公約には、ジョコ前政権の肝煎り政策である新首都(ヌサンタラ)移転事業のほか、学校給食の無償化、公務員給与の引き上げ、低所得者向け現金給付と住宅建設、無償での健康診断の実施や病院増設、学校改築など、様々な歳出拡大に繋がる方策を示している。他方、ここ数年のインドネシアでは、コロナ禍対応を目的とする歳出増を受けて公的債務が拡大するとともに、GDP比の水準も上昇しており、プラボウォ政権が様々なバラ撒き政策を公約に掲げるなかで財政状況が急速に悪化することが懸念されてきた。よって、昨年の大統領選でプラボウォ氏が勝利したことを受けて、その後の国際金融市場においては米ドル高圧力が強まる動きがみられたことも重なり、通貨ルピア相場は調整の動きを強める事態に直面した(注2)。なお、プラボウォ政権の財務相にはジョコ前政権からスリ=ムルヤニ氏が留任するなど金融市場の懸念に配慮する姿勢をみせるも、財務省は経済担当調整相府から大統領直轄に変更されるとともに、国家開発企画省も同様に大統領直轄に変更されるなど、財政運営を巡る独立性が失われる懸念もくすぶる。こうしたなか、このところの国際金融市場では米トランプ政権による通商政策をはじめとする政策運営への懸念を反映して米ドル高圧力が進んでルピア相場は頭打ちの動きを強めており、昨年後半にかけては米FRB(連邦準備制度理事会)の利下げ実施により米ドル安が進み、ルピア相場も底入れの動きをみせたものの、足下ではそうした動きは一巡している。こうした状況ながら、中銀は先週16日に開催した定例会合で4会合ぶりの利下げを実施するなど景気下支えに動く一方、為替介入を通じてルピア相場の安定を図る方針を示している(注3)。中銀のこうした姿勢は、プラボウォ政権が発足したなかで景気下支えに注力せざるを得ない状況にあることを示唆している。

図表
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足下の世界経済を巡っては欧米などと中ロなどとの間で分断の動きが広がりをみせるなか、両陣営はインドネシアをはじめとする「グローバル・サウス」と称される新興国への影響力拡大を目指す動きをみせるなど、これらの国々を巡って『綱引き』の動きが活発化している。インドネシアは、いわゆる『先進国クラブ』と称されるOECD(経済協力開発機構)への加盟を目指しており、昨年5月には加盟に向けたロードマップが採択されるなど、取り組みが着実に前進する動きがみられる(注4)。他方、プラボウォ政権は主要新興国で構成されるBRICSへの加盟意欲を強めており、昨年10月にロシアで開催されたBRICS首脳会議にスギオノ外相が参加してパートナー国に認定されるとともに、今月初めに正式加盟に至るなど(注5)、両陣営を『両天秤にかける』動きをみせている。プラボウォ政権がこうした姿勢をみせる背景には、2045年を目途にした先進国入りという目標(先進インドネシア)の実現に向けて利用できるものは何でも利用するとの思惑がうかがえるなか、政権公約の実現に関しても両陣営からの支援を引き出す姿勢をみせている。政権が今月初めから開始している学校給食の無償化を巡っては、先日の石破首相の訪問に際して日本政府が支援する考えを示しているほか、中国も同様に支援に動く方針を示すなど、両陣営から支援の引き出しに成功している様子がうかがえる。さらに、政権が公約に掲げる無償での健康診断の実施や病院増設、学校改築といった計画を巡っても、両陣営からの支援により着手される動きがみられるなど、プラボウォ政権は出だしから着実な政策遂行に取り組んでいる。こうしたこともあり、今月初めに地元紙が実施した世論調査では、プラボウォ氏の支持率が80.9%と極めて高い水準を示すなど、政権発足から100日というハネムーン期間を無事に駆け抜けることに成功している。なお、プラボウォ政権は財政健全化に道筋を付けるべく、付加価値税の引き上げによる歳入増に取り組む考えを示していたものの、物価を通じた国民生活への影響を警戒して引き上げ対象をぜいたく品に限定しており、税収増効果は乏しい一方、支持率上昇に寄与したものと捉えられる。先行きについても米トランプ政権の下で米中摩擦のさらなる激化が予想されるなか、インドネシアは東南アジア有数の人口規模を有するとともに、中国に代わるサプライチェーン見直しの対象として注目を集めており、プラボウォ政権が目指す目標実現に向けて対内直接投資の受け入れを積極化させると見込まれる。他方、ジョコ前政権の後半以降の同国では民主化に逆行する動きが散見されるとともに、BRICS加盟により中ロへの接近を強めるなかでそうした動きが一段と加速する可能性もくすぶる。プラボウォ政権は『上々の船出』を迎えることが出来ているものの、様々な政策運営を巡る動きを注視する必要がある。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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