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2024.12.06
アジア経済
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インド準備銀、金利据え置きも、景気下支えへ現金準備率を引き下げ
~食料インフレ再燃やルピー安を受けて金利据え置きも、景気下支えに向けて流動性拡大を模索~
西濵 徹
- 要旨
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- インド準備銀行は6日の定例会合で政策金利を11会合連続で6.50%に据え置いた。同行は10月の前回会合で政策スタンスを「中立」に変更し、将来的な利下げに向けた前裁きの動きをみせていた。これは、年明け以降のインフレは鈍化するとともに、今年は雨季の雨量が例年を上回るなど一段のインフレ鈍化が期待されたことがある。しかし、その後は異常気象の影響で食料インフレが再燃し、インフレ率も中銀目標を上回るほか、国際金融市場における米ドル高再燃を受けてルピー相場は最安値を更新するなど難しい状況に直面している。他方、7-9月の実質GDP成長率は前年比+5.4%に鈍化し、景気の足踏みが確認されるなか、中銀は物価抑制と景気下支えのバランスを図るべく慎重姿勢を維持せざるを得なかったと捉えられる。
- 会合後に公表した声明文では、世界経済についてリスク要因が山積するも安定しているとしつつ、同国経済については足下で下振れするも、先行きは回復が見込まれるとしている。その上で、足下の下振れを反映して今年度の成長率見通しを+6.6%(←+7.2%)に下方修正している。他方、物価動向について先行きは食料インフレが緩和するとつつ、今年度のインフレ見通しを+4.8%(←+4.5%)に上方修正している。また、政策スタンスは全会一致であったものの、政策金利は2名が25bpの利下げを主張する反対票を投じるなど票割れしたとしている(4名が賛成)。なお、景気下支えに向け今月14日、28日に現金準備率を各々25bpずつ引き下げるとしている。ただし、中銀の景気や物価に対する見通しは些か楽観的であり、先行きも引き締め姿勢を維持せざるを得ず、景気の足を引っ張る展開が続く可能性に留意する必要があろう。
インド準備銀行(中銀)は、6日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利であるレポ金利を11会合連続で6.50%に、政策スタンスについても「中立」に据え置く決定を行った。なお、同行は10月の前回会合において、政策スタンスを「金融緩和の解除」から中立にシフトさせるなど、将来的な利下げを見据える動きをみせてきた(注1)。同国では、今年実施された連邦議会下院(ローク・サバー)総選挙においてモディ政権を支える最大与党のBJP(インド人民党)が大幅に議席を減らす惨敗を喫しており、その要因のひとつに物価高と金利高の共存長期化による家計消費を取り巻く環境悪化が挙げられている。こうしたなか、年明け以降のインフレは頭打ちの動きを強めるとともに、同行が定めるインフレ目標(4±2%)の中央値を下回る伸びとなるなど落ち着きを取り戻す動きをみせており、中銀は将来的な利下げに向けた『前裁き』に動いたものとみられる。さらに、今年は雨季(モンスーン)における雨量が例年の水準を上回るとともに、雨季作(カリフ)の生産量も前年を上回るなど供給懸念の後退が食料インフレ圧力を後退させると期待される動きもみられた。よって、政府は昨年のコメ不作を理由に実施したバスマティ以外の白米の禁輸措置を解除するなど、世界最大のコメ輸出国による同国による禁輸がアジア新興国における食料インフレを招くなど『自国中心主義』的な政策の転換を図る動きもみられた。しかし、その後の同国においては大雨など天候不順を理由にタマネギやトマトなど生鮮野菜価格が上振れしているほか、コメや小麦、雑穀をはじめとする穀物価格も高止まりするなど、食料インフレ圧力が強まる動きがみられる。結果、10月のインフレ率は前年比+6.21%に加速するとともに、中銀目標の上限を上回る伸びとなるなど、一転して利下げのハードルが高まる事態となっている。また、国際金融市場においては米大統領選でのトランプ氏の勝利を受けて米ドル高圧力が強まり、ルピーの対ドル相場は調整の動きを強めて最安値を更新する展開が続いており、輸入インフレが懸念されるなかで中銀は市中銀行にルピー売りを抑制するよう要請する口先介入を行うなど難しい対応を迫られている。こうしたなか、7-9月の実質GDP成長率は前年比+5.4%と鈍化し、前期比年率ベースでは1%を下回るプラス成長に留まると試算されるなど、内需の低迷を理由とする景気の足踏みが確認されており(注2)、中銀は物価抑制と景気下支えのバランスを取る上で難しい対応を迫られている。こうしたことから、中銀としては慎重姿勢を維持せざるを得ない状況にあると捉えられる。


会合後に公表した声明文では、世界経済について「安定を保っているが、地政学リスクや政策の不確実性、とりわけ貿易政策を巡る不確実性を理由に国際金融市場のボラティリティが高まっている」との見方を示す一方、同国経済について「足下では想定を下回っているが、先行きは回復が見込まれるものの、地政学リスクや国際商品市況の動向、世界経済の分断の動きがリスク要因になる」としている。その上で、経済成長率見通しについて「今年度は+6.6%(10-12月+6.8%、1-3月+7.2%)、来年度の4-6月は+6.9%、7-9月は+7.3%になる」と従来見通しから下方修正するも、「リスクはバランスしている」との見通しを示している。また、物価についても「先行きは食料インフレの鈍化が見込まれるが、異常気象と国際価格の上昇が食料インフレの上振れリスクになる」としつつ、「今年のインフレ見通しは+4.8%(10-12月+5.7%、1-3月+4.5%)、来年度の4-6月は+4.6%、7-9月は+4.0%」になると従来見通しから上方修正するも、「リスクはバランスしている」としている。なお、今回の決定については、政策スタンスの据え置きは全会一致であったものの、政策金利については「4(据え置き)対2(25bpの利下げ)」と票割れしており、クマール委員(産業開発研究所(ISID)所長、兼最高経営責任者)とシン委員(デリー大学教授)の2名が反対票を投じたことを明らかにしている。また、会合後にオンライン会見に臨んだ同行のダス総裁は、景気下支えを図るべく、現金準備率を今月14日と28日にそれぞれ25bp引き下げ、これにより1.16兆ルピー規模の流動性拡大を図るとしている。なお、同行による現金準備率の引き下げは2020年3月以来のこととなる。他方、このところのルピー安の動きを巡って「経済のファンダメンタルズを反映して他の新興国通貨に比べてボラティリティは低い」、「市場において決定している」とした上で「外貨準備高は賢明に利用されている」、「為替介入は過剰なボラティリティの抑制のためであり、特定の水準や変動幅を目指したものではない」と述べるなど、昨年にIMF(国際通貨基金)が指摘した動きをあらためて否定している(注3)。その上で、海外からの資金流入を促すべく「非居住インド人(NRI)やインド系住民(PIO)、海外インド市民(OCI)に認められている外貨非居住銀行口座(FCNR-B)の金利上限の引き上げ」のほか、「農業従事者向け無担保ローンの上限引き上げ」、「中小金融機関による事前承認信用枠のUPI(統合決済インターフェース)への接続の認可」といった取り組みを強化する方針を明らかにしている。ただし、中銀による景気、及び物価見通しは些か楽観に傾いていると見込まれ、当面は現行の引き締め姿勢を維持せざるを得ず、そうした状況が景気の足を引っ張る展開が続くと予想される。

注1 10月9日付レポート「インド準備銀、金利据え置きの一方で政策スタンスを「中立」にシフト」
注2 12月2日付レポート「インド景気に急ブレーキ、「期待先行」をあらためて認識する必要あり」
注3 2023年12月20日付レポート「IMFがインドの為替制度に「注文」、インド当局はこうした見解に反論」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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