インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

タイ、金融政策を巡る政府と中銀の見方には依然隔たりがある模様

~政府はIMFの「後押し」も追い風に利下げ余地に言及も、中銀は慎重姿勢に含みを持たせる模様~

西濵 徹

要旨
  • このところのタイでは、中銀の利上げや商品高の一巡に加え、プラユット元政権による補助金政策の効果も重なり落ち着いた推移をみせる。こうしたなか、利下げを求める政府と、政府のバラ撒き姿勢とバーツ安がインフレを招くことを警戒して慎重姿勢を維持する中銀との間で金融政策を巡る対立がみられた。ただし、米FRBの利下げを受けた米ドル安を受けてバーツ相場は一転底入れし、輸出競争力の懸念が高まる事態に直面したため、中銀は10月の定例会合でコロナ禍後初の利下げに動いた。他方、その後は米ドル高が再燃するなかで中銀は先行きに対する慎重姿勢を崩していない。足下の景気は底入れが確認されるとともに、IMFも利下げを後押しする指摘を行い、ピチャイ財務相は3日の講演で追加利下げに言及する動きをみせる。他方、セタプット中銀総裁は政策協調を重視する考えをあらためて示すなど、慎重姿勢に含みを持たせている。政府と中銀の金融政策を巡る見方には依然として隔たりがある展開が続くと見込まれる。

このところのタイにおいては、中銀が物価と為替の安定を目的に累計200bpの利上げに動くとともに、インフレを招いた商品高の動きが一巡していることに加え、プラユット元政権が燃料補助金の効果も重なる形でインフレは頭打ちの動きを強める展開が続いてきた。結果、昨年半ば以降のインフレ率は中銀の定めるインフレ目標(2±1%)の下限を下回る推移が続くなど落ち着いた動きをみせており、直近11月でも前年同月比+0.95%、コアインフレ率も同+0.80%とともに目標を下回る水準に留まる。こうした状況ながら、中銀は、昨年発足したいわゆる『タクシン派』のセター前政権がバラ撒き志向を強めるとともに、セター前首相が中銀に公然と利下げを要求する動きをみせたものの、政策運営がインフレを招く懸念に加え、折からの国際金融市場における米ドル高を受けたバーツ安が輸入インフレを招くことを警戒して引き締め姿勢を維持した。なお、8月にセター前首相は退任を余儀なくされた結果、後任には同じタクシン派のペートンタン氏が就任したほか、ペートンタン氏も同様に中銀に対して利下げを要求する動きをみせた。ただし、セター前政権は早期の景気回復を目指すべく利下げを求めたものの、ペートンタン政権はそうした事情に加え、米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ実施を受けた米ドル安を反映してバーツ相場が急激に底入れし、輸出競争力の低下が懸念される事態に直面したことがある(注1)。このように物価が落ち着いた推移をみせるとともに、バーツ相場を巡る懸念が後退していることも重なり、中銀は10月の定例会合でコロナ禍後初の利下げを決定するなど政策転換に舵を切る動きをみせた。しかし、先行きの政策運営を巡っては、米国経済の堅調さが確認されるとともに米ドル高の動きが再燃してバーツ相場を取り巻く環境に変化の兆しが出ているほか、ペートンタン政権が9月末から現金給付策の第1弾を開始しており、インフレ動向が変化することを警戒して慎重姿勢をみせた(注2)。その後にピチャイ財務相とセタプット中銀総裁による会談が行われ、中銀が財政政策を側面支援することにより景気を下支えする一方、2025年までにインフレ率を1~3%に抑えるとの中銀目標を維持することで合意したことが明らかにされた。その上で、金融政策について財務相は暗に追加利下げを求めつつ、決定そのものについては中銀が判断すると述べるなど、あくまで中銀が自立して決定するとの考えを示しており、市場が懸念する中銀の独立性に配慮する姿勢をみせた(注3)。他方、先月公表された7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+4.94%と3四半期連続のプラス成長となるなど底入れが確認されるとともに、内・外需双方で景気底入れを促す動きがみられるなど堅調さがうかがえるほか、先行きも政策支援による下支えが期待される状況にある(注4)。さらに、先月末にIMF(国際通貨基金)は4条協議ミッションの終了を公表し、そのなかで「一段と利下げが行われれば、足下で進む景気回復を支える上、与信が引き締まるなかでレバレッジが拡大するリスクをほぼ追うことなく、借り手の債務返済能力の改善が促される」と指摘するなど、事実上の利下げを後押しする指摘がなされている。これを受けて、ピチャイ財務相は3日に開催されたビジネスフォーラムにおいて、利下げ余地に言及するとともに、景気下支えに向けて金融、財政政策の協調を深化させる必要があるとの考えを示した上で、仮に政策協調が適切に進めば来年の経済成長率が+4~5%に達する可能性があるとの見方を示している。その上で、追加利下げを望んでいるとしつつ、決定は中銀次第であり、その行方については分からないとの考えをみせている。他方、セタプット中銀総裁は同日に開催された別のイベントにおいて、政策金利だけですべての問題に対処できず、ポリシーミックスが必要との考えを示すとともに、金融政策はデータ主導ではなく、経済見通しに基づいて決定されると述べており、上述のように足下で景気底入れの動きが確認されるとともに、先行きも回復が見込まれるなかで慎重姿勢を維持する可能性に含みを持たせている。よって、金融政策に対する見方を巡っては、政府と中銀の間に依然として隔たりがある様子がうかがえるほか、そのすり合わせには引き続き時間を要する展開が予想される。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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