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2024.10.30
アジア経済
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タイ、財務相と中銀総裁が会談、「バーツ相場の見方」が焦点に
~当面の金融政策を巡っては、政府と中銀のバーツ相場に対する見方を巡る攻防戦が強まるであろう~
西濵 徹
- 要旨
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- タイでは29日にピチャイ財務相とセタプット中銀総裁の会談が行われた。タイ経済はASEAN主要国のなかでコロナ禍からの回復が遅れるなか、政府は早期の景気回復を後押しすべく中銀に利下げを要求する動きを強めてきた。他方、中銀は政権のバラ撒き政策による物価や家計債務への影響に加え、バーツ相場への影響を警戒して慎重姿勢を維持してきた。なお、中銀は米ドル高によるバーツ安を警戒してきたが、一転して米ドル安が進んでバーツ相場が底入れの動きを強めたため、今月の定例会合でコロナ禍後初の利下げを決定するも先行きは慎重な見方を維持した。こうしたなか、財務相と中銀総裁の会談では中銀が財政政策を側面支援する一方、インフレ目標を維持することで合意した模様である。政府はバーツ相場を重視する考えをみせており、足下では米ドル高が再燃するもバーツは周辺国通貨に比べて調整が小幅に留まるなか、当面の金融政策はバーツ相場に対する見方を巡って政府と中銀の攻防戦が強まるであろう。
タイでは、29日にピチャイ財務相と中銀のセタプット総裁による会談が行われた。ここ数年のタイ経済を巡っては、ASEAN(東南アジア諸国連合)主要国のなかでコロナ禍からの回復が最も遅れる展開が続いている。他方、コロナ禍一巡による経済活動の正常化や商品高に加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨バーツ安による輸入インフレの動きも重なり、インフレが昂進する事態に直面した。よって、中銀は物価と為替の安定を目的に累計200bpの利上げに動き、一時は約14年ぶりの水準に昂進したインフレは商品高の一巡も重なる形で頭打ちに転じたほか、プラユット元政権が実施したエネルギー補助金の効果も重なりインフレは下振れしてきた。インフレ率はマイナスになるとともに、コアインフレ率も中銀目標を下回る推移が続くなど落ち着いた動きをみせる一方、国際金融市場では米ドル高を受けたバーツ安懸念がくすぶる展開が続いてきた。さらに、昨年の総選挙を経て発足した『タクシン派』のセター前政権がデジタルウォレットによる現金給付を公約に掲げたほか、景気の失速を警戒して中銀に利下げを要求するなど『圧力』を掛ける動きをみせた(注1)。しかし、中銀はセター政権によるバラ撒き政策が家計債務のさらなる増大を招くほか、インフレ圧力を増幅させるとともに、クラウディング・アウトを通じて金利上昇を招くことを警戒して利下げに及び腰の対応をみせてきた。8月にセター前首相に対する解職命令が下されたことを受け、同じタクシン派のペートンタン政権が誕生したものの、ペートンタン氏もセター氏同様に早期の景気回復を実現すべく中銀に対して利下げを要求する動きをみせてきた。上述のように中銀はバーツ安を警戒して引き締め姿勢を維持する対応をみせたものの、国際金融市場では米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ実施を受けて米ドル安の動きが進んだことを受けて、バーツ相場は一転して底入れの動きを強めたため、ペートンタン政権はバーツ高が輸出や観光業を巡る価格競争力の低下を招くことを警戒してあらためて中銀に対して利下げ要求する圧力を強めた(注2)。こうしたこともあり、中銀は今月の定例会合においてコロナ禍後初の利下げを決定したものの、家計債務への影響などを警戒して慎重姿勢を維持する考えをみせるなど、他のアジア新興国が利下げに前のめりの姿勢をみせるのとは対照的な動きをみせている(注3)。こうした中銀の姿勢は上述のように利下げへの要求を強める政府との間で新たな対立を招く懸念がある一方、足下の国際金融市場では米ドル安の動きが一巡するとともに、米国経済の堅調さを追い風に米ドル高が再燃しており、底入れの動きを強めたバーツ相場を取り巻く環境にも変化が生じている。こうしたなかで財務相と中銀総裁との会談が実施されたが、会談後にピチャイ財務相は、中銀が財政政策を側面支援することにより景気を下支えする一方、2025年までにインフレ率を1~3%に抑えるとの中銀目標を維持することで合意したことを明らかにしている。その上で、中銀の政策運営に当たっては債務問題に対応しつつ景気と投資の促進に注力すべき、物価と為替を考慮に入れて輸出促進に資するべきなどと、暗に追加利下げを求める一方、決定そのものについては中銀の判断と述べるなど『予防線』を張った格好である。中銀も今回の会談について「建設的であった(ピティ副総裁)」との見解を示しているものの、上述のように足下では米ドル高が再燃する動きがみられるものの、バーツ相場の調整度合いは他のアジア新興国と比較して小幅に留まることを勘案すれば、政府による利下げへの圧力が強まることは避けられない。よって、当面は金融政策の行方に関連して、バーツ相場に対する見方を巡る政府と中銀の攻防戦が強まることが予想される。


注1 1月9日付レポート「タイ・セター首相に「焦り」、景気失速を警戒して中銀に利下げを要求」
注2 9月25日付レポート「タイ、金融政策を巡る政府と中銀の対立はいよいよ「第2章」へ」
注3 10月16日付レポート「タイ中銀がコロナ禍後初の利下げも、先行きも慎重姿勢を維持か」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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