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2024.10.16
アジア経済
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タイ中銀がコロナ禍後初の利下げも、先行きも慎重姿勢を維持か
~先行きの政策運営は「中立的な水準」を強く意識、政府の圧力と対抗する展開が続くか~
西濵 徹
- 要旨
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- タイ中銀は16日の定例会合で政策金利を25bp引き下げ2.25%とする決定を行った。同行の利下げはコロナ禍後初の上、利下げ自体も4年半弱ぶりとなる。タイ経済はASEAN内でもコロナ禍からの回復が遅れるなか、昨年以降のインフレが低水準で推移していることもあり、政権と中銀は金融政策を巡って対立する動きがみられた。先月発足したペートンタン政権も米ドル安による急激なバーツ高が景気回復の足かせとなることを警戒する姿勢をみせてきた。足下では米ドル安の動きに一服感が出ているものの、バーツ相場は依然高止まりしており、中銀の利下げを後押ししたとみられる。今回の決定を巡って政策委員の間で意見が割れたほか、先行きの政策運営について慎重姿勢をうかがわせる動きをみせている。外部環境の変化を受けて中銀は利下げに動いたものの、先行きも慎重な政策運営を志向する展開が続くと予想される。
タイ中銀は16日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利を25bp引き下げて2.25%とする決定を行った。同行による利下げ実施はコロナ禍後初となるとともに、利下げそのものも2020年5月以来のこととなる。ここ数年のタイでは、コロナ禍一巡による経済活動の正常化や商品高に加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨バーツ安による輸入インフレも重なり、インフレは一昨年半ばに一時14年ぶりの水準に昂進した。しかし、中銀は物価と為替の安定を目的に累計200bpの断続利上げに動いたほか、商品高の一巡、プラユット元政権が実施した燃料補助金の効果も重なり、その後のインフレは頭打ちに転じた。さらに、昨年末から年明け直後にかけてインフレはマイナスとなるも、その後は頭打ちの動きを強めた反動で加速に転じたものの、足下においては中銀目標(2~3%)を下回る推移が続くなど落ち着いた動きをみせている。他方、タイはASEAN(東南アジア諸国連合)主要国のなかでコロナ禍からの経済の回復が最も遅れる展開が続いており、昨年の総選挙を経て発足したセター前政権は中銀に対して再三に亘って利下げ実施を要求した(注1)。ただし、中銀はインフレ鈍化が政策誘導によって起こっていることに加え、政権が計画するバラ撒き政策が物価動向やバーツ相場のほか、アジア太平洋地域のなかでも突出した水準にある家計債務の動向などに悪影響を与えることを警戒して慎重姿勢を堅持する姿勢をみせてきた。なお、8月に憲法裁判所がセター前首相の解職を命じる決定を下して同政権は崩壊を余儀なくされたが、直後に『タクシン派』のタイ貢献党のペートンタン党首が首相に就任したことで政治空白が長期化する事態は免れたほか、ペートンタン政権はセター前政権同様に中銀に利下げを要求する動きをみせた(注2)。ペートンタン政権がこうした動きをみせる背景には、上述のようにタイ経済がコロナ禍からの回復が遅れていることに加え、このところの国際金融市場において米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ実施を受けた米ドル安の動きを反映してバーツ相場は底入れの動きを強めていることが影響している。これはタイがASEAN主要国のなかでも経済の外需依存度が相対的に高く、バーツ相場の急激な上昇による価格競争力の低下が財輸出や観光業に悪影響を与えることを警戒しているとみられる。なお、足下の国際金融市場では米ドル安の動きに一服感が出るなか、バーツ相場の底入れの動きにも変化が生じているものの、依然として高止まりしていることが利下げを後押ししたと考えられる。会合後に公表した声明文では、今回の決定は「5(25bpの利下げ)対2(据え置き)」と票割れしたものの、同国経済について「家計消費や観光業、輸出、景気刺激策を追い風に見通し通りの拡大が見込まれる」としつつ「今年の経済成長率は+2.7%」と6月見通し(+2.6%)からわずかに上方修正する一方、「来年の経済成長率は+2.9%」と6月見通し(+3.0%)からわずかに下方修正している。また、物価動向について「年末には目標域への回帰が見込まれる」とした上で「今年のインフレ率は+0.5%」と6月見通し(+0.6%)からわずかに下方修正しており、「来年のインフレ率は+1.2%」と6月見通し(+1.3%)からわずかに下方修正している。その上で、今回の利下げ実施について「債務負担の緩和を促すもの」とする一方、「信用の質低下や借入コストの行方が信用の動向や経済活動に与える影響を注視する必要がある」との見方を示すとともに、先行きの政策運営について「中立的な水準に維持すべきであり、低水準にすることで長期的な金融不均衡を招くことのないよう、潜在成長率の動向と整合的であるべき」とするなど、慎重姿勢を維持する考えをみせている。その意味では、中銀は外部環境の変化に応じて政府が要求した利下げに応じる姿勢をみせたものの、先行きについては引き続き慎重な政策運営を志向する可能性が高いと見込まれる。


注1 1月9日付レポート「タイ・セター首相に「焦り」、景気失速を警戒して中銀に利下げを要求」
注2 9月25日付レポート「タイ、金融政策を巡る政府と中銀の対立はいよいよ「第2章」へ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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