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2024.11.28
アジア経済
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韓国中銀、為替や不動産に懸念も、景気優先で2会合連続の利下げ
~中銀はウォン相場の動きに警戒も、外貨準備高は金融市場の動揺への耐性面で充分とは言えず~
西濵 徹
- 要旨
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- 韓国中銀は28日の定例会合で2会合連続の利下げを決定した。同行は10月の前回会合でコロナ禍後初の利下げに動き、その際は追加利下げに慎重姿勢をみせた。物価は落ち着きを取り戻すなか、足下の景気は頭打ちの動きを強めており、米大統領選でのトランプ氏勝利を受けて景気に対する不確実性が高まるなかで景気を重視する姿勢に舵を切った。足下では米ドル高によるウォン安がリスク要因となる懸念は高いものの、中銀としては景気失速の懸念が高まるなかで景気下支えを重視したものと捉えられる。
- 会合後に公表した声明文では、景気を巡る不透明感の高まりを反映して今年と来年の成長率見通しを下方修正するとともに、物価見通しも下方修正している。他方、不動産市況やその背後で家計債務を巡るリスクもくすぶるほか、ウォン安懸念もあるなかで先行きの政策運営について慎重姿勢を維持する考えをみせる。なお、会合後に記者会見に臨んだ同行の李総裁は繰り返しウォン相場に言及するなど、その動向を注視している様子がうかがえる。同行は外貨準備高は充分と主張するが、国際金融市場の動揺への耐性の有無に照らせば適正水準の下限を下回るなど、外部環境を注視した慎重な対応が求められるであろう。
韓国銀行(中銀)は、28日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利を25bp引き下げて3.00%とする決定を行った。同行は10月の前回会合においてコロナ禍後初の利下げに舵を切っているほか(注1)、その後も足下の景気が一段と頭打ちの動きを強めている様子がうかがえるなか(注2)、2会合連続の利下げに動くなど『ハト派』姿勢を強めている。ここ数年の韓国では、コロナ禍一巡による経済活動の正常化や商品高に加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ウォン安に伴う輸入インフレも重なる形で物価上昇に直面した。さらに、コロナ禍対応を目的とする金融緩和を受けて金融市場はカネ余りの様相を呈したため、首都ソウルを中心とする不動産市況は急騰してバブル懸念が高まるとともに、家計債務も増大するなど金融リスクが高まる事態に発展した。よって、中銀はこうした事態に対応すべく累計300bpの利上げに動き、商品高の一巡も重なりインフレは鈍化する一方、不動産市況は頭打ちの動きを強めて家計部門は逆資産効果に晒されるなど景気の重石となってきた。他方、足下ではインフレは一段と鈍化して中銀目標(2%)を下回る一方、不動産市況は首都ソウル南部の江南(カンナム)区を中心に再び上昇の動きを強めるとともに、家計債務を巡る懸念もくすぶる。こうしたことから、上述のように中銀は10月の前回会合で利下げに動くも、先行きの政策運営を巡っては慎重姿勢を維持する考えをみせていた。しかし、足下の景気は頭打ちの様相を強める動きが確認されている上、先行きについては米大統領選でのトランプ氏の勝利を受けて外需を巡る不透明感が高まるとともに、高金利政策の長期化を受けた債務負担の増大が内需の足かせとなる懸念も高まっている。他方、足下の国際金融市場においては米大統領選でのトランプ氏勝利を受けて米ドル高の動きが再燃しているほか、韓国については隣国の北朝鮮を巡る地政学リスクの高まりも警戒されるなかで通貨ウォン相場は調整の動きを強める事態に直面している。ウォン安の動きは輸出競争力の観点では景気の追い風になることが期待されるものの、エネルギー関連を中心とする資源を海外からの輸入に依存するなかで輸入インフレ圧力を増幅させるリスクはくすぶる。足下の国際原油価格は中国経済を巡る不透明感などが重石となる展開が続いており、エネルギーを起点にしたインフレ懸念は後退しているものの、外需を巡る不透明感が高まるなかではウォン安の動きが輸出の押し上げに繋がらず、輸入インフレの懸念のみが実体経済の足かせとなる可能性も考えられる。こうした状況ではあるものの、中銀としては景気減速懸念が高まるなか、その対応をより重視したものと捉えられる。


会合後に公表した声明文では、今回の決定について「為替を巡るボラティリティは高まっているものの、家計債務の増大ペースの鈍化と景気の下振れ圧力が高まる動きに歩を合わせる形で物価安定が続いている」とした上で、「経済の下振れリスクを抑制すべく一段の利下げが適切と判断した」としている。その上で、世界経済について「米トランプ次期政権の政策運営に関連して景気や物価に対する不透明感が高まっている」との認識を示すとともに、国際金融市場について「主要国中銀の利下げにも拘らず、米国の長期金利は急上昇し、米ドルも急上昇している」とした上で、先行きについて「主要国中銀の金融政策や地政学リスクを通じて米トランプ次期政権による政策運営の動向に揺さぶられる」との見通しを示している。他方、同国経済については「内需の緩やかな回復にも拘らず、外需の減速を受けて弱含んでいる」とした上で、経済成長率見通しを「今年は+2.2%、来年は+1.9%」と従来見通し(各+2.4%、+2.1%)から下方修正するとともに、「先行きの景気は通商環境の変化やIT関連輸出の傾向、内需の回復ペースなどによる高い不確実性に晒される」との見方を示している。なお、物価動向については「安定した動きが続いている」とした上で、「短期的にはウォン安による上振れリスクはあるが、国際原油価格の低迷や内需の弱さを反映して安定が見込まれる」として、インフレ見通しを「今年は+2.3%、来年は+1.9%」と従来見通し(各+2.5%、+2.1%)から下方修正するとともに、「先行きはウォン相場や国際原油価格、国内外の景気動向、公共料金の影響を受ける」としている。そして、金融市場について「米国の長期金利上昇にも拘らず、韓国の長期金利は低下しており、米ドル高を反映してウォン安が進んでいる」一方、「不動産価格は全土で頭打ちする一方で首都ソウルでは緩やかな上昇が続いている」ほか「家計債務の季節要因が影響する形で幾分上振れしている」としつつ、「マクロプルーデンス政策の効果も影響して、しばらくは住宅ローンを中心に鈍化傾向が続く」との見通しを示している。先行きの政策運営については「金融市場の安定に留意しつつ、景気安定と中期的な物価安定を目指す」との従来からの姿勢を示しつつ、「物価安定が見込まれる一方で景気を巡る不確実性は高い」、「ウォン相場を巡るボラティリティの潜在的な高さを勘案すれば慎重さが重要」とした上で、「利下げが物価や景気、家計債務やウォン相場といった金融市場の動向という政策変数に与える影響を注視しつつ、さらなる利下げのペースを慎重に決定する」との考えを示すなど、慎重姿勢を維持する考えをみせている。なお、会合後に記者会見に臨んだ同行の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁も、今回の決定について「全会一致ではなかった」とした上で「張鏞成(チャン・ヨンサン)委員(前国民経済諮問会議委員)と柳相大(ユ・サンデ)委員(副総裁)が反対票を投じた」として、前回会合から反対票が1票増えたことを明らかにしている。その上で、ウォン相場について「ボラティリティが高く慎重であるべき」としつつ「必要に応じて安定化策を講じる」、「利下げがウォン相場や経済に与える影響を注視する」との考えをみせている。そして、フォワードガイダンスについて「前提条件に基づいて判断するが、状況に応じて変化する可能性がある」としつつ、今回の会合について「利下げによるウォン相場への影響を集中的に討議したが、外貨準備は潤沢であるほか、必要に応じて政府と協調した行動を取る」との考えをみせる。また、先行きについては「3人の政策委員が向こう3ヶ月以内に緩やかな追加利下げ余地を残すべき」との考えをみせるなど、追加利下げの可能性に言及している。ただし、「ウォン相場の急変動は抑えられるべき」としつつ、「周辺国通貨に比べては悪くない」、「必要に応じて安定化に向けた手段はある」とした上で、「特定の水準を目指しているものではなく、周辺国通貨との変化を注視する」との考えを示している。李総裁の発言はウォン相場に対する警戒感を示したものと捉えられる一方、足下の外貨準備高はIMF(国際通貨基金)が国際金融市場への動揺への耐性の有無を示す基準(ARA)に照らして「適正水準(100~150%)」の下限を下回ると試算されるなど、幾分心許ないと判断できる。その意味では、中銀は外部環境の動向を注視しつつ慎重な政策運営を求められる状況にあると捉えられる。


注1 10月11日付レポート「韓国中銀がコロナ禍後初の利下げも、追加利下げには慎重姿勢」
注2 10月24日付レポート「韓国景気は一段と頭打ちも中銀は政策の手足を縛られる」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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