- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- 韓国景気は一段と頭打ちも中銀は政策の手足を縛られる
- Asia Trends
-
2024.10.24
アジア経済
アジア経済見通し
アジア金融政策
韓国経済
為替
韓国景気は一段と頭打ちも中銀は政策の手足を縛られる
~成長率見通しの再修正(↓)は不可避、不動産市況や家計債務に注意を払う展開が続く~
西濵 徹
- 要旨
-
-
韓国経済は構造問題も影響して急速な少子高齢化が進むなか、足下の景気は内・外需双方に不透明要因が山積する状況に直面している。7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+0.54%と2四半期ぶりにプラス成長に転じたが、前年比では+1.5%と4四半期ぶりの1%台に留まるなど頭打ちしている。民間需要は総じて力強さを欠くとともに外需も下振れするなか、足下の景気は公的需要への依存を強めている。9月までの累計ベースの成長率は+2.3%と中銀見通し(+2.4%)を下回り、厳しい状況にあると捉えられる。
-
高止まりしたインフレは商品高の一巡を受けて足下では落ち着きを取り戻している。さらに、景気の頭打ちが意識されるとともに、ウォン安懸念が後退したこともあり、中銀は今月の定例会合でコロナ禍後初の利下げに動いた。しかし、中銀は先行きの政策運営を巡って慎重姿勢を維持しており、首都ソウルを中心とする不動産価格の高止まりや家計債務の過剰さを理由に挙げている。ソウルの不動産価格は上昇が続いているほか、足下では米ドル高の再燃に加えて地政学リスクが意識されてウォン安が加速している。景気の不透明感は高まっているが、政策運営の手足が縛られるなかで一段と見通しが立ちにくい状況になっている。
-
韓国経済を巡っては、近年の社会経済格差の拡大に加え、コロナ禍を経た生活様式の変化も重なり、昨年の合計特殊出生率は0.72と8年連続で過去最低を更新する展開が続くなど、急速な少子高齢化が進展している。さらに、ここ数年の韓国国内においては、コロナ禍一巡による経済活動の正常化に加え、商品高や通貨ウォン安による輸入インフレも重なりインフレが上振れし、中銀は物価と為替の安定を目的に累計300bpもの利上げに動くなど、内需を取り巻く環境は厳しさを増してきた。他方、最大の輸出相手である中国との関係が悪化するとともに、北朝鮮を巡る地政学リスクの高まりといった外需を取り巻く環境も不透明感が増す事態に直面している。このように、足下の韓国経済は内・外需双方に不透明要因が山積する状況にあるなか、4-6月の実質GDP成長率はマイナス成長に陥るなど躓きが確認されたものの、7-9月については前期比年率+0.54%と2四半期ぶりのプラス成長に転じるも勢いを欠く推移が続いている。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率に至っては+1.5%と前期(同+2.3%)から一段と鈍化して4四半期ぶりの1%台となるなど、足下の景気は頭打ちの動きを強めている様子がうかがえる。足下のインフレ率は前年に加速した反動で頭打ちの動きを強めるなど落ち着きを取り戻しているものの、韓国はアジア太平洋地域のなかでも家計債務の水準が比較的高く、中銀による高金利政策の長期化を受けた債務負担の増大が家計消費の足かせとなる展開が続いている。さらに、外需を取り巻く不透明感の高まりに加え、高金利政策の影響も重なり企業部門による設備投資のほか、家計部門による不動産投資は力強さを欠く動きをみせており、民間需要を中心とする内需の弱さが景気の足を引っ張っている様子がうかがえる。そして、輸出についても外国人来訪者数の堅調さがサービス輸出を下支えするも、財輸出の低迷が輸出全体の重石となるなど外需の弱さも景気が頭打ちの動きを強める一因になっていると捉えられる。一方、予算進捗の動きを反映して政府消費は堅調な動きをみせるとともに、公共投資が拡大している動きは固定資本投資を下支えしており、足下の景気は公的需要への依存度を強めていると捉えられる。分野別の生産動向についても、農林漁業関連や公益関連の生産が大きく上振れする動きが確認される一方、製造業や建設業、サービス業などで軒並み生産が力強さを欠く動きが確認されるなど内・外需の低迷が生産活動の足かせになっている様子がうかがえる。なお、公的需要の堅調さを反映して輸入が拡大していることを受けて、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度は前期比年率ベースで▲2.68ptとなるなど景気の重石となっている一方、在庫投資による成長率寄与度は同+1.04ptと2四半期連続のプラスで推移しており、足下の景気は力強さを欠く一方で在庫の積み上がりが確認されるなど、景気実態は数字以上に悪化しているものと捉えられる。中銀は、今月の定例会合において今年通年の経済成長率を+2.4%との見通しを示しているものの、9月までの累計ベースの成長率は+2.3%とこれを下回る伸びに留まるなど厳しい状況にある。


なお、ここ数年高止まりしてきたインフレを巡っては、商品高の動きが一巡していることに加え、物価を押し上げる一助となってきたウォン相場も米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ実施を受けた米ドル安の動きが強まったことも重なり、足下では中銀の定める目標(2%)を下回る伸びとなるなど落ち着きを取り戻している。さらに、上述したように足下の景気は頭打ちの動きを強めていることが確認されるとともに、先行きに対する不透明感が強まっている様子がうかがえることを受けて、中銀は今月11日に開催した定例会合においてコロナ禍後初となる利下げを決定するなど、インフレ対応を目的とする利上げ局面は一周している(注1)。金融市場においては足下の景気鈍化を受けて中銀がコンスタントな利下げに動くとの見方がある一方、会合後に記者会見に臨んだ李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は、政策委員の大宗が向こう3ヶ月程度は様子見姿勢を維持すべきとの意見を示したことを明らかにしており、慎重な政策運営を志向している模様である。この背景には、上述したように韓国はアジア太平洋地域のなかでも家計債務の規模が相対的に大きい上、その大宗を住宅ローンが占めるなか、こうした動きを反映して首都ソウルを中心とする不動産価格が高止まりしていることが影響している。首都ソウルの不動産価格が高止まりしている背景には、韓国特有の激烈な受験競争が影響しているとみられるほか、そうした状況は社会問題化しており、居住する地域が進学率を左右するとの見方が影響する形でソウルのなかでも高級住宅街が集中する同市南部の江南(カンナム)区が市況を押し上げている(注2)。なお、中銀による高金利政策の長期化を受けて不動産価格は一旦頭打ちに転じる動きがみられたものの、足下では再び底打ちに転じるとともに、その動きを首都ソウルがけん引している様子が確認されており、中銀の政策運営を難しくすることが予想される。そして、このところの国際金融市場においては米大統領選に対する見方を反映して米ドル高の動きが再燃しているほか、足下では北朝鮮の兵士がロシアの軍事施設で訓練を受けているとの情報とともに、ウクライナ戦争を巡ってロシア軍の支援に動くとの見方が広がりをみせており、地政学リスクが意識されていることも重なりウォン安圧力が強まり年初来安値をうかがう動きをみせている。こうした状況も中銀の政策運営の手足を縛ることが予想されるとともに、先行きの景気に対する見方を一段と厳しくすることが見込まれるなど八方塞がりの状態に陥る可能性も考えられる。



注1 10月11日付レポート「韓国中銀がコロナ禍後初の利下げも、追加利下げには慎重姿勢」
注2 9月12日付レポート「韓国の激烈な受験競争(SKY)は韓国中銀の利下げを阻むか?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
アジア新興国にイラン情勢悪化の悪影響が色濃く出る背景とは? ~エネルギーの中東依存、原油備蓄の乏しさ、財政・金融面のリスクなどが意識される状況に~
アジア経済
西濵 徹
-
韓国、次期中銀総裁に申鉉松氏指名、金融政策の方向性は? ~過剰レバレッジの規制強化の観測も、昨年末以降に急上昇した株式市場の行方はどうなる~
アジア経済
西濵 徹
-
ロシア中銀は7連続利下げの一方、戦時経済の限界も露呈 ~原油高は追い風も、継戦能力向上でウクライナ戦争やイラン情勢の行方にも不透明感が続くか~
新興国経済
西濵 徹
-
豪州・2月失業率悪化も、非正規主導で雇用拡大(Asia Weekly(3/16~3/19)) ~台湾中銀は8会合連続の金利据え置きも、中東情勢の長期化を念頭に将来の利上げに含み~
アジア経済
西濵 徹
-
ブラジル中銀が2024年5月以来の利下げ、慎重な金融緩和に舵 ~インフレ見通しの上方修正も利下げ実施、レアル相場と株式相場は中東情勢次第の展開が続くか~
新興国経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
アジア新興国にイラン情勢悪化の悪影響が色濃く出る背景とは? ~エネルギーの中東依存、原油備蓄の乏しさ、財政・金融面のリスクなどが意識される状況に~
アジア経済
西濵 徹
-
韓国、次期中銀総裁に申鉉松氏指名、金融政策の方向性は? ~過剰レバレッジの規制強化の観測も、昨年末以降に急上昇した株式市場の行方はどうなる~
アジア経済
西濵 徹
-
NZ景気回復の足場は乏しく、早期利上げの可能性は一層低下 ~オセアニア通貨は「オージー(豪ドル)」>「キウィ(NZドル)」の様相を強める展開が続くか~
アジア経済
西濵 徹
-
インドネシア中銀、ルピア安定重視へ、総裁も利下げの可能性を撤回 ~中東情勢の悪影響を警戒、中銀の姿勢は正しい一方、政府との「板挟み状態」が激化する懸念も~
アジア経済
西濵 徹
-
豪中銀が2会合連続の利上げ、追加利上げの行方は不透明に ~決定は「5対4」の僅差で当面は様子見姿勢へ、「有事の米ドル買い」も豪ドル相場の重しとなるか~
アジア経済
西濵 徹

