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2024.11.15
アジア経済
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中国経済
中国、底のみえない不動産不況が景気の足かせとなる展開が続く
~消費は一過性の拡大も、生産活動や投資は力強さを欠き、外需を巡る不透明感にも懸念がくすぶる~
西濵 徹
- 要旨
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足下の中国経済は不動産不況が景気の足かせとなる展開が続き、当局は五月雨式に景気下支えに向けた方策を公表している。今月開催された全人代常務委員会では、総額10兆元規模の対策が公表された。10兆元はGDP比8%弱に達するなど規模感は高まる一方、その内容は実需を喚起する内容ではなく短期的な景気押し上げ効果は未知数である。さらに、当局が目指す隠れ債務の抑制に充分かも不透明である。足下の不動産市況は依然調整の動きが続くなど家計消費の足かせとなるとともに、デフレ圧力を招く懸念も高まっている。市場は催促を強めるなかで、当局は先行きも小出しの政策対応を続けると見込まれる。
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10月の経済指標を巡っては、小売売上高は前年比+4.8%と伸びが加速するも疑義が生じる内容となっている。国慶節連休や独身の日セールの影響が押し上げに繋がる一方、高額消費は力強さを欠く対照的な動きが確認される。一方で鉱工業生産は前年比+5.3%とわずかに伸びが鈍化するも、外需に駆け込みによる押し上げの動きが確認されるなかで生産が下支えされる動きがみられる。他方、不動産需要の低迷は関連財の生産の重石となるなど、分野ごとの跛行色が鮮明になっている。また、固定資産投資は年初来前年比+3.4%と横這いで推移しており、過剰生産能力が懸念されるなかで国有企業を中心とする設備投資が下支えする展開が続く。ただし、不動産投資は引き続き低迷しており、商業用不動産やオフィス関連の低迷が足かせとなっている。不動産市況の動向は家計消費のみならず、幅広い経済活動を通じて景気を左右するが、現時点では先行きの見通しが立ちにくい状況にあることは変わらないと捉えられる。
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足下の中国経済を巡っては、深刻化する不動産不況が景気の足かせとなる状況に直面するなか、当局は9月末以降に五月雨式に景気下支えに向けた方策を公表するなど、政策の大転換を図る考えをみせている。しかし、政策の方向性としては、金融緩和と財政出動による総合的な対応を通じて経済成長率目標の実現を後押しするとの姿勢をみせるも、財政出動については具体的な額などを示さず、実体経済をどれほど後押しするか見通しの立たない状況が続いてきた。よって、一連の対策のなかで公表されたPKO(株価維持策)を好感して長きに亘り調整局面が続いた中国本土株は大きく底入れする動きをみせたものの、その後は早くも上値が抑えられるなど『息切れ』が意識されてきた。こうしたなか、今月4~8日の日程で開催された全人代(全国人民代表大会)常務委員会では、事前報道においてリークされていた通り10兆元(GDP比8%弱)規模の対策が公表された。その内訳は、向こう3年間を対象に地方政府が特別債の起債を通じて調達可能な負債額を総額6兆元増額し、当該資金を住宅在庫の圧縮と満期を迎える傘下の地方融資平台(LGFV)が抱える債務返済に充てる。さらに、地方政府は向こう5年を対象に中央政府が承認した起債を通じて年0.8兆元ずつ債券を償還し(総額4兆元)、いわゆる『隠れ債務』と称するLGFV債務や融資の返済に充てる(注1)。これらを併せて景気対策の規模を『10兆元』としたほか、財政部の試算では昨年末時点における隠れ債務の規模が14.3兆元に及んでおり、これを2028年末までに2.3兆元に圧縮することで地方政府の債務負担を軽減するとともに、景気下支えに向けた余力が生まれるとの見方を示している。他方、IMF(国際通貨基金)は昨年末時点におけるLGFV(地方政府傘下の地方融資平台)が抱える債務が60兆元に達しているとの試算を公表しており、仮にこちらの数字が実態であれば、10兆元の債務圧縮を実現したとしても債務負担の圧縮は軽微なものに留まると予想される。なお、上述のように金融市場では「政策に売りなし」という相場格言に沿う形で中国本土株は底入れするなど活況を呈する動きをみせているほか、調整が続いた不動産市況も一部の大都市で底打ちする動きもみられる。10月の主要70都市における新築住宅価格は全体として下落が続く一方、前月比が下落した都市数は63都市と前月(66都市)から減少するなど改善の兆しはみられるものの、依然として二級都市や三級都市では下落に歯止めが掛からない展開をみせている。足下の物価は資産デフレをきっかけにディスインフレ圧力が強まるとともに、本格的なデフレに陥る可能性が高まっている。不動産価格は一部の都市で新築住宅に下げ止まりの兆しが出る一方、実勢価格に近い中古住宅では下げ止まらない展開が続いていることを勘案すれば、事態は一段と厳しさを増していると捉えられる。その意味では、家計部門の資産の7割を住宅が占めるなかでその市況低迷に歯止めを掛けることができなければ、結果的に逆資産効果の影響がくすぶるとともに、若年層を中心とする雇用回復の遅れも重なる形で家計消費の足を引っ張る流れが続くことは避けられない(注2)。上述のように金融市場では息切れが意識されるなか、今後は今月下旬に開催予定の共産党中央政治局会議、来月に開催予定の中央経済工作会議といった主要な会議の日程に向けて『催促』の様相を強めることが予想され、当局は市場の期待を繋ぎ止める観点から小出しの対応をみせる展開が続くと見込まれる。

こうしたなか、上述したように9月末以降における株価上昇による家計消費への影響のほか、10月は国慶節連休が重なることから例年家計消費が喚起されやすい時期であるなどその動向に注目が集まるなか、10月の小売売上高(社会消費支出)は前年同月比+4.8%と前月(同+3.2%)から加速しており、年明け以降では1-2月(同+5.5%)以来の高い伸びとなるなど底入れが確認されている。ただし、前月比は+0.41%と前月(同+0.56%)から拡大ペースが鈍化しており、その印象は異なるのが実情であろう。さらに、前月比ベースの動きをみると過去に遡る形で修正されるとともに、概ね上方修正されているものの、昨年10月(+0.64%)に比べて拡大ペースが鈍化しているにも拘らず前年比の伸びが加速しているのは理屈が通らないと捉えられる。なお、今年の独身の日(11月11日)に関連するEC(電子商取引)サイトの大規模セールは10月14日にスタートしており、その影響も重なる形で10月のECを通じた小売売上高は年初来前年比+8.8%と前月(同+8.6%)から伸びが加速するとともに、小売売上全体に占める割合も25.9%と前月(25.7%)から上昇しており、家計部門が財布の紐を固くするなかでセールに対する需要が活発化している様子がうかがえる。財別でも、連休シーズンを反映して食料品(前年比+10.1%)は堅調な推移をみせているほか、セールの時期が重なったことで化粧品関連(同+40.1%)、家電・音響機器関連(同+39.2%)、体育・娯楽用品関連(同+26.7%)、文化・事務用品関連(同+18.0%)、通信機器関連(同+14.4%)などが需要を押し上げた様子がうかがえる。しかし、建築資材(前年比▲5.8%)は依然前年を下回るなど不動産需要の弱さが足かせとなっているほか、宝飾品(同▲2.7%)も弱含みするとともに、高額の外食も下振れするなど高額品に対する需要が低迷していることを示唆している。その意味では、家計消費を取り巻く環境は依然として厳しいと捉えられる。

このように内需を取り巻く状況は依然として厳しい展開をみせるなか、10月の鉱工業生産は前年同月比+5.3%と前月(同+5.4%)からわずかに伸びが鈍化しており、景気をけん引している供給サイドの動きに変化が現れている。前月比も+0.41%と前月(同+0.59%)から拡大ペースは鈍化しているものの、比較的堅調な推移をみせている様子がうかがえる。なお、上述のように小売売上高については過去1年に亘って季節調整値が修正されるとともに、軒並み上方修正されているものの、鉱工業生産についてはすべて据え置かれており、季節調整値がどのような形で計算されているのか疑義が残る。他方、内需を巡る状況は厳しさを増す展開が続く一方、足下の外需は欧米などに加え、新興国においても中国製品に対する追加関税の付加が検討される動きが広がりをみせるなか、そうした影響を掻い潜るべく駆け込みの動きが活発化しており(注3)、それが生産活動を下支えしている可能性が考えられる。分野別では、冬場のエネルギー需要の高まりに対応する形で鉱業部門(前年比+4.6%)の生産の伸びが加速するとともに、外需の堅調さを反映して製造業(同+5.4%)の伸びも加速している一方、うちハイテク関連製造業(同+9.4%)については伸びが鈍化しており、先行きの外需を取り巻く環境に不透明感が高まっていることが影響しているとみられる。企業分類別でも、香港・マカオ・台湾資本企業(前年比+2.9%)で伸びが加速する動きがみられるものの、株式会社(同+5.9%)、民間企業(同+4.8%)、国有企業(同+3.8%)のいずれにおいても鈍化しており、幅広く生産活動が頭打ちの動きを強めている様子がうかがえる。財別でも、需要拡大の動きを反映してEV(電気自動車)をはじめとする新エネルギー車(前年比+48.6%)は引き続き高い伸びをみせるとともに、国内外における投資需要の高さを反映して産業用ロボット(同+33.4%)、太陽光電池(同+13.2%)、発電装置(土+14.2%)も同様に高い伸びが続くなど、過剰生産能力が意識されやすい状況にある。また、習近平指導部が目指す内製化の動きを反映して集積回路(前年比+11.8%)の生産も堅調な推移をみせているほか、スマートフォン(同+6.1%)をはじめとする携帯電話(同+7.2%)の生産も堅調に推移している。他方、不動産需要の弱さを反映してセメント(前年比▲7.9%)や板ガラス(同▲6.0%)はともに前年を下回る推移が続いているほか、非鉄金属関連(同+0.6%)も力強さを欠く推移が続くなど、不動産不況が幅広い経済活動の足かせになっている様子がうかがえる。

また、不動産需要の低迷による不動産不況や、それに伴う不動産投資の低迷の動きは固定資産投資の足かせとなる展開が続いており、10月の固定資産投資は年初来前年比+3.4%と前月(同+3.4%)から3ヶ月連続の伸びとなる展開をみせており、当研究所が試算した単月ベースの前年同月比の伸びも+3.4%と前月(同+3.4%)から横這いで推移している。ただし、前月比は+0.16%と前月(同+0.54%)から拡大ペースが鈍化しており、緩やかに底入れの動きが続いているものの、その勢いに陰りが出ている様子がうかがえる。なお、実施主体別では国有企業(年初来前年比+6.2%)で伸びが加速している一方、民間投資(同▲0.3%)はマイナス幅が拡大する動きがみられるなど、足下の投資活動は国有企業が積極的に行うなかで民間企業の存在感が低下する『国進民退』色が一段と強まっていると捉えられる。さらに、対象別でも設備投資関連(年初来前年比+16.1%)で高い伸びが続いているほか、建設関連(同+3.6%)も伸びがわずかに加速する動きがみられるなど、足下の中国を巡っては欧米などが過剰生産設備を警戒する姿勢をみせているものの、依然として国有企業を中心に設備投資が活発化するなど一段と過剰感を強めている可能性も考えられる。さらに、不動産投資は年初来前年比▲10.3%と前月(同▲10.1%)からマイナス幅が拡大しており、当研究所が試算した単月ベースの前年比の伸びも▲12.2%と前月(同▲9.4%)からマイナス幅が拡大して2ヶ月ぶりの二桁となるなど頭打ちの動きを強めている。種類別では、住宅向け(年初来前年比▲10.4%)でわずかにマイナス幅は縮小するも、商業用不動産(同▲13.9%)やオフィス向け(同▲7.0%)でマイナス幅が拡大しており、商業用不動産の低迷が一段と深刻化している様子がうかがえる。なお、不動産景況感指数は92.49と前月(92.40)から+0.09pt上昇するなど4月を底に緩やかに上昇しているものの、依然として昨年を下回る水準に留まるとともに100をも大きく下回っていることを勘案すれば、回復の道のりは引き続き厳しいと捉えることができる。その意味では、不動産市況を巡る動きは家計消費のみならず、幅広い経済活動の行方を左右するとともに景気の浮沈のカギを握るとみられるものの、現時点においては先行きの見通しが立ちにくい状況にあることは変わらないと判断できる。

注1 11月11日付レポート「「10兆元」対策で中国経済が直面する問題は解消するか」
注2 11月1日付レポート「雇用回復なくして中国経済の本格回復はあり得ない」
注3 11月7日付レポート「「トランプ時代」の再来で中国の貿易環境はどうなるか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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