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2024.11.01
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雇用回復なくして中国経済の本格回復はあり得ない
~財新製造業PMIの動きは「雇用なき回復」を示唆、根本的な問題への対応は喫緊の課題に~
西濵 徹
- 要旨
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このところの中国金融市場では、当局による景気刺激策や株価維持策を好感して主要株式指数は大きく底入れする動きがみられた。足下では頭打ちするなど「息切れ」の様相をみせる一方、報道では関係者の話として巨額の財政出動に動くとのリーク記事が出ている。しかし、その内容は直接的な需要押し上げに繋がるものではなく、効果は未知数である。他方、不動産在庫や地方政府債務が巨額に上るなか、金融緩和と財政出動による時間稼ぎを図りつつ、その間にこれらの処理を着実に進める取り組みが求められる。
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景気刺激策を受けた金融市場の活況の動きは大企業を中心に企業マインドの底入れを促しているが、10月の財新製造業PMIも50.3と底入れが確認されている。内需向けの受注回復を追い風に生産は底入れの動きを強めるも、外需を巡る環境は依然厳しい状況は変わらない。また、足下の生産底入れの動きは見切り発車的に進んでいる可能性を示唆する動きもみられる。他方、生産拡大にも拘らず雇用調整圧力が強まるなど、コロナ禍以降の近代化投資を受けて「雇用なき回復」が現実化している可能性も高まっている。
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このところの中国経済では不動産不況に加え、若年層を中心とする雇用不安が内需の足かせとなり、デフレ圧力を招く要因となっている。株価は底入れするも、雇用不安は不動産市況の重石となるなど逆資産効果解消への道筋を描きにくくする可能性はくすぶる。不動産市場を巡る問題と同様に、雇用を巡るミスマッチの解消に向け、金融緩和と財政出動による時間稼ぎの間に着実な取り組みを図ることが求められる。
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このところの中国金融市場を巡っては、当局が景気減速の元凶となってきた不動産不況への対応を目的とする景気刺激策に加え、株価低迷の長期化による逆資産効果の脱却を目指してPKO(株価維持策)を五月雨式に公表していることを受けて、主要株式指数は大きく底入れするなど活況を呈する動きをみせている。なお、主要株価指数は一連の景気刺激策への期待を受けて底入れしたものの、足下では早くも頭打ちするなど『息切れ』の様相をみせており、その背景には景気刺激策を巡る規模に加え、その効果に対する不透明感がくすぶることが影響している。こうしたなか、景気刺激策と同様に『関係者』によるリーク記事が相次いで報道される展開が続いており、当局が金融市場の抱いている期待を繋ぐことに必死になっている様子がうかがえる。なお、足下では今月4~8日の日程で開催予定の全人代常務委員会において、向こう数年間を対象に総額10兆元規模の国債の追加発行を検討している旨の記事が出ている。10兆元はGDP比8%弱に達するなどマクロ的なインパクトもそれなりに大きいと捉えられる一方、一連のリーク記事ではうち6兆元は地方政府が傘下の融資平台を通じて抱える簿外債務のリスク対応に、4兆元が遊休地の買い取りなどに用いられるとされており、直接的な需要の押し上げに繋がるものではなく、短期的な景気押し上げ効果は未知数と捉えられる。さらに、株価は底入れするなどPKOの効果は現れているものの、家計部門の資産に占める株式の割合は高くないなか、7割を占めるとされる不動産価格の底入れが進まなければ逆資産効果の払しょくに繋がるとは見通しにくい。そして、不動産在庫は少なく見積もっても昨年末時点で15兆元に達していると試算されるほか、地方政府の債務残高は昨年末時点で40.7兆元、それ以外にも融資平台を通じて多額の簿外債務を抱えていることを勘案すれば、10兆元という数字は一見大きいものの、事態打開にはほど遠いものとなる可能性がある。その意味では、金融緩和や財政出動を通じて『時間稼ぎ』を図ることは重要ながら、その間に膨張している不動産市場や債務の処理に向けた対応を着実に前進させることが不可欠であることは間違いない。

なお、一連の景気刺激策を受けた金融市場の活況を追い風に、国有企業をはじめとする企業マインドが改善する動きが確認されており(注1)、同様の効果は民間企業にも現れている様子がうかがえる。S&Pグローバルが公表した10月の財新製造業PMI(購買担当者景況感)は50.3となり、前月(49.3)から+1.0pt上昇して2ヶ月ぶりに好不況の分かれ目となる水準(50)を上回るなど、頭打ちの動きが続いた景気を取り巻く環境が改善していると捉えられる。足下の生産動向を示す「生産(51.8)」は前月比+1.6pt上昇するとともに4ヶ月ぶりの水準となるなど底入れの動きを強めていることが確認されているほか、先行きの生産に影響を与える「新規受注(50.7)」が同+3.2ptと大幅に上昇して2ヶ月ぶりに50を上回る水準となるなど、内需を巡る状況が改善していることが生産を押し上げている。一方、「輸出向け新規受注(49.5)」も前月比+1.1pt上昇するなど底打ちの動きを強めているものの、3ヶ月連続で50を下回る水準で推移しており、中国の過剰生産能力や経済安全保障の観点などを理由に欧米などが中国製品に対する追加関税を課す動きがみられ、中国による『デフレの輸出』を警戒した新興国の間でも同様の動きが広がっており、外需を取り巻く環境は依然として厳しい状況にある。また、中国当局が景気刺激策を公表して以降、国際金融市場では非鉄金属関連を中心に商品市況が底入れしており、そうした状況を反映して「投入価格(50.1)」は前月比+2.5pt上昇して3ヶ月ぶりに50を上回るほか、「購買量(51.0)」も同+1.7pt上昇して4ヶ月ぶりに50を上回る水準となる動きもみられる。さらに、原材料価格の上昇などコスト増を受けて「出荷価格(50.1)」も前月比+1.4pt上昇して4ヶ月ぶりに50を上回る水準となるなど、価格転嫁の動きが広がる流れもみられる。ただし、生産拡大の動きを強めるも「最終財在庫(51.4)」は前月比▲0.4pt低下しているものの、依然として50を大きく上回る水準で推移しており、需要回復が遅れるなかで見切り発車的に生産拡大の動きを強めている可能性が考えられる。また、生産活動は大幅に底入れしているにも拘らず「雇用(47.6)」は前月比▲1.6pt低下するなど雇用調整圧力が強まる動きが確認されており、製造業ではコロナ禍を経て産業用ロボットなど近代化投資が活発化するなかで「雇用なき成長」の様相を強めている様子もうかがえる。

このところの中国経済を巡っては、不動産不況による逆資産効果に加え、コロナ禍を経た若年層を中心とする雇用不安が家計消費をはじめとする内需の重石になるとともに、デフレ懸念を招く要因となっている(注2)。こうしたなか、政府統計においても企業マインドの回復が確認されているにも拘らず、製造業、非製造業問わず幅広い分野で雇用調整圧力がくすぶるなど雇用を取り巻く環境には依然として不透明感が漂う。沿海部を中心とする民間企業においては雇用調整圧力が強まるなど、若年層を中心とする雇用環境は一段と厳しさを増していると捉えられる。こうした状況は、仮に当局が保障性住宅など安価な住宅の供給を増やす対応を強化したとしても、住宅需要のボリュームゾーンとなる若年層の雇用不安が購買意欲を削ぐこととなり、その結果として市況の低迷に拍車が掛かる悪循環を招く可能性に繋がる。なお、ここ数年の全人代では雇用政策を経済政策の柱のひとつに掲げるなど重視する展開が続いているものの、現実には当局による積極的な旗振りにも拘らずその効果が一向に現れていないことを意味している。よって、こうした状況を好転させるためには、不動産市場を巡る問題と同様に、金融緩和や財政出動といった小手先の対応のみならず、雇用を巡るミスマッチの解消に向けた構造転換を促す取り組みも必要になっていることは間違いないと言えよう。
注1 10月31日付レポート「中国、景気刺激策の効果で景況感底打ちも不透明要因は依然山積」
注2 10月15日付レポート「中国でデフレ懸念が一層深刻化、景気対策の行方はどうなる?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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