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ベトナム、国家主席にクオン氏、異例の昇格で政治的安定を目指す

~党最高指導部は公安と国防のバランス、不安定要因となってきた政治的安定を築けるか~

西濵 徹

要旨
  • ベトナム国会は21日、共産党序列2位の国家主席にクオン氏を充てる人事を決議し、就任した。クオン氏は人民軍出身で党政治局員としては1期目ながら、党最高指導部の四柱の選出を巡る慣例(2期以上)を外れる異例の昇格となった。この背景には、ここ数年の党内で高官が相次いで更迭されてきたことが影響している。クオン氏の昇格に伴い、党最高指導部は公安部出身のラム氏と国防部出身のクオン氏のバランスが採られた格好である。このタイミングでの人事は再来年の次期党大会を睨んだものと捉えられる。足下の景気は外需と旺盛な投資が底入れを促す展開が続く一方、台風による甚大な被害の影響が懸念されるなか、政治安定を背景にした経済の立て直しが急務となっている。他方、足下では米ドル安一巡によりドン相場は再び最安値をうかがう難しい状況に直面する。政治安定の行方に注目が集まる展開が続くであろう。

ベトナム国会は21日、共産党の序列2位であり、憲法上の国家元首に当たる国家主席にルオン・クオン党書記局常務を充てる人事を決議し、同日付で就任した。クオン氏は北部のフート省出身であり、ベトナム戦争中の1975年に人民軍に入隊し、長く共産党と人民軍との『橋渡し役』となる政治将校を務めた後、人民軍の最高幹部である政治総局主任などを歴任した。さらに、2011年には党中央委員、2021年には党政治局員に選出されるなど党内における出世階段を駆け上がり、今年5月には党最高指導部に当たる党書記長、国家主席、首相、国会議長の4人(四柱)に次ぐ党内序列5位の党書記局常務に就任した。他方、共産党内ではここ数年、7月に逝去した前党中央委員会書記長(党書記長)のグエン・フー・チョン氏が主導した「反腐敗・反汚職」運動の下で多数の政治家や高官が事実上更迭されており、昨年からの1年半ほどの間には党政治局員のうち計7人が辞任する異常事態が続いてきた。結果、四柱の人事を巡っては、5年ごとに選出される党政治局員のうち選出歴が2期以上となる人物を充てることが慣例とされてきたものの、政府高官の相次ぐ更迭を受けて、2021年に党政治局員に選出された1期目のクオン氏が選出される異例の昇格となった。なお、人民軍出身者が国家主席に就任するのは1992年に就任したレ・ドゥック・アイン氏以来であり、南シナ海問題を巡って周辺国との間で対立が激化する動きがみられるなか、クオン氏は就任演説で防衛・安全保障分野の強化に注力するとともに、独立した多面的な外交政策を推進する方針を示している。国家主席を巡っては、グエン・スアン・フック氏、ボー・バン・トゥオン氏と2代連続で相次いで事実上更迭された後、今年5月にチョン前党書記長の側近であったトー・ラム氏が就任するも、7月にチョン氏が逝去したことを受けて、8月にラム氏が党書記長と兼務してきた。今回の人事により四柱のトロイカ体制が再び構築されるとともに、公安部出身のラム氏と人民軍(国防部)出身のクオン氏が党最高指導部人事を構成するにより権力バランスが均衡することとなる。このタイミングで国家主席人事を決定した背景には、上述のように共産党内ではここ数年、多数の政治家や高官が相次いで更迭されるなど人事面での不安定さが懸念される状況が続いてきたなか、再来年(2026年)に予定される第14回共産党大会に向けて早期に安定を図りたいとの思惑がうかがえる。他方、共産党内では経歴や出身地などを背景にした複数の派閥が存在するなか、過去には派閥争いが激化する動きが見られたことも影響してバランスに配慮する人事配置がなされてきた経緯があるものの、クオン氏は北部、且つ人民軍出身ということでチョン前体制同様にバランスが崩れる展開が続く。足下の景気は旺盛な外需と活発な対内直接投資の流入の動きをけん引役に底入れの動きを強める展開が確認されているものの(注1)、先月初めに同国北部を直撃した台風11号(ヤギ)によって洪水被害や土砂崩れといった甚大な被害が生じており(注2)、先行きの景気に悪影響が出る懸念もくすぶる。こうしたなかで早期に政治の安定を図るとともに、経済の立て直しに向けた行動を着実に前進させることが急務となっており、党内抗争を収束させることができるかがカギを握る。他方、米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ実施を受けた米ドル安の動きはここ数年調整の動きを強めてきたドン相場を巡る状況を変化させたものの、足下では米ドル安の動きが一巡するとともに、米ドル高が再燃するなかで再び最安値をうかがうなど政策運営は難しい舵取りを迫られることが予想される。ベトナムはここ数年の米中摩擦の背後でその『漁夫の利』を受けるとともに、足下の景気はアジア新興国のなかでも最も勢いを増す動きをみせる国のひとつであり、経済を巡る不透明要因となってきた政治安定を図ることができるかが注目される。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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