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2024.09.18
新興国経済
新興国金融政策
ロシア経済
ロシア中銀は戦時下も2回連続利上げ、官僚の悩みは尽きず
~プーチン氏に戦争を止める誘因はない一方、今後もテクノクラートは尻拭いをさせられる展開が続くか~
西濵 徹
- 要旨
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- ロシア中銀は13日に開催した定例会合で政策金利を100bp引き上げて19.00%とする決定を行った。ロシアでは戦時経済が長期化しているが、欧米などの経済制裁にも拘らず様々な「抜け穴」が存在し、軍需産業の拡大も追い風に景気は底入れして影響を克服している。他方、戦時経済や労働需給のひっ迫、制裁の影響も重なりインフレは加速しており、足下では開戦直前の水準で推移している。中銀は年明け以降タカ派姿勢を強め、7月には5会合ぶりの利上げに動いたが、インフレの高止まりを警戒して2会合連続の利上げに動いた。プーチン大統領は兵力増強を決定したが、労働需給のさらなるひっ迫を招く懸念は高まる。足下のロシアは戦時経済が景気を下支えし、プーチン氏もウクライナ戦争を自ら止める誘因がない一方、テクノクラートがその尻拭いをさせられる状況が続く。足下の企業マインドは比較的堅調な推移をみせる展開をみせており、ウクライナ戦争が一段と長期化する可能性は充分にあると考えられる状況と捉えられる。
ロシア中銀は、13日に開催した定例会合において政策金利を100bp引き上げて19.00%とする決定を行った。ロシア経済を巡っては、2022年2月に始まったウクライナ戦争が未だに収束の見通しが立たないなど、いわゆる『戦時下』の状況にある。戦争開始直後においては、欧米などの経済制裁強化の動きを受けて景気に大幅な下押し圧力が掛かる事態に直面した。しかし、コロナ禍やウクライナ戦争を機に世界的に分断の動きが広がるなかで、ロシアは欧米などと離反する一方で中国やインドをはじめとする新興国との貿易が拡大しており、結果的に欧米などの経済制裁の『抜け穴』となっている。さらに、戦争長期化を受けてGDPの1割弱という一大産業である軍事関連産業は活発化しており、結果的にその後の景気底入れを促す一助となっている。他方、戦時経済が長期化するなかで国民の間に不満が高まることが懸念されるなか、プーチン政権は社会保障の拡充などバラ撒き政策に動くことで不満を抑えるとともに、3月の大統領選で勝利して通算5期目入りを果たしている(注1)。このように足下のロシア経済は軍事産業や公的支出の拡大など公的部門への依存を強めるとともに、外需を巡っても新興国向けの原油や肥料などの輸出拡大に加え、欧州向けの原油やLNG(液化天然ガス)輸出の堅調さも景気を下支えしている。結果、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+2.1%と8四半期連続のプラス成長で推移するなど着実に底入れの動きが確認されるとともに、実質GDPも開戦前を上回る水準となっていることが確認されるなど、ロシア経済は欧米などによる経済制裁の影響を克服していると捉えられる。このように一見するとロシア経済は堅調な推移をみせているものの、その背後ではインフレが高止まりする展開が続くなど国民生活に少なからず悪影響を与える事態に見舞われている。景気底入れの動きが続いていることに加え、戦時経済の長期化や動員に伴う労働者不足が労働需給のひっ迫を招いており、折からの人口減少、テロを警戒した入国管理厳格化の動きが周辺国からの移民流入の重石となるなど労働力拡大の動きが細っていることも重なり、賃金上昇圧力が強まる動きがみられる。さらに、米国がロシアと取引する外国銀行を対象とする二次的制裁に動く方針を示したことで貿易決済が複雑化して輸入コストが押し上げられていることもインフレ圧力を招いている。そして、戦時経済の長期化や直後に中銀が実施した大幅利上げが国民生活に悪影響を与えたことを受けて、プーチン政権は低利の住宅ローン供与を目的とする補助金給付を実施するも、結果的に不動産バブルを通じてインフレ圧力を増幅させたため、政府は7月に当該政策の打ち切りに追い込まれている。直近8月のインフレ率は前年比+9.1%、コアインフレ率も同+8.4%とともに中銀目標(4%)を大きく上回るとともに、ウクライナ戦争直前の水準をも上回っており、食料品など生活必需品を中心に物価上昇が続いているほか、賃金上昇の動きや海外渡航が禁止されるなかで消費意欲が活発化していることも幅広く物価を押し上げる展開が続く。よって、中銀は年明け以降に物価抑制に向けてタカ派姿勢を示したほか、7月の定例会合で5会合ぶりの利上げに舵を切り(注2)、2会合連続の利上げに動いた格好である。会合後に公表した声明文では、足下の物価動向について「全体としてインフレ期待は依然高く、基調インフレの慣性を高めている」との見方を示すとともに、労働市場を巡って「ひっ迫状態を受けて製造業で労働力不足が深刻な状況が続くなか、賃金の伸びは労働生産性の伸びを上回る推移が続いている」との認識を示すなど、インフレ圧力の強さを示唆する考えをみせている。その上で、先行きのインフレリスクについて「大幅に上向きに傾いており、インフレ期待が持続的に高く、ロシア経済が均衡の取れた成長軌道から上振れしていることに伴うリスクは依然高い」との見方を示すなど、インフレの高止まりを警戒している様子がうかがえる。プーチン大統領は16日に軍の通常兵力を18万人増強して150万人とする大統領令に署名しており、労働需給の一段のひっ迫を招くことによりインフレ圧力が高まる可能性も懸念される。足下のロシアは戦時経済によって景気が下支えされており、大統領選で圧勝したプーチン氏は表面的に国民からの支持を得たことも追い風にウクライナ戦争を自ら止める理由も見出せない一方、その綻びが様々なところで表面化するなかでテクノクラートが『尻拭い』をさせられる状況が続いている。足下の企業マインドは一時的に下振れしたサービス業で回復の動きが確認されるなど堅調な推移をみせており、今後も戦時経済が一段と長期化する可能性も充分に考えられる状況にあると捉えられる。



注1 5月8日付レポート「ロシア・プーチン政権が通算5期目入り、終身化を念頭にした対応が必要」
注2 7月29日付レポート「ロシア中銀、戦時経済下も5会合ぶりの利上げ、追加利上げも示唆」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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