インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

韓国・4-6月GDPは外需主導で前期比年率+2.51%と堅調を維持

~好調な景気の一方、政局を巡る動きは日韓関係の行方にも影響を与える可能性~

西濵 徹

要旨
  • イラン情勢を受けた原油高や供給懸念により、エネルギー輸入依存度の高い韓国ではインフレ圧力が強まり、省エネ対策やナフサ輸出規制などの対応が講じられた。しかし、食料インフレやウォン安も物価上昇を後押ししており、中銀は3年半ぶりの利上げに踏み切った。一方、企業統治改革やAI・半導体関連株への期待を背景に株価は上昇したものの、指数が一部の大型半導体株に偏重しているため、市場変動は大きくなっている。
  • 原油高やインフレが内需の重荷となる一方、AI・半導体関連投資を背景とする輸出や設備投資が景気を支え、4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.51%と堅調なプラス成長を維持した。家計消費は高インフレや雇用環境の悪化で力強さを欠くものの、外需主導の成長が続いている。政府は半導体・AI分野への大規模投資を推進する姿勢を示しており、2026年の成長率は直近の政府見通し(3%)を上回る可能性が高まっている。
  • 統一地方選では李政権を支える与党・共に民主党が勝利したものの、ソウル市長選で野党候補が勝利するなど党内外の政治対立が続いている。8月の党代表選は李政権の求心力を左右する重要な局面であり、支持率低下や有力政治家を巡る司法判断も政局の不安定要因となっている。今後の政局の展開は、改善基調にある日韓関係にも影響を及ぼす可能性がある。
目次

【足元の金融市場や実体経済は好悪双方の材料が混在している】

イラン情勢の悪化をきっかけとする原油の供給懸念や価格上昇は、原油やLNG(液化天然ガス)の輸入の多くを中東に依存する韓国経済に悪影響を及ぼすことが懸念された。韓国の原油や石油製品、天然ガスの貿易収支はGDP比▲5.3%の赤字と試算されるため、価格上昇はマクロ面で景気の下押し要因になると見込まれる。さらに、韓国の一次エネルギーに占める原油と天然ガスの割合を合わせると55%に達する一方、原油備蓄は実質的に70日分にとどまるとされた。このため、3月末以降は自動車利用の抑制策のほか、在宅勤務拡大による移動削減、公的部門での節電呼びかけなど、政府主導による省エネキャンペーンが実施された。一方で、供給懸念の高まりを受けて、国内の需給安定を図るため、3月末から5ヵ月間を対象に石油化学製品の原料であるナフサの輸出を原則禁止した。一方、原油高によるエネルギー価格の上昇を受け、6月のインフレ率は前年比+3.2%と中銀目標(2%)を大きく上回る伸びとなっている(図1)。

図表
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足元のインフレ加速は、イラン情勢の悪化による化学肥料の供給懸念に加え、エルニーニョ現象による異常気象も重なり、食料インフレが進んでいることも影響している。加えて、金融市場では通貨ウォン安基調が続き、輸入物価の上昇もインフレ圧力を一段と強める要因となった。韓国ではここ数年、若年層を中心とする個人投資家が外国株など海外資産への投資を拡大させており、ウォン安圧力を強めてきた。このため、当局はウォン安の阻止に向け、NDF(ノン・デリバラブル・フォワード)取引の監視を強化した。しかし、こうした当局の対応は、指数算出会社のMSCIが同国の市場区分を「新興国」に据え置く要因のひとつとなった。その後は通貨の交換性を高めるべく、7月6日からオンショア市場で実質24時間、ドルとウォンの外国為替取引が可能になっている。また、中銀はイラン情勢やウォン安がインフレを招くことを警戒して、7月の定例会合で3年半ぶりの利上げに舵を切るとともに、追加利上げにも含みを持たせるタカ派姿勢を示した(注1)。足元のウォン相場は利上げや為替市場改革を追い風に持ち直しの動きをみせているものの、依然として安値圏で推移している(図2)。

図表
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一方、株式市場では6月に主要株価指数(KOSPI)が最高値を更新するなど活況を呈してきた。背景には、李在明(イ・ジェミョン)政権が尹錫悦(ユン・ソンニョル)前政権の実施したコーポレートガバナンス(企業統治)の取り組みを維持したことがある。加えて、李政権は韓国企業の相対的低評価(コリアディスカウント)の解消に向け、商法改正などの施策を強化した。具体的には、取締役に対し、企業だけでなくすべての株主に対する受託責任や説明責任を求めるほか、財閥企業においてオーナーなどの大株主を優遇する不合理な合併やスピンオフを抑制し、少数株主の利益を保護するための制度整備を進めた。また、アクティビスト(物言う株主)や個人投資家が、企業の意思決定に関与しやすい環境の整備も進められた。

加えて、景気をけん引する世界的なAI(人工知能)・半導体関連投資の拡大期待が時価総額上位の半導体関連株が株価上昇の動きをけん引した。ただし、KOSPI構成銘柄全体の時価総額に占めるサムスン電子とSKハイニックスの2社の比率が約5割に達しており、KOSPIは両社の株価動向に大きく左右されている。その結果、足元のKOSPIはピークから2割以上下落するなど、市場の変動を大きくする要因となっている(図3)。

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【足元の景気は半導体を中心とする輸出の堅調さがけん引役に】

足元の韓国経済を巡っては、インフレに加え、イラン情勢をきっかけにした供給懸念対応が幅広い経済活動の足かせとなることが懸念された。その一方、世界的なAI・半導体関連投資の活発化が追い風となり、主力の輸出財である半導体関連が輸出拡大の動きをけん引するとともに、設備投資を押し上げる動きもみられる。このように、足元の景気には強弱双方の材料があるなか、4-6月の実質GDP成長率は、前期(同+7.53%)が5年半ぶりの高成長となった反動が懸念されたものの、前期比年率+2.51%とプラス成長を維持している(図4)。前年同期比では+3.7%と前期(同+3.8%)からわずかに鈍化するも、2四半期連続で3%を上回る伸びとなるなど堅調さがうかがえる。

図表
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前期は相互関税の本格発動を前にした対米輸出の駆け込みに加え、その後の相互関税廃止に伴う実質的な税率引き下げも対米輸出を押し上げたため、その反動が懸念されたものの、半導体関連を中心に財輸出は堅調に推移した(図5)。さらに、ウォン安を追い風とする外国人来訪者数の堅調さに加え、エンターテインメント関連を中心とするサービス輸出の旺盛さが外需を下支えしている。外需の堅調さを追い風に、AI・半導体関連を中心とする設備投資も旺盛な動きをみせる一方、中銀の利上げ観測の高まりなどを反映して建設投資は鈍化しており、投資活動のあいだにばらつきが生じている。なお、政府は低所得者層を対象に1人当たり10万~60万ウォンの現金給付のほか、燃料価格の上下規制を約6ヵ月維持するなど物価対策に動いたものの、若年層を中心に雇用環境が厳しさを増しているうえ、インフレによる実質購買力の下押しも重なり、家計消費は伸び悩んでいる。このため、足元の景気は外需がけん引役になる様相を強めている。

図表
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李大統領は6月末にAIと半導体を軸とする新産業戦略を発表した。具体的には、同分野を主導するサムスン電子とSKハイニックスが同国南西部に計800兆ウォン規模を投資し、各々2ヵ所の半導体製造拠点を新設することを明らかにした。加えて、政府も2029年までにAIデータセンター向けに550兆ウォンを投資するとともに、2035年までに計1,000兆ウォン超の投資を目指す方針を示すなど、一連のAI関連投資の促進を図る方針を明らかにした。政府は今月、世界的なAI・半導体ブームを追い風とする外需の堅調さを材料に、2026年通年の経済成長率見通しを+3.0%に引き上げた。なお、上半期の成長率が堅調な推移をみせたため、政府は年後半の経済成長率が平均で▲0.1%を上回れば、通年で3%成長を達成可能との見方を示しており、さらなる上方修正が行われることが予想される。このため、2026年の経済成長率はコロナ禍からの景気回復が進んだ2021年(+4.6%)以来の高い伸びとなる可能性は高い。

【堅調な景気の一方で、政局の動きは日韓関係の行方にも影響し得る】

6月に李大統領は就任から丸1年を迎えた。政権への「中間評価」と目される統一地方選挙と国会議員補欠選挙では、政権を支える革新系与党・共に民主党が全体として勝利を収めた(注2)。李政権の外交方針は、国益に基づく「実用外交」を掲げるとともに、就任以降は日本とシャトル外交を展開するなど、良好な関係構築が進んでいる。しかし、李氏は与党・共に民主党内では非主流派とされ、主流派の鄭清来(チョン・チョンレ)前代表などは李政権の政策運営を公然と批判してきた。こうしたなか、統一地方選で政治的に最も重要とされる首都ソウル特別市長選挙では、保守系最大野党・国民の力から出馬した呉世勲(オ・フセン)氏が勝利を収めたため、党内では主導権争いが激化している。

背景には、共に民主党は8月17日に新代表を選出する党大会の実施を予定していることがある。新代表選には計5人が出馬しているが、世論調査で有力視されるのは、李氏に近い金民錫(キム・ミンソク)前首相、鄭前代表、そして宋永吉(ソン・ヨンギル)元代表の3人とされる。党代表は次期大統領選や総選挙の公認権を握るなど党内における影響力が絶大であり、その行方は李政権の求心力にも影響を与える。李政権に対する支持率は低下傾向にあるが(注3)、足元では党内の主導権争いを理由に、政権、与党に対する支持率がともに低下する動きが確認されている。一方で、ソウル特別市長の呉氏は、2021年に実施された補欠選を前に実施された世論調査に関連する政治資金法違反の罪に問われており、一審で罰金1,000万ウォン、追徴金2,100万ウォンの有罪判決を受けた。呉氏は控訴する意向を示しているが、判決が確定すれば失職するため、裁判の行方は政局にも少なからず影響を与える可能性がある。これらの行方を含め、韓国政界を巡る動向は、良好な展開をみせる日韓関係にも影響を及ぼす可能性があり、引き続き注視する必要がある。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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