インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

米国がブラジルに25%の関税発動、通商政策の不確実要因となるか

~ブラジルは経済相互主義法に基づく報復へ、米国の通商政策が世界経済をかく乱するか~

西濵 徹

要旨
  • USTR(米通商代表部)は7月15日、ブラジルの不公正な貿易慣行への対抗措置として、同国からの輸入品に25%の関税を課すと発表した。ただし、米国経済への悪影響を避けるため、牛肉やコーヒー、レアアース、エネルギー、航空機部品など多くの品目を適用除外とした。

  • トランプ米政権は、通商政策を通じてブラジルへの圧力を強めてきた。背景には、ルラ政権による中国への接近や、ボルソナロ前大統領に対する有罪判決への反発がある。しかし、高関税措置は米国のインフレ懸念を招き、食品などへの追加関税の撤廃に追い込まれた。今回も適用除外品目は当時とほぼ重なり、米国経済への打撃を避けたいとの思惑がうかがえる。

  • ルラ大統領は今回の措置に正当性はないと反発し、経済相互主義法に基づく対抗措置の発動手続きを開始するとともに、WTOの枠組みを通じて問題の再検討を求める方針を示した。米国による圧力は、10月のブラジル大統領選において、ボルソナロ前大統領の長男でトランプ氏が支援するフラビオ上院議員をかえって苦境に追い込む可能性もある。

  • 世論調査では、ブラジル国民の米国に対する好感度は中国とほぼ並び、信頼できるパートナーとみなす割合では中国が米国を上回った。今回の懲罰的関税は、ブラジルでの米国の影響力低下を一段と後押しするおそれがある。また、USTRは日本を含む数十ヵ国への貿易調査を進めており、米国の通商政策が世界経済のかく乱要因となる可能性に注意が必要である。

USTR(米通商代表部)は7月15日、ブラジルからの輸入品に対して、22日以降に25%の関税を課すと発表した。USTRは2025年、通商法301条に基づいて同国の不公正貿易慣行に関する調査を開始した。調査の結果、USTRは6月、デジタル貿易、関税、知的財産、エタノール市場へのアクセス、森林破壊に関する同国の政策が米国の通商を制限していると判断し、25%の懲罰的関税を課すことを提案した。ただし、牛肉、コーヒー、レアアース、その他の金属、エネルギー、航空機部品など2,000以上の品目を適用除外とした。

トランプ米政権は2025年、通商政策を通じてブラジルへの圧力を強めた。背景には、トランプ米政権が「ドンロー主義」を標ぼうし、中南米諸国への介入を強めていることがある。ボルソナロ前政権の下でブラジルは米国(トランプ第1次政権)に接近した。しかし、2023年にルラ政権に交代した後は一転して中国への接近を強めた。さらに、ボルソナロ氏は大統領退任後、2022年の大統領選での敗北後に発生したクーデター未遂事件を計画した容疑で逮捕・起訴された。これを受け、米国は公判の妨害を目的として、ブラジルへの相互関税を50%に引き上げた。その後、ボルソナロ氏は禁錮27年3ヵ月の有罪判決を受け、トランプ氏はこれを批判した。しかし、ブラジルに対する高関税は米国のインフレを招く懸念が高まったため、米国は2025年11月に食品などへの追加関税を撤廃し、ブラジルはトランプ関税に対する「実質的勝利」を収めた。今回の適用除外もその内容とほぼ同じであり、米国への悪影響を回避したいとの思惑がうかがえる。

USTRのグリア代表は発表に際して、今回の措置について、米国の労働者と企業が公正な条件の下で競争できるよう、不公正な貿易慣行に対処するために必要と説明した。そのうえで、過去1年にわたる協議を経てこれらの問題は解決されなかったとする一方、米国はさらなる協議に前向きであるとした。一方で、米国のルビオ国務長官は、ブラジル政府は米国と誠意をもって協議を行わず、同国のルラ大統領が国民の福祉のための合意より自身のエゴを優先したと批判した。これに対し、ルラ氏は米国の決定に正当性はないと反発した。加えて、SNSを通じて2024年に成立した経済相互主義法(他国からの不当な高関税や経済的制限に対して同等の報復措置を講じることを可能にする法律)に基づく措置発動の手続きを開始し、WTO(世界貿易機関)の紛争解決メカニズムの枠組みで問題を再検討する方針を明らかにしている。

ブラジルでは、10月4日に大統領選挙(第1回投票)が実施される。世論調査では、左派の現職ルラ氏とボルソナロ氏の長男である右派のフラビオ上院議員による決選投票となる可能性が高いとされる。このため、トランプ氏はボルソナロ氏の事実上の後継であるフラビオ氏を公然と支援する姿勢をみせてきた。しかし、フラビオ氏に関するスキャンダルが発覚し、支持率が低下しているうえ、国民の間にトランプ氏への反発が強まるなか、フラビオ氏は「板挟み」状態に直面してきた。こうしたなか、フラビオ氏は支持者への演説のなかで米国による懲罰的関税に異議を唱えたとの報道も出るなど、通商政策を通じた圧力がかえって米国の影響力低下を招く懸念も出ている(注1)。

米調査機関ピュー・リサーチ・センターが7月15日に公表した米中両国に対するイメージに関する調査では、ブラジル国民にとって米国への好印象(47%)が2014年時点(64%)から大きく低下し、中国への好印象(46%)と拮抗していることが示された。リーダー個人に対する好印象については、トランプ氏(30%)が中国の習近平国家主席(22%)を上回っている。しかし、内政干渉の度合いについては、米国(76%)が中国(50%)を大きく上回るとともに、信頼できるパートナーも中国(40%)が米国(36%)を上回っている。この結果からは、ブラジル国内で米国の影響力は着実に低下している様子がうかがわれ、懲罰的関税はそうした動きを後押しする可能性がある。

今回の関税措置は、トランプ大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に連邦議会の承認を経ずに相互関税を発動したことは違憲とする判決を、今年2月に米連邦最高裁が下し、相互関税が無効とされたことへの代替措置として始まった経緯がある。USTRは、中国や欧州連合(EU)、インド、日本、韓国、メキシコを含む数十ヵ国に対して貿易調査を開始しており、今後はこれらの国々に対する懲罰的関税が発動される可能性がある。足元の世界経済を巡っては、イラン情勢の長期化による悪影響が懸念される状況が続いているが、米国の貿易政策の行方もかく乱要因となり得ることに注意が必要である。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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