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徹底解剖!アメリカ大統領選2024(10) ~メキシコへの影響~

西濵 徹

目次

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Q. アメリカ大統領選、メキシコにはどう影響する?

A. アメリカ大統領選の結果が最も直接的にメキシコに影響する分野としては移民政策が挙げられる。バイデン現政権の移民政策を巡っては、トランプ前政権から方針を大きく転換させるとともに、その実現に当たってはハリス副大統領が担う展開が続いてきた。なお、ハリス氏の移民政策への対応については、その対応の遅さに加え、現時点においても十分な成果を挙げることができていないことに対する批判が少なくない。しかし、バイデン氏が大統領選からの撤退とともに、ハリス氏を大統領候補に推す方針を明らかにしたことを受け、ハリス氏が民主党の大統領候補となる可能性が高まっている。仮にハリス氏が大統領選に勝利した場合、移民政策については現状の対応が続くものと予想される。その一方、トランプ前大統領は移民政策を再転換させた上で、抜本的な新規制の導入に動く方針を示しており、具体的にはメキシコ国境における亡命を制限するとともに、「米国史上最大」の強制送還に動く考えをみせる。さらに、その実現に向けて州兵のほか、必要に応じて連邦軍の動員も示唆しており、強制送還を目的とする収容所の設置に動く可能性も排除しない姿勢もみせる。不法移民対策の実効性を高めるためにはメキシコ政府の協力が必要不可欠であり、メキシコに対して強力な措置を求めるなど圧力を強めることは避けられないと予想される。他方、メキシコではロペス=オブラドール政権が掲げる憲法改正案のなかに、国家警備隊の改組、および機能強化を謳う内容が盛り込まれており、隣国のグアテマラからの不法移民への対応強化をも含めた対応を強化する可能性が指摘されている。メキシコの動きは米国の移民政策の行方にも影響を与えると予想され、単純にメキシコにとってマイナスになるとは言い切れないのが実情であろう。

Q. 通商政策によるメキシコ経済への直接的な影響は?

A. バイデン現政権は、中国による不公正な貿易慣行の是正を目的にした追加関税の引き上げに動くとともに、中国製品が迂回貿易による関税逃れを行う「抜け道」を防ぐ動きをみせている。現状はメキシコからの鉄鋼やアルミニウムの輸入には関税が免除されているが、中国製品がメキシコを経由することによる関税逃れを阻止すべく、関税の免除対象を鉄の熔解作業について米国、メキシコ、カナダのいずれかの国、アルミの鋳造について中国、ロシア、ベラルーシ、イラン以外の国で行われたものに限定する大統領布告を公表した。他方、近年は米国周辺でサプライチェーンを再構築するニアショアリングを追い風に、メキシコでは対内直接投資が活発化する動きがみられるものの、中国企業によるメキシコへの投資についても関税逃れを目指した動きとの見方が強まっている。なかでもバイデン現政権は不公正な貿易慣行の是正を目的に通商法301条に基づく対中追加関税の引き上げに動いており、なかでも電気自動車(EV)については関税率が25%から100%に大幅に引き上げられる。しかし、メキシコで生産された安価な中国メーカーのEVによる米国市場への参入を警戒する向きがみられるなか、バイデン氏もトランプ氏もともに「中国製品の排除」という観点でみれば同じ対応を取る考えをみせており、ハリス氏も同様の対応をみせる可能性は高いと見込まれる。よって、中国企業による対内直接投資に対しては様々な形で圧力が強まると見込まれるものの、同国への対内直接投資は米国やカナダ、EU諸国、日本など主要国からの流入が大宗を占めることを勘案すれば、直接的な影響は限定的と見込まれる。他方、トランプ氏はさらなる保護主義姿勢の強い姿勢をみせており、すべての輸入品に対して一律で10%の課税を行う方針を示している。仮にこうした対応が取られた場合、メキシコ経済にとってはGDP比で2.7%強に上る関税負担が生じるとともに、輸出の8割以上を米国向けが占めるなかで製造業を中心とする幅広い産業に悪影響が出ることは避けられない。

Q. 2026年に控えるUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の再協議の行方は?

A. 2020年に発効したUSMCAは協定発効から6年目となる2026年に参加する3ヶ国で見直し協議を行うことが盛り込まれており、トランプ氏は相手国との「ディール(取引)」を重視する姿勢をみせていることを勘案すれば、見直し協議に際してメキシコに対して様々な要求を突きつけることが予想される。しかし、NAFTA(北米自由貿易協定)からUSMCAへの衣替えに際しては、具体的な協定内容を巡ってはほぼ変わりがない形で合意がなされたことを勘案すれば、再協議を経ても大幅な変更には至らない可能性も考えられる。なお、10月に発足するシェインバウム次期政権は、見直し協議を担当する経済相にUSMCAの協議を担当した前外相のエブラルド氏を据える方針を示しており、協議の継続性と安定性を重視する構えをみせている。ハリス氏とトランプ氏を巡っては、他国との協議の手法や方向性などで大きく異なる動きをみせることが予想されるものの、隣国であるメキシコとの決定的な関係悪化は自らに悪影響を与える可能性が高く、最終的には穏当な形での決着を図るものと見込まれる。

Q. アメリカ大統領選の結果はメキシコペソ相場にどう影響する?

A. メキシコペソ相場については、大統領選の行方が米国とメキシコの安全保障、貿易、移民政策などに影響を及ぼすとの警戒感を反映して、短期的には調整の動きが強まる可能性は高いと見込まれる。他方、メキシコペソ相場は米FRB(連邦準備制度理事会)の政策運営の影響を最も受けやすく、利下げが意識されるとともに米ドル高圧力が後退すればメキシコペソ相場の追い風となる可能性もある。ただし、このところの金融市場では、ロペス=オブラドール政権が掲げる憲法改正案における年金改革など財政悪化に繋がる施策を警戒してメキシコペソ相場の重石となる動きもみられる。トランプ前政権時代のメキシコペソ相場を巡っては、メキシコに対する強硬な姿勢を警戒して大きく調整するも、その後は実体経済の堅調さなどを追い風に一転して底入れした。しかし、先行きはメキシコの憲法改正の行方などが調整した後の相場の行方に影響を与える可能性に留意する必要がある。

Q. ハリス氏とトランプ氏、どちらの方がメキシコにとってプラスになる?

A. 短期的な視点で捉えた場合、これまでの議論でもみられたようにトランプ氏はディールを重視して「高い球」を投げる手法を取ってきたことを勘案すれば、その刃がメキシコに対して強烈に向かう可能性は高い。しかし、トランプ前政権におけるメキシコとの関係は当初懸念された状況に対して悪化しなかったことを勘案すれば、単純にマイナスとなると結論付けることは難しいのが実情であろう。他方、ハリス氏はバイデン現政権の路線を踏襲することが予想されるものの、中国に対する姿勢が間接的にメキシコに対する政策にも影響を与え得ること、移民問題や通商問題を巡って対立する可能性がくすぶることを勘案すれば、プラスに働くとも見通しにくい。よって、一概にプラス、マイナスを判断することは難しくなっていると判断できるであろう。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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