- 要旨
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8月1・2日の両日で、日経平均株価は▲3千円以上も下がった。そこには、日銀の追加利上げとさらに、先々の利上げ観測が高まったことに触発された部分がある。日銀の利上げそのものが実体経済に与える影響は小さくても、玉突き現象のようにその効果は大きくなり、株価を押し下げてしまった。
バタフライ効果
蝶が羽ばたくような小さな攪乱でも、遠くの場所では嵐を巻き起こすことがある。これをバタフライ効果と呼ぶ。
日銀は、7月31日に追加利上げを決めた。植田総裁は、記者会見で「利上げが経済に与える影響は?」と聞かれて、「実質金利で考えれば、非常に深いマイナスだから、強いブレーキが景気にかかるとは思っていない」と応じた。しかし、それは違ったようだ。8月2日の日経平均株価は、前日比▲2,216円も下がった(図表1)。8月1日は前日比▲975円だから、両日で▲3千円以上ということになる。日銀は、僅か+0.15%の利上げだから影響は少ないと思ったかもしれないが、実際は米国での利下げ示唆とシンクロして、より大きな日米金利差の縮小を意識させた。これは、円キャリー取引の解消につながる。日米金利差が縮小して、以前ほどは金利差の利益が稼げなくなったため、一旦取引を解消させる動きがあったということだ。その結果、円高が予想外に大きく巻き起こった(図表2)。


株価が急落するのは、そこで生じた円高が跳ね返ってきたからだと理解できる。円キャリー取引を解消するのは、個々の投資家にとっては合理的だが、それが市場全体で合成されると、システミック・リスクになって株安を促す。誰も望まない結果を導くのが、合成の誤謬と言われる現象だ。
日銀は、こうした市場に内在する自己崩壊メカニズムをもっとよく知悉して、事前に利上げの予想をゆっくりと織り込ませることをした方がよかったかもしれない。FRBの方は、9月利下げをすでにFOMCでアナウンスしている。こちらは用意周到にみえる。
今回の追加利上げは、筆者にとっては予想通りだったが、そこで巻き起こされた円高は想定外だった。筆者は、日銀の追加利上げという薬は少し効きすぎたと感じている。おそらく、追加利上げそのものは、政府とも協調した円安阻止のためのものだったと考えられる。しかし、市場参加者たちに事前に利上げを織り込ませることが十分でなかったこともあり、予想外のショックになったと思う。後講釈になるが、そこはもっと用意周到に行動すべきだったかもしれない。
4か月のインターバル
日銀の追加利上げがショックを与えたのは、現在の利上げ幅だけではなく、先々の予想を変化させたからだろう。次の追加利上げを意識させたということである。
経緯を述べると、日銀は3月にマイナス金利を解除し、7月末に追加利上げを行った。4か月間という短いインターバルでの利上げであった。これから4か月後というと、12月になる。自然に「次の利上げは12月なのか?」と思ってしまう。日程表を確認すると、12月19日が12月会合の2日目になる。2024年内の会合(政策発表日)は、9月20日、10月31日、12月19日となる。あと2回の会合で経済・物価情勢を点検し、オン・トラックであれば、粛々と利上げをする構えなのだろう。
7月31日の植田総裁の記者会見での発言を拾ってみると、次の利上げを示唆するようなものがあった。「(データ次第ではあるが)それがある程度の蓄積になれば当然次のステップに行く」とか、「ある程度見通し通りであることが判断できれば、そこで次の判断をしていく」と述べている。筆者は、為替レートを見ながら、政府・日銀が円安阻止に動く必要性が生じてくれば、次の利上げの蓋然性を高めるとみている。現時点で、12月を次の利上げの時期だと特定するのは時期尚早だろうが、そこが1つの目途にはなるだろう。
どこまでの利上げなのか?
植田総裁は、記者会見で今後の利上げの上限について聞かれると、極めて歯切れが悪かったと感じた。多分、明確には答えたくないのだろう。
判断材料を探すと、実質金利や中立金利という概念に絡んだ発言内容がキーワードになる。例えば、「実質金利で考えれば(今は)非常に深いマイナス」だと評している。2024年6月のコアCPIの前年比が2.6%なので、政策金利0.25%からそれを差し引いて、▲2.35%が実質金利になる。実質金利ゼロを目指すということであれば、今後+2.35%ポイントもの利上げの余地があることになる。
中立金利については、潜在成長率が「0%台後半」だと述べている(7月の展望レポート)。潜在成長率=実質中立金利だとすれば、0.50~1.00%が実質中立金利になる。ここに期待インフレ率を2%だと仮想すると、名目中立金利は2.50~3.00%になる。その中間の値を取ると2.75%になる。つまり、現状の0.25%から+2.5%ポイントの利上げ幅がイメージされる。いずれの数字も+2%台半ばであり、似通っている。
しかし、日銀の利上げの最終着地点が2.5~3.0%と聞くと、ほとんどの市場参加者は「かなり高いですね」と応じるだろう。筆者もそれほどは引き上げないと思う。理由は、2%台の政策金利に中小企業が耐えられないからだ。直感的には、日銀の利上げの最終着地点は1.00%だろう。0.25%から1.00%まで、おそらくは3回の利上げが必要になる。筆者の予想では、2024年12月に次の追加利上げを行って、2025年内にもう2回の利上げが実施されるというシナリオになるだろう。
ショックは落ち着くか?
ごく短期間で日経平均株価が▲3千円以上も下げると、それは投資家にとってトラウマになる。今後の投資行動を慎重にさせるということである。現状、日経平均株価が4万円台を回復するのは時間がかかりそうだ。
今後の株価が4万円台に戻るには、いくつかの条件がある。株価下落には、米国から波及した部分が小さくない。米ISM製造業指数が予想外に悪化して、これまでの回復トレンドが変わったのかと感じさせた。限界的な雇用情勢も悪化している可能性がある。仮に、米経済が悪化しているときには、9月に開始されるFRBの利下げが何回か継続される見通しになろう。それが米株価を押し上げることになれば、米株価の持ち直しを受けて、日本の株価も戻るだろう。
日銀については、追加利上げをしようとするのならば、それを事前に織り込ませることが大切だ。利上げについても、予見可能性を高めるという対応をお願いしたい。
熊野 英生
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