エコノミストの経済・投資の先を読む技法 エコノミストの経済・投資の先を読む技法

原油高騰と連動して値上がりする品目

~消費品目への減少圧力~

熊野 英生

要旨

今後、原油高によって、様々な品目への値上がり圧力が生じてくるだろう。本稿では、原油価格との相関関係が強い品目について、食料品と非食料品に分けてデータ分析をしてみた。魚介類は、原油との相関が高く、実質消費が減少しやすい結果になった。こうした負の作用にどう対処するかを考えると、すぐに有効なものは日銀の追加利上げによる円安是正に限られるだろう。

食料品への影響

イラン攻撃は、原油高騰を引き起こしている。商品市況としてよく使われる米WTIよりも、ドバイ原油の方が大きく上がっている(図表1)。日本が輸入するほとんどは中東産なので、ドバイ原油の高騰は極めて痛い。そこで、消費者物価の品目に関して、ドバイ原油との相関関係を調べてみた(ドバイ原油は3か月前の価格)。

図表
図表

まず、食料品の品目で原油価格変動との関連性が特に高いものは何だろうか。高い相関係数のベスト10では、①まぐろ、②いくら、③たこ、④食用油、⑤あさり、⑥混ぜごはん、⑦さけ、⑧たい、⑨紅茶、⑩小麦粉という品目が並んでいる(図表2)。一目瞭然であるが、魚介類が上位を占める。まぐろは遠洋漁業で取れる。だから、燃料費が嵩んで、他の魚介類よりも原油高騰の影響を受けやすいのだろう。いくらは、さけと同じで北海道で多く取れ、やはり漁獲・輸送の課程で多くの燃料を使う。たこは、その輸入物に関して主にアフリカ沖で取れるようだ。魚介類は全般的に、原油価格と連動して上昇しやすい。

図表
図表

食用油は、大豆・菜種などがバイオ燃料に使われて、原油高騰が起こると、食用の収穫物がバイオ燃料用に振り向けられる。だから、原油との代替効果によって値上がりしやすい。小麦粉は、化学肥料を使うために間接的に原油高騰の影響を受けるようである。

次に、総務省「家計調査」(2人以上世帯)の実質消費の前年比が、ドバイ原油の前年比(3か月遅れ)とどのくらい相関しているのかを、食料品の品目別に調べてみた。すると、やはり魚介類の品目には逆相関のものが多かった。つまり、原油高で魚介類の品目の価格が上がるときに、実質消費が手控えられる品目があるということだ。ししゃも、いくら、さんま、たこ、あさりは負の相関係数が大きかった。先の価格の相関係数が高かった魚介類の品目には、いくら、たこ、あさりがあった。そうした品目は、原油高騰の打撃を大きく受けそうだ。需要の価格弾性値が高いということだ(需要が価格に敏感)。魚介類以外では、大豆加工品、油脂、卵も原油価格高騰時に抑制されやすい品目であった。

食料品以外の品目

原油価格との連動性が高い品目(非食料品)には、ガソリン、灯油、ガス、電気代がある。これは、言うまでもない結果だろう。では、そうしたエネルギー以外の品目と連動性が高いものには何があるのだろうか。

意外なのは、①たばこが上位にきたことである(図表3)。次に、②プリンター用インク、③学校制服、④自転車、⑤ビタミン剤、⑥家具、⑦モップレンタル料、⑧自動車タイヤ、⑨住宅修繕材料、⑩予防接種料、が挙げられる。ここでは、どうしても説明が付かないものは除いている。

図表
図表

①のたばこは、例えば収穫した葉たばこを乾燥させるのに多くの燃料を使用する。②プリンター用インク(油性インク)は、石油由来の有機溶剤を原料にしている。④自転車は、タイヤ部分が合成ゴムである(⑧自動車用タイヤと共通する)。⑤ビタミン剤も非常に意外である。石油由来とは言えないものもあるが、合成ビタミンについて、例えばビタミンCなどは中国産の輸入品が多いとされる。⑩予防接種料は、注射器がプラスチック製であるからだろう。ここからわかるのは、私たちが気が付きにくいところに、石油由来の品目が数多くあるということだ。昔は、「日本経済は石油の上に浮かんで成り立っている」と言われた。その状況は多かれ少なかれ、今も根本的には変わっていないことが改めてわかった。

では、非食料品の品目について、総務省「家計調査」の実質消費の前年比が、ドバイ原油の前年比と逆相関の品目にはどんなものがあるのだろか。すると、意外だったのは、教養娯楽用耐久財が最も負の相関が強かった。原油が高騰すると、教養娯楽用耐久財に強い節約圧力が働くのだ。これは、パソコンやその周辺機材もある。ここでは、価格に反応した需要減ではなく、所得効果によるマイナス作用が起きているとみられる。わかりやすく言えば、実質賃金=実質所得が切り下がるとき、不要不急の消費品目が節約されるということである。

筆者は、データ分析をするときに、ときどき人間の直感では思い当たらない事実を分析結果から洗い出すことに成功して、驚くことがある。この結果はまさしくその体験の一例である。この教養娯楽用耐久財について詳しく中身を示すと、パソコン、ビデオレコーダー、テレビ、楽器、携帯型音楽・映像機器などが挙げられる。原油高騰で実質所得が減ったときは、特にこうした娯楽用耐久消費財に節約圧力がかかってくる。

データ分析をすると、原油高騰によって逆方向の値下がりが起こる品目もある。値下がり=価格抑制が働く品目には、携帯電話の通信費があった。これも、節約指向が通信費=携帯料金に強くかかってくるからだろう。ほかにも、トレーニングパンツ、ゴルフクラブにも値下がり圧力がかかってくることがわかった。娯楽サービスの中にも節約されやすい品目がある。

原油高対策を問う

現在の原油高騰は、数ヶ月のタイムラグをおいて様々な品目への値上げ圧力へと波及するだろう。そのときに、消費抑制のマイナス効果をどうすれば減殺できるのだろうか。

まず、言えることはガソリン・軽油・灯油などの価格補助では、前述のような幅広い品目への価格高騰の波及は抑え込みにくいという点だ。もっと広範囲に値下げ圧力を働かせるのならば、為替レートを円高方向に動かすことだろう。円安対策と言ってもよい。この点は、今後の日銀の対応にかかっている。円高になれば、輸入する原油全体にも値下げ圧力を及ぼせるはずだ。ドル円レートが1ドル159円から144円になれば、輸入物価には▲10%の押し下げになる。133円まで進めば、輸入物価を▲20%ほど押し下げられる。結果的に魚介類などが燃料費の高騰などで値上がりすることも、いくらか緩和できるはずである。一部にみられる「原油高は困るが、円安は容認してよい」などという考え方は少し違うだろう。

おそらく、政府の価格補助は、限定的な分野への効果に限られてしまう。つまり、広範囲の石油関連品目への物価上昇の波及は止められないから、別のルートで賃金水準を引き上げる働きかけが重要になる。岸田・石破政権が物価と賃金の好循環を目指した方向性は間違っていない。財政出動をしても、経済メカニズムの好循環を動かせなくては意味がない。筆者は、原油高対策とは円安是正こそが、今の日本経済を救うことになると考えている。

熊野 英生


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ