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イラン攻撃の2週間停止、日本経済のシナリオ

~どうなる原油価格~

熊野 英生

要旨
  • 4月8日早朝に、「2週間の停戦で米国、イスラエル、イランが合意」という報道が伝わった。原油市況は下がり、株価は大きく上昇する。一時停戦は、本格的な戦闘収束に向けた交渉の足がかりになるとみられる。

  • 日本の物価上昇は少なくとも2026年内は続くだろう。今後の原油市況WTIは、攻撃前の2026年2月平均64.4ドルよりは上昇するが、90ドルよりは下がってくると期待される。

一時的停戦の合意

米国が2週間の攻撃停止に合意した。イランもイスラエルもこの一時停戦案に同意したという。イランは、ホルムズ海峡の通行を認めている模様である。これに反応して、原油先物価格は下がり、日経平均株価は大きく上げている(図表1)。特に、原油先物WTIは、発表直前の1バレル115ドルから90ドル台へ▲15~▲20%の下落率になる計算である(図表2)。

図表
図表

この2週間の停戦は、米国とイランがより本格的な戦闘収束に向けた交渉の足がかりになると予想されている。もちろん、そこには交渉決裂のリスクも十分にあると思う。それでも、日本にとっては、ホルムズ海峡の内側にいる40隻超のタンカーが海峡外に出られる可能性が高まり、原油供給不安を後退させる。また、原油価格の下落についても、調達コスト上昇に先んじて上がっていた各種石油製品の、ある程度の下落に結びつくだろう。物価下落への消費者心理の改善と、企業の採算改善効果に結びつくだろう。原油の量的制約とコスト高の両面での改善が期待される。

物価シナリオ

日本経済に対するインパクトとして注目されるのは、今後、原油調達コストがどのくらい下がるかにかかっている。攻撃前の2026年2月の原油価格の平均値は64.4ドル(WTI)であった。1バレルが90~99ドルに下がっても、40~54%の上昇率になる。これを国内の消費者物価に引き直すと、+0.6~0.8%の年間ベースの押し上げになる。この値上がりは、すでに実施されているガソリン暫定税率廃止を完全に食ってしまうものだ。また、電気ガス代支援を1~3月並みに年内を通じて実施したとしても、ガソリン暫定税率廃止+電気ガス代支援によって、何とか+0.6~0.8%の原油高のインパクトをおおむね相殺できるくらいになる。2026年度の消費者物価(除く生鮮食品)は前年比2.0%を上回る可能性は高い(2025年実績3.1%)。すでに、3・4月の企業間取引では、供給不安が強く、高値であっても石油関連の原料・素材を前もって手当しておこうという動きが広範化している。このコストアップ効果は、価格転嫁が3~9か月のラグで進むと考えると、少なくとも2026年末までは物価上昇の波は続くとみられる。

今後、停戦の持続性がより確かなものになれば、原油市況は90ドルより下がってもおかしくはない。それでも、攻撃前の64ドル前後よりは値上がりすることは避けられないとみられる。

成長率への影響

2026年内にコスト上昇分の価格転嫁が行われるとすれば、価格転嫁が相対的に遅れる中小企業の採算をしばらくは悪化させることになるだろう。その悪化分はさらに時間をかけて消化されていくだろう。コスト上昇は、燃料コスト、原材料コスト、物流・配送コストなど多岐に亘る。川上の素材業種、加工業種、小売業、各種サービス業へと時間をかけて波及する。末端までの価格転嫁が一巡するには、1年程度を要する。気になるのは、中小企業の賃上げの勢いが価格転嫁の遅れによって、2026・2027年度と鈍ることである。こうした波及効果は、マクロ的な経済試算に頼らなくてはイメージしにくい。内閣府のモデルでは、原油価格20%上昇によって、実質GDPは▲0.1~▲0.2%ポイント程度ほど下がるとしている。原油50%上昇ならば▲0.25~▲0.50%ポイントという計算になる。景気に対してこの下押し圧力は大きい。

しかし、日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査(4月)では、2026年度の経済見通しは実質GDPで0.82%と底堅い見通しである。1月の同じ数字が0.83%、2月が0.87%、3月が0.86%だから、経済見通しはほとんど原油高のマイナス効果を織り込んでいないことがわかる。おそらく、エコノミストたちは原油高の効果については2026年度にかけてじわじわと表面化していくので、内閣府試算のような単純な押し下げ率の適用は動態的な経済予想ではできないとみているのだろう。この点は筆者も同意見であり、原油コストが50%上昇になっても実質成長率が▲0.25~▲0.50%ポイントよりも小幅の押し下げで済むのではないかと考えている。

日銀の動き

2週間の停戦であれば、計算上は4月22日までの安定となる。次回の日銀の金融政策決定会合は4月27・28日に開催され、そこで+0.25%の追加利上げが行われる公算は高まっていると考える。為替レートが、停戦報道の後で若干の円高になっているのは、こうした思惑も影響しているのであろう。もしも、追加利上げでドル円レートが▲5~▲10円の範囲の円高に振れれば、それは計算上輸入物価を▲3~▲6%ほど押し下げることになる。これは前述の物価押し上げ効果を減殺するだろう。

株価は、停戦を契機として戦闘収束の期待が強いので、たとえ日銀が利上げをしてもそのマイナス効果を吸収して、リバウンドの流れは変わらないとみる。高市政権も、敢えて日銀の4月利上げにはストップをかけてこないと筆者はみている。

焦点は、日本の長期金利の方ではないだろうか。停戦報道によって、一時は2.43%まで上がっていたところから、若干の低下になっている。これは、欧米の長期金利がインフレ圧力が和らぐとみて低下する予想が影響している。高市政権がイラン攻撃による経済混乱等に応じるため、大型補正予算を組まなければ、長期金利は安定するだろう。日銀の利上げがあっても、長期金利が安定すれば、設備投資へのマイナスは小さくて済む。金融面では、一時停戦は株高、円安修正、そして長期金利安定というプラス効果が大きい。

熊野 英生


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熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

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