エコノミストの経済・投資の先を読む技法 エコノミストの経済・投資の先を読む技法

円安是正、0.25%への追加利上げ

~7月の日銀決定会合~

熊野 英生

要旨

7月30・31日の決定会合では、①政策金利を0.25%に引き上げることと、②長期国債買い入れの減額が決まった。減額幅は3兆円程度であり、段階的に縮減を2026年1-3月までの期間で進めていく。これは量的緩和の修正にもなる。日銀は、自分たちの経済・物価シナリオの通りであれば、引き続き政策金利を引き上げると言っている。これは結構、刺激的だ。

目次

円安対策で政府と協調

日銀が追加利上げに動いた。3月19日にマイナス金利解除を決めてから、7月31日まで僅か134日しか経っていない。当初の3月時点では、追加利上げのペースはゆっくりと進めると説明してきたが、その方針は完全に見直されたようだ。背景には、政府の円安是正の構えに同調したことがある。7月上旬に政府は為替介入に動いた可能性があるので、その後詰めとして日銀は利上げをした。為替介入の効果は短いので、日銀がより持続性のある政策対応を行ったという訳である。もしも、今後、円安が進めば、政府と協調して早ければ年内12月頃に利上げをもう一度行う可能性も残る。

なぜ円安が進んできたのかという理由には、3月のマイナス金利解除では十分に内外金利差が縮小しなかったことがあるだろう。政策修正が小さすぎたのだ。その意味では、今回の0.10%から0.25%への利上げでもまだ小さすぎる可能性は残る。記者会見でも植田総裁は、小幅なので景気には影響はないと答えていたが、それが諸刃の剣になるということだ。だから、今後、円安が進んでいく可能性は否定できない。そうした状況になれば、日銀はまた動くと考えた方がよいだろう。

長期国債の買い入れ減額

今回、7月会合での決定では、①政策金利の引き上げ以外に、②長期国債の買い入れ減額がある。「原則として毎四半期4,000億円程度ずつ減額し、2026年1-3月に3兆円程度とする」計画だという。日銀は、2024年7月実績で5.7兆円程度を、7四半期かけて2.9兆円程度に減らす予定表を公表している。日銀の保有する長期国債の月平均償還額が6.4兆円程度だとすると、2026年1月以降には残高が毎月▲3.4兆円程度圧縮されることになる。これは量的緩和の是正(QT)を意味する。5月時点で469兆円にも積み上がっている超過準備が、これで徐々に圧縮されていくことになる。

筆者の印象では、日銀が長期国債の買い入れ減額計画を示しているのは、丁寧な対応だと感じた。植田総裁の会見では、事前の市場参加者などからのヒアリングで「予見可能性を示してほしい」という要望があったからだと説明されていた。

また、日銀の説明では、来年6月の会合では国債減額の中間評価を行うとしており、必要があれば適宜計画を修正するつもりだという。長期金利が急上昇するときには、買い入れ額の増額や指値オペなどを実施することも付言している。

さらに、今回の計画よりも先の長期で考えて、どのくらいまで国債買い入れを減額していくのかは、記者会見では「海外中銀の動向をみながら考えていく」としていた。今回の措置はまだ量的緩和の縮小の途中段階なのだと理解することもできる。

日銀の経済・物価見通し

7月の会合は、四半期ごとの展望レポートが発表されるタイミングでもある。追加利上げが決まったのに、展望レポートの数字はあまり変わらなかった。特に、消費者物価(除く生鮮食品・エネルギー)=コアコアCPIは、2024年度の前年比1.9%、2025年度の同1.9%、2026年度の同2.1%と、4月の見通しから全くの不変であった。物価見通しが何も変わらないのに、追加利上げというのはショッキングだ。つまり、日銀はシナリオ通りであれば、「定期的に利上げをします」と言っているに等しい。つまり、植田総裁の説明する基調的なインフレ率が維持されれば、それでもって金利正常化を進める。発表文にも、「今回の『展望レポート』で示した経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」と記述してある。改めて読み直しても、ここの部分の表現は極めて刺激的だ。

おそらく、マイナス金利解除を決めて、植田日銀はレジームを変えたのだろう。データを確認してから、データが強ければ利上げする、という発想は採らない。奇しくも、反対票を投じた中村委員と野口委員は、そうした「データを確認して行動する」派であった。しかし、その考え方は残り7人から反対された。7人の考え方は、「データが予想通りであれば、政策修正を粛々とやっていく」派なのだ。オン・トラックであれば政策を見直すという流儀が、今のレジームである。いつでも政策修正ができるという構えを見せていると思う。

今後の為替レート

今後の金融政策の鍵を握るのは、やはり為替レートである。9月末に自民党総裁選挙があり、岸田首相はそれまでの物価が安定を維持することを期待している。欧州では、国民がインフレに不満を持ち、それが政権交代につながったり、極右政党の躍進を引き起こした国がある。岸田首相はそうした動向を知っていて、円安加速を通じた物価上昇には気をもんでいると予想される。日銀はその意向を汲んでいるとみられる。

今後の為替レートは先が読めない部分が大きい。9月にFRBが利下げ開始をするとしても、11月の米大統領選挙までトランプ候補とハリス候補のどちらが有利かによって為替が大きく動く可能性がある。特に、トランプ候補が有利になれば、米国の潜在的なインフレ圧力が高まってドル高・円安が進む公算が高い。そうなると、日本政府が為替介入を実施して、日銀が再び動くような展開もあり得る。

熊野 英生


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ