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2024.07.22
アジア経済
その他アジア経済
ベトナム・チョン党書記長が逝去、政治安定下で権力移譲が進むか
~ラム書記長代行の下で権力移譲を目指す一方、党内派閥争いが激化するリスクも孕む~
西濵 徹
- 要旨
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- 19日、ベトナム共産党は最高指導者であるチョン書記長の逝去を明らかにした。前日の18日に党内序列2位のラム国家主席が書記長代行を務める方針を明らかにしており、予想外に早く状況が変化した模様である。2011年に発足したチョン体制下では党内の規律強化へ反腐敗・反汚職運動が活発化する一方、その背後で派閥争いが激化した。強権的な政治手法の一方、清廉なイメージで国民からの人気が高いという二つの顔を持つなか、反腐敗・反汚職運動の背後でビジネス環境が悪化して国民生活に悪影響が出る動きもみられる。同国は欧米と中ロの間で「いいとこどり」を目指す動きをみせたが、チョン氏の急逝で外交政策に影響が出る可能性がある。他方、党大会に向けた権力移譲を契機に派閥争いが再燃する可能性もある。「ポスト・チョン」に向けた動きが海外からの資金の動きにも影響を与える可能性に留意する必要がある。
19日、ベトナム共産党は最高指導者である党中央委員会書記長(党書記長)のグエン・フー・チョン氏が逝去したことを明らかにした。チョン氏を巡っては、死去が伝えられる前日の今月18日に病気療養に専念するとともに、党内序列2位の国家主席であるトー・ラム氏が代行を務める方針が明らかにされていたが(注1)、予想外に早く状況が変化した模様である。チョン氏は党内において思想、理論畑を長く歩んできた「保守派」として知られるとともに、社会主義の理論に精通するなかで党最高指導部の政治局員に昇格した後も党内における思想・文化・科学教育工作や理論工作を担当してきた。そして、2011年の党大会において党書記長に就任した後は党内の規律強化を目的に「反腐敗・反汚職」を旗印にした運動を展開する一方、その結果としてチョン氏を中心とする保守派が台頭するとともに、急進派が放逐されるといった派閥争いの様相を呈する動きがみられた。また、党内には経歴や出身地などを背景にした複数の派閥が存在するなか、党中央人事を巡ってはこれらの派閥のバランスに配慮する対応が採られてきたものの、チョン体制の下ではこうしたバランスが崩れてきた。なお、2019年にチョン氏は脳疾患を発症したとされ、その後は度々体調不安説が噂される状況が続いたものの、従来の党規約において党書記長任期は2期を上限とされてきたにも拘らず、2021年の党大会を経て異例の3期目入りを果たした。そして、党最高指導部を巡っては、党書記長を中心に、国家主席、首相、国会議長の4人(四柱)によるトロイカ体制の下で権力集中を避ける仕組みが採られてきたものの、チョン体制下では党書記長に権限が集中する動きもみられた。こうした「強権」的な姿勢がうかがえる一方、チョン氏自身は質素な生活を好むとともに、最高指導者になった後も擦り切れたシャツを好んで着たほか、公営住宅に居住するなど、その清廉なイメージが国民からの高い人気を集める一因になってきたと捉えられる。さらに、権力が集中した後も党の信頼を損なわせる汚職問題への対応は一段と厳格さを増すとともに、昨年からの1年半の間には政治局員のみならず、四柱のなかからも併せて7人が解任、ないし引責辞任に追い込まれるとともに、政治局員に欠員が生じるなど異常事態に陥っている。結果、党や政府内における意思決定が遅れるとともに、新規事業に関わる判断を躊躇する動きが広がるなかでビジネス環境が急速に悪化する動きがみられるほか、インフラ案件の進捗遅延を理由に電力不足が露呈するなど広く国民生活に悪影響が出る動きもみられる。また、ここ数年の同国を巡っては、近年の米中摩擦の激化に加え、コロナ禍やウクライナ戦争などを機に世界的にデリスキング(リスク低減)を目的とするサプライチェーンの見直しの動きが広がるなか、中国に代わる生産拠点として注目を集めるとともに対内直接投資が活発化する動きがみられるほか、足下の景気は堅調な外需に支えられる展開が続いている。しかし、対内直接投資の活発な流入が続く背後では対米輸出の拡大を追い風に対米貿易黒字幅が急拡大しており、米財務省が直近の「為替報告書」において同国を為替操作監視対象リストに加えているほか、11月の米大統領選の行方によっては同国への対応に変化が一段と厳しくなる可能性がある。他方、先月にはロシアのプーチン大統領が同国を訪問して首脳会談を行い、戦略的関係の強化で合意するとともに、石油・ガス、原子力科学、教育などに関する計11の協定書や覚書に調印する一方、直後には米国高官が相次いで同国を訪問しており、世界的に分断の動きが広がるなかで同国は欧米と中ロの間で『いいとこどり』を目指す姿勢を隠さない。今回、チョン氏の急逝を受けて当面は党書記長代行を務めるラム氏が2年後(2026年)に控える次期党大会(第14回ベトナム共産党全国大会)に向けたつなぎ役となることが見込まれる一方、次期党大会後の最高指導部人事の行方は見通せない。現在の党政治局員人事を巡っては、ラム氏をはじめとする公安部出身者が全体の3分の1を占めるなど権力基盤を固める動きをみせているものの、ここ数年の党内勢力図を大きく変えてきた反腐敗・反汚職運動を旗振りしてきたチョン氏が居なくなったことで、権力移譲への動きをきっかけに派閥争いの動きが活発化することも考えられる。他方、派閥争いを抑えるべくラム氏をはじめとする公安部出身者が党内の締め付けを強めることも考えられるが、ラム氏を巡っては反腐敗・反汚職の実働部隊を率いる形で辣腕を振るった背後で党内に敵が多いとされるなか、思わぬ形で足を掬われる可能性もくすぶる。上述のように対内直接投資を巡る環境は厳しさを増しているにも拘らず、政治的な安定性の高さが対内直接投資の受け入れを拡大させる一因になってきたものの、そうした前提が崩れれば資金の流れが大きく変化することも懸念される。足下のドン相場は最安値圏で推移する一方、米ドル高圧力の一服を受けて調整の動きが後退する兆しがみられるものの、「ポスト・チョン」に向けた動きに拠って揺さ振られる可能性に留意する必要性は高まっている。


注1 7月19日付レポート「ベトナム共産党・ラム氏が党書記長代行に、派閥争い激化の懸念も」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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